第4話「盗賊の拠点、無血破壊」
「……さて、こっからが問題だな」
少年の救出には成功した。
けれど、あの盗賊たちはまだ森に潜んでいる。
放っておけば、また誰かが犠牲になる。
(ここで終わらせないと)
悠斗は拠点の外――高台の岩の上から、全体を見下ろしていた。
その肩で、クロノが静かにまばたきする。
「どうすれば……俺にできる範囲で、奴らを追い出すには……」
魔法も武器もない。
直接の戦闘力はゼロ。
けれど、認識されない。それは、どんな盗賊でも真似できない力だ。
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小屋の中、盗賊たちは騒然としていた。
「……檻のガキ、逃げたって?」
「どうやって!? 鍵は俺が持ってたぞ!」
「ていうか、お前鍵落としたんじゃねえのか!?」
「違ぇよ! あの猫のせいだってば!」
悠斗は、その“騒乱”を聞きながら、音もなく裏口から侵入した。
狙うのは、棚の奥――地図や書類が散らばる作戦室だ。
(略奪ルート、物資の隠し場所……こういうの、全部使える)
盗賊の中には、整備役や記録係がいるようで、かなり丁寧に“情報”を残している。
悠斗は手帳の束と地図をかき集め、裏口から一度退いた。
そのまま、小屋から少し離れた場所――兵士の見回り路へと移動する。
「……よし、ここに置いておこう」
地面に、地図と手帳を整えて並べる。
その上に、落ちていた盗賊の装備品をわざと置き、目立たせた。
「頼む、誰かに見つけてくれ」
悠斗は息を整えると、そのまま村のほうへ走り出した。
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村に戻ると、すでに少年の脱出は騒ぎになっていた。
助けを求めるように駆け込んできた彼の姿に、人々はざわついている。
「どうやって逃げてきたんだ?」
「神隠し……? 誰かに助けられたのか……?」
少年は混乱しながらも、こう答えた。
「……誰もいなかった。でも、誰かが鍵を……扉の外に、誰かが……!」
それは、形のない“存在”の証言だった。
悠斗はその光景を、村の門の影からじっと見つめていた。
(……声は届かない。名前も呼ばれない。
でも、少なくとも“誰かが助けてくれた”とは思ってもらえた)
それだけで、少しだけ胸が軽くなる。
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その夜、兵士たちが森に入り、例の“情報”を発見した。
地図、物資のリスト、次の襲撃先――
明確な証拠とともに、小屋へ奇襲をかけることになった。
翌朝には、拠点はもぬけの殻。
すでに盗賊たちは夜のうちに逃げ出していたらしい。
だが、地図に残されていた情報を元に、周辺の盗賊団の一斉摘発が行われ、
村はひとまず、平穏を取り戻すこととなった。
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そして――村では、こんな噂が広まりはじめていた。
「誰にも見えない、神様がいるらしい」
「盗賊を追い払った、透明な英雄」
「猫を連れた、黒い影を見たってやつもいる」
悠斗は、その噂を聞きながら、人気のない井戸のそばに座っていた。
クロノはいつものように、彼の足元で丸まっている。
「……なんだよそれ。まるで幽霊じゃん」
つぶやくと、クロノがくるりとしっぽを振った。
(……でも、悪くないかもな)
名前もない。姿も見えない。
だけど誰かが、確かに“存在”を感じてくれた。
それは――
(“何者でもない”自分が、誰かに届いたってことだ)
悠斗はクロノの頭を撫でながら、そっと目を閉じた。
その静かな満足感が、胸の奥にじんわりと広がっていく。




