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21.過去からの襲来

 次の日。

 ──セヴィに会ったら、謝ろう。

 感情的になったのは良くなかったと。

 そう決意して、フィリアは庭園を散歩していた。

 セヴィがよくいる場所。


 どうしてか、セヴィといる場所がよく被る。

 きっと、似た者同士なのだ。


 人前にいるのが気詰まりで、ふらりと外に出て息を吸いたくなる。

 そんなところが。

 

 庭園には、銀月の国の寒さに耐えられる草花が揃っている。


「あら……」


 ふとフィリアは足を止めた。

 緑の国でよく見ていた黄色い花が、白い雪の中で咲いている。フィリアは慌ててその雪をどけてやった。

 そうすると、花はより一層ぴんと咲いた。


「あなたは……この国でも必死に生きているのね」


 種が自然と運ばれたのか、人為的に植えられたのかは分からない。

 けれど、明らかに厳しい環境で、それでも綺麗な花を咲かせているのがフィリアの胸を打った。


「まるで……私みたい」

 

 フィリアは目を細めた。

 

 こつり、こつり、と後ろから誰かが近づいてくる音が聞こえる。

 足音は軽い。

 ──セヴィではない。


「……だあれ?」


 フィリアは振り向いた。

 そして、大きく目を見開いた。

 

 ──過去は、完全に過ぎ去ったものではなかった。

 闇が近づいてくる。


 フィリアは後ずさった。

 薄暗い部屋のにおいが微かにする。

 そうして、か細い声で呟いた。

 

「お姉様……」


 まっすぐな金髪。鼻の周りに散ったそばかす。猫のように釣り上がった瞳が、ゆっくりと細められた。

 

「久しぶりね、私の可愛い妹ちゃん」


 セレナがひらりと手を振った。


「会いたくて、来ちゃったわ」

 

 ◇


 ──フィリアに会ったら謝ろう。


 そう思って、いつかの日の夜にフィリアと会った月の見えるテラスにセヴィは出た。今は夜ではないから月は見えないけれど。

 息を吸って、吐く。

 すがすがしい冷たい空気が肺に飛び込んだ。


 ここはセヴィのお気に入りの場所。

 立場を忘れて、ただのセヴィになりたいときによく来る場所。

 幼い時からここでは誰とも会ったことはなかった。

 

 どうしてかフィリアと居場所が被って一人になれない日々が続いたけれど。


 俺たちは似ているのかもしれない、とセヴィは思った。

 最初は自分と正反対な姫様だと思っていたけれど、彼女も心の中になにかを隠していて──それを必死に見せまいと振舞っているだけだった。

 

「……来ない、か」


 しばらく待ってみたがフィリアは来ない。

 別の場所に行ってみるかと外を見下ろすと──目下に、見たことのない女がいた。明らかに外の国から来たことが分かる薄いドレスに、ひらひらとした帽子。 女は誰かの腕を引いている。


「……!」


 フィリアだ。

 俯いたフィリアが、女に腕を引かれ、引きずられるように歩いている。


 ──死なせてくれと泣き喚いたことが、光のない部屋に閉じ込められここから出してと泣いたことが、胸が大きくなるのを恨んだ日が……きっと、あなたにはないでしょうから……。


 フィリアにそんな思いをさせた者が誰なのか分からない。

 けれど。

 この世のどこかにそいつはいるのだ。


 ──行かねば。

 助けに、行かねば。

 

 セヴィは身を翻し、階段を下りて行った。

 

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