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第12話「戦いって、こうやるのか?」

ギルド裏手の訓練場は、朝の光が斜めに差し込み始めたばかりだった。

まだ人の気配も少なく、地面は昨晩の霧でわずかに湿っている。


「……想像より広いね。ここ、私も来るのは初めてなんだけど」


梓は背伸びをしながら辺りを見渡し、興味深そうに訓練用の木剣やダミーに目を向けた。

悠斗は、その数歩後ろに立っている。いつも通り、誰にも気づかれていない。


「ギルドの受付で、“朝なら空いてる”って教えてもらったの。自由に使っていいって」


「……ありがたいな」


「まずは間合いを掴む練習しよう。私も知識だけだけど、動画や小説で見た程度には教えられるよ」


悠斗は静かに頷き、梓の目の前まで移動した。

だが梓はその姿を“確信”ではなく、“違和感”として感じ取っているようだった。


「……今、ほんの少し視線を感じたような。いや、気のせいかな」


「気づかれた……?」


「……いや、たぶん普通の人ならスルーしてたと思う。でも、私のスキルがあるからか、なんとなく引っかかるの」


梓は軽く笑いながら、悠斗の方向に視線を向けた。


「でも、こうしてわかるとやっぱり思うよ。悠斗のそのスキル、本当にすごいんだって」


「……慣れてきたのかも」


「うん、だんだん存在が空気みたいになってきてる。相手が気づいた時には、もう間合いの中、ってね」


ふと、訓練場の奥から足音が響いた。

振り向いた梓の視線の先にいたのは、一人の青年。


黒髪の短髪で鋭い目つき。木剣を片手に肩へ担ぎ、気だるそうな足取りながらも動きに無駄がない。


「珍しい顔だな。新人?」


声をかけられたのは、もちろん梓だけだった。

悠斗の隣をすっと通り過ぎても、その存在に気づく様子はまるでない。


「あっ、はい。昨日登録したばかりなんです」


「そうか。ここ、朝なら空いてるからな。昼になると騒がしくなるし、今のうちに体慣らしとくといいよ」


青年はふと梓の横に視線を移した。


「……気のせいか。なんか、風の流れが不自然というか、視界が揺れた気がした」


「……いちおう、隣にいますよ」


梓は苦笑まじりに言った。


「え?」


「見えないかもだけど、パーティーメンバーです。そういうスキルなんです」


青年は目を細めてしばし黙ると、ふっと口角を上げた。


「なるほど。気配が希薄で存在に気づけなかった……ってことか。へえ、変わったスキルだな。俺もちょっとだけゾッとしたよ」


「すみません、驚かせて」


「いや、面白い。潜入系? それとも暗殺系?」


「うーん、本人は普通に行動してるだけで……」


「なるほどな。そういうの、嫌いじゃない。俺はゼン。前衛のファイター。たまにここ使ってる」


「梓です。よろしくお願いします」


「じゃ、またな」


ゼンは軽く手を上げて、悠斗の真正面を通り過ぎていった。


その間、悠斗は微動だにせず、空気のように気配を殺していた。



「……やっぱり、スキルって面白いな」


訓練場を後にしながら、悠斗がぽつりと漏らす。


「うん。特にああいう実戦経験ある人が、気づかないってすごいことだよ」


「少しだけ、“自分がここにいる”って実感できたかも」


梓は横を歩きながら、ちらりと肩に目をやる。


そこには、何も言わずにちょこんと座る黒猫——クロノの姿。


「……クロノもいるし、もうひとりじゃないよね」


猫は相変わらず、気ままに尻尾を揺らしているだけだった。

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