第6話「ギルド都市への旅立ち」
「さて……そろそろ、行くか」
森の外れ、村を見下ろす小高い丘の上で、悠斗は小さくつぶやいた。
肩にはいつものように、黒猫――クロノが乗っている。
「この村には、もう俺の出番はなさそうだしな」
盗賊の件が落ち着き、人々の生活も安定してきている。
自分が何者であるかを名乗ることはできなかったけれど、
“誰かを助けた”という確かな手応えは、胸の奥に残っていた。
「次は……もっとちゃんと“生きていく”ために、動かないとな」
そう言って背負い直した布袋の中身は、拾い集めたパンの切れ端と、水筒、ナイフ一本だけ。
冒険者としては心もとないが、何もなかった最初に比べれば十分すぎる装備だった。
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舗装のされていない土の道を歩いていく。
遠くには、人の出入りが多いらしい街の門が見える。
この辺りで唯一、冒険者ギルドがあると噂されていた場所――《ルレト》。
「ギルドか……登録できるのかな、俺」
存在を認識されない自分が、組織に所属するなんてできるのか。
そもそも、話しかけても無視される可能性の方が高い。
(ま、試すだけタダだよな)
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門に近づいたその時だった。
「――ねぇ」
唐突に、声がかかった。
悠斗は思わず立ち止まり、振り返った。
誰かに話しかけられること自体が、久しぶりすぎて、心臓が跳ねた。
目の前には、
栗色の髪をゆるく結んだ少女が立っていた。
制服のようなシャツの上に、軽装のマントを羽織っている。
腰には小ぶりな剣。顔立ちは日本人――間違いない。
「……え? 今、俺に……?」
「うん。あ、やっぱりいたんだ。なんかそんな気がしてた」
少女はまっすぐに悠斗を見て、にこりと笑う。
「……え、え、え?」
悠斗は混乱した。
完全にパニックだ。
(だって、スキル《存在薄弱》がある限り、普通の人間には……)
「やっぱり。君、日本人でしょ?」
少女の言葉に、再び時が止まる。
「……うそ、なんでそれ……」
「なんとなく、わかるよ。こっちに来たばっかの頃、私も同じ雰囲気だったから」
少女は軽く胸に手を当てて、言った。
「天川 梓。あまかわ あずさ。君は?」
「……相川……悠斗」
「おぉ、日本人だ。よかった、私だけじゃなかった!」
まるで旧友にでも会ったかのように、あっけらかんと笑う少女。
その様子に、悠斗はようやく「本当に認識されている」ことを実感しはじめる。
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「……でも、どうして見えるんだ?」
問いかけると、梓は小さく首を傾げた。
「わかんない。でもたぶん、私のスキルのせいかな。視覚とか感覚が鋭くなるやつで……“存在しないモノ”に対して、ちょっと鈍感にならないっていうか」
(……“存在しないモノ”って、俺かよ)
悠斗は思わず、心の中で自嘲する。
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悠斗の肩には、いつものようにクロノが乗っていた。
だが梓は特に気にする様子もなく、軽く目を向けるだけだった。
「猫、連れてるんだ。大人しいね」
「ああ、たぶん眠いだけ」
クロノは、興味もなさそうにあくびをひとつして、また目を閉じた。
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「とにかく、私もギルドに行くとこだったんだ。一緒に行こっか?」
「……ああ。よろしく」
肩の力を抜いて笑ったその瞬間、
久しぶりに“普通の会話”をしている自分に気づいて、
悠斗の胸が、ほんの少し温かくなった。
この世界で、初めて自分を「見てくれる」人間と出会った。
その事実だけで、今日という日は、少し特別だった。




