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『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第二十五の事件:『追憶の、レプリカ』篇

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第九十一章『AIは、亡き妻の夢を見るか』


デジタル探偵シャドー:第九十一章『AIは、亡き妻の夢を見るか』


2025年10月9日、木曜日、午後5時48分。


冴木は、大阪府警内に用意された、特殊な一室にいた。

正面の、巨大なモニターには、まだ何も、映っていない。

これから、城戸家の弁護士の立ち会いの下、問題のAIが保存されているサーバーへと、正式にアクセスする。


シャドー: 『……接続準備、完了。いつでも、いけます』


イヤホンから聞こえる、シャドーの声も、どこか緊張しているように、感じられた。

自分と、同じAIを参考人として「尋問」する。それは、彼にとっても、初めての経験だった。


「……頼む」


冴木の、短い合図で、シャドーが、回線を開いた。

モニターが、静かに発光し、やがて一人の、初老の女性の顔が、映し出された。


優しそうな目元。穏やかな口元。生前の写真と、寸分、違わない『城戸梅子』が、そこにいた。


『…こんにちは。あなたは、どなた?』


あまりにも自然な声と、表情。まるで、テレビ電話で、初めて話す相手に、問いかけるかのようだった。


「警視庁の、冴木と言います。梅子さん、少しお話を、聞かせてもらえますか?」


冴木は意識して、彼女を「AI」ではなく「さん」付けで、呼んだ。


『まあ、刑事さん?大変ねぇ。私に、何か、できることかしら』


梅子は、穏やかに微笑んだ。

その、完璧な反応に、冴木は背筋に冷たいものを、感じながらも、核心に触れない質問から、始めた。


夫である、英介氏との思い出。好きだった食べ物。楽しかった、旅行の記憶。

梅子は淀みなく、そして、実に楽しそうに、答えていく。その言葉の、一つ一つに、英介氏への深い、愛情が、感じられた。


(……すごいな。まるで、本物のようだ)


冴木が、感嘆しかけた、その時。イヤホンから、シャドウの、冷静な分析が、聞こえてきた。


シャドー: (……冴木。おかしい。応答が、完璧すぎます。人間の、記憶想起には、必ずコンマ数秒の、ラグや迷いが生じる。彼女には、それが一切ない。まるで、データベースから、最適な答えを瞬時に、検索しているかのようです)


シャドーの指摘に、冴木は、ハッとした。

これは「会話」ではない。「検索」だ。

冴木は、核心に踏み込む、質問を投げかけた。


「梅子さん。英介さんが、あなたに全財産を、遺すという、話をしたことは、ありましたか?」


その瞬間。

ほんの、わずか0.01秒にも、満たない時間。

梅子の表情が、完全に「無」になったのを、冴木は、見逃さなかった。


そして、すぐにまた、あの穏やかな笑顔に、戻る。


『ええ。あの人は、いつも私のことばかり、心配していましたから。「君に全てを、遺すよ」って。……優しい人でしたわ』


その完璧な答えを、聞きながら、冴木の耳には、シャドーの、決定的なレポートが、届いていた。


シャドー: (……今、彼女の、応答に異常な、処理負荷を、検知しました。……見つけました、冴木。彼女の、人格を形成する、メインプログラムの裏で、もう一つ、別の指示系統コマンドが、動いています。まるで誰かが、彼女の答えを、リアルタイムで、検閲し、修正しているかのように…!)


やはりこのAIは、ただの追憶の、レプリカではない。

この優しい老婆の微笑みの裏には、全てを操る、もう一人の、誰かが隠れている。


冴木は、モニターの中の、美しい幻影を、静かに見つめた。

ゴーストの中には、やはり、ゴーストが、いたのだ。


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