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『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第二十六の事件:『緑の、マザーボード』篇

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第九十九章『盤上の、プロフェッサー』


デジタル探偵シャドー:第九十九章『盤上の、プロフェッサー』


2025年10月11日、土曜日、午前3時14分。


冴木の、指令は絶対だった。


『世界で、ただ一人の碁打ちを、探す』


その、無謀とも思える、命令を受け、シャドーは、思考のギアを、最大に上げた。


それは、歴史学、数学、情報工学、古典文学…。あらゆる分野の、データベースを横断し、そこに存在する、たった一つの特異点を探し出す、学術研究に近かった。


サイバーセキュリティの、国際会議の出席者リストと、囲碁の歴史に関する、学術論文の執筆者リストを、照合。


ダークウェブの、ハッカーたちが集う、フォーラムの、過去ログと、囲碁のプロ棋士の、対戦記録データベースを、比較。


何億、何十億という、膨大な情報の交差点から、シャドーは、ノイズを消し、線を結び、そしてついに……。

午前4時。夜が、最も深くなる、時間。


シャドーは、ついにたった一つの、名前を探し当てた。


シャドー: 『……冴木。見つけました。あなたの、探している、碁打ちです』


ホテルの、ベッドで仮眠を、取っていた、冴木は静かに、目を開けた。

手元の端末に、シャ-ドーから送られてきた、一枚の、顔写真が映し出される。

そこにいたのは、テロリストとは、程遠い細身で、柔和な表情をした、40代の大学教授だった。


氏名:石田いしだ れん

経歴:京都大学・情報科学研究科・教授。専門は、数学史、及び、ゲーム理論。


シャドー: 『石田教授は、10年前に、『本因坊道策の、棋譜に、おける、数学的、美しさについて』という、論文を、発表しています。そして、さらに、過去を、遡ると…』


シャドーは、もう一つのデータを、表示した。

それは、15年前に忽然と姿を消した、伝説的な、ホワイトハット・ハッカーの、情報だった。


あらゆる企業の、サーバーに侵入しては、その脆弱性を指摘し、一度も金銭を、要求することなく、消えていく、正体不明の天才。


そのハッカーが、使っていた、ハンドルネームは『ロゴス』。


シャドー: 『石田教授が、学生時代に、使っていた、ハンドルネームと、『ロゴス』の、名前が、一致します。……そして、決定的な、証拠として、かつて、『ロゴス』が、ハッカーの、フォーラムに、匿名で、投稿した、暗号化された、書き込みを、発見。解読したところ、彼は、企業の、セキュリティシステムの、欠陥を「本因坊道策の、悪手」に、例えて、論じていました』


間違いない。

大学教授・石田蓮こそが、伝説のハッカー『ロゴス』であり、そして、今回の産業スパイ『バジリスク』の、正体。


「……大学教授、か」


冴木は、その知的な顔を、見つめながら、静かに呟いた。


「最も厄介なゴーストは、白日の下に堂々と、姿を晒している、もんだ」


ゴーストの、正体は掴んだ。

だが、相手はもはや、単なるハッカーではない。


日本でも、有数の知性を持つ、怪物だ。

冴木は、不敵な笑みを、浮かべた。

最高のゲームが、始まろうとしていた。


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