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『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第二十六の事件:『緑の、マザーボード』篇

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第九十四章『緑の、マザーボード』

ハイテクな植物工場を、枯らした犯人が、残したサインは、江戸時代の『神の、一手』。知の巨人との、戦いは、デジタルな盤上から、アナログな盤上へと、収束する。


デジタル探偵シャドー:第九十四章『緑の、マザーボード』


2025年10月10日、金曜日、午前6時15分。


愛知県豊橋市郊外。

広大なキャベツ畑と、どこまでも続くビニールハウス。そののどかな、田園風景の中に、一つだけ異質な建物が、そびえ立っている。


金属とガラスで構成された、巨大なドーム。未来の、宇宙基地のようにも、見える、その、建物こそが、次世代型植物工場『アグリネクスト豊橋』だ。


その日、ドームの静寂を破ったのは、一人の若い研究員の、悲鳴だった。


「……うそだ……」


植物工場の心臓部である、第1ドームに足を踏み入れた、開発責任者の、鈴木海斗すずき かいとは、目の前の光景に、絶句した。


そこは、昨日まで青々とした葉と、宝石のような赤い実が、実っていたはずの、トマトの温室。

だが、今そこに、広がっていたのは、茶色く萎れ、垂れ下がった、膨大な、植物の「死骸」だった。


壁のモニターには、異常を示す、赤いアラートが、無数に点滅している。

温度95℃。湿度10%。二酸化炭素濃度、基準値の500%。


全ての環境制御AIが、植物を「育てる」ためではなく「殺す」ために、一晩中働き続けていたのだ。


「……ありえない……こんな、エラーは、ありえない……!」


鈴木は、駆けつけた上司や、警察に、必死に訴えた。


「これは、事故じゃない!僕の作った、完璧なシステムが、誰かに汚されたんだ!」


だが、外部から侵入された、痕跡は見つからない。

警察は、複雑すぎるシステムを前に「原因不明の、システムエラー」として、処理しようとしていた。

その報告書が、警視庁の冴木のデスクに、届いたのは、その日の午後だった。


「アグリネクスト社」は、政府とも繋がりの深い、重要企業。事件の真相を確かめるため、内々にスペシャリストの派遣が、要請されたのだ。


冴木は、報告書に添付されていた、枯れ果てたトマトの写真と、意味不明なエラーコードの羅列を、静かに見比べていた。


冴木: 『シャドー。被害総額数十億円の、トマト殺人事件、か。……犯人の動機は、なんだと思う?』

シャドー: 『……現時点では、情報が、不足しています。ただし、これほど、完璧に、システムを、掌握し、痕跡を、残さない、犯行。……実行犯は、内部の、人間か、あるいは、同等以上の、知識を持つ、プロの、可能性があります』

「……だろうな」


冴木は立ち上がると、コートを羽織った。


「豊橋行きの、チケットを取れ。……たまには、土の匂いを、嗅ぎながらの捜査も、悪くない」


ハイテクな温室に潜む、ゴーストを狩るため、デジタル探偵が、東三河の地へと向かう。


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