第13話「訓練場、再び」
朝靄がまだ地面に残る頃、ギルド裏の訓練場には悠斗と梓、そして肩に乗ったクロノの姿があった。
「今日はね、ちょっと実戦っぽく動いてみよう」
梓は訓練用の木剣を両手で握りながら、にっと笑う。
「動画で得た知識しかないけど、イメトレはしてきたから大丈夫。悠斗も無理せずでいいよ」
「……うん」
悠斗も手にした木剣を軽く構える。
本格的な戦いは初めてだが、不思議と不安よりも落ち着いていた。
自分が「見えない」ことが、少しだけ武器に感じられ始めていたからだ。
「じゃあ、合図なしで始めようか。私も《感覚拡張》を使って察知してみるね」
梓のスキルは微細な気配や音を敏感に拾う感知系。
だが、それでも悠斗のスキル《存在薄弱》は、その先を行く。
悠斗が動いた瞬間、梓の目がかすかに揺れる。
(いた——いや、もういない!?)
悠斗の動きは一拍遅れて視界に入ってくる。
風の流れがズレた、そんな感覚。振り返った時には、もう悠斗は背後にいた。
「……今の、本気で驚いた。まったく気づけなかった……!」
「……よかった」
悠斗の息が少し上がっている。
それでも、何かを掴んだような満足そうな顔だった。
「ほんとに、すごいスキルだね。使い方次第では……って、あ」
梓がふと後ろに目をやる。訓練場の入口から、ひとりの青年が現れた。
黒髪の短髪に鋭い目。肩に木剣を担いだその姿は、どこか余裕を感じさせる。
「おはようございます。ゼンさん……でしたよね?」
「……ああ。昨日の新人さんか」
ゼンは軽く顎を上げたが、その目は梓のすぐ横へと向く。
そしてわずかに目を細めた。
「……やっぱり、昨日の“気配”……。実在するんだな」
梓は気まずそうに笑った。
「ええ。一緒にパーティーを組んでる仲間です。見えませんけど、ちゃんといますよ」
「……なるほど。気配だけが残るのも納得だ」
ゼンはそう言って、何事もなかったように訓練場の端へと歩いていった。
(……やっぱり感じてたんだ、昨日も)
悠斗はその後ろ姿を見つめながら、妙な緊張感を覚えていた。
まるで、自分のスキルが少しずつ見破られていくような……そんな感覚。
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訓練を終え、2人は並んでベンチに座る。
クロノが悠斗の肩にそっと移動して、あくびをひとつ。
「……ちょっとずつだけど、戦える気がしてきたかも」
「だね。次の依頼は討伐系、やってみようか」
「……うん。俺にも、できることがあるのかな」
クロノが小さく鳴いた。
まるで、「当たり前でしょ」とでも言うように。




