表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第十九の事件:『自由な道(フリー・ウェイ)』篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/132

第七十章『旅の終わり』


デジタル探偵シャドー:第七十章『旅の終わり』


2025年8月2日、土曜日、午後10時14分。

シャドーが示した、GPSの位置情報。

そこは、意外な場所だった。

東京から、遠く離れた、静岡県のとあるサービスエリア。


風間走は、そこにいた。

冴木は、一人車を飛ばした。

数時間後。深夜のサービスエリアに、到着すると、駐車場には数台のトラックが、静かに停まっているだけだった。


その、片隅に。

一台だけ明かりが灯る、キャンピングカーがある。


冴木が近づいていくと、車のスライドドアが、内側から静かに開いた。


中には、ノートパソコンを前にした、一人の若者。

風間走が、穏やかな顔で、座っていた。


「…刑事さん、ですか」


彼の声は、少し震えていたが、しかし、どこか安堵したような、響きがあった。


「ああ」


冴木は、頷いた。


「風間走。君を、不正アクセス禁止法違反の、容疑で逮捕する」

「…はい」


風間は、素直に頷いた。


「わかっていました。いつかは誰かが、僕を見つけ出すだろうって。…それが、あなたで良かった」


彼は、自らのノートパソコンを指差した。


「これが、僕がやった、全ての証拠です。各社のセキュリティを、どう突破したのか。その記録も、全て残してあります」

「なぜ、こんなことを?」

「…許せなかったんです」


風間は、静かに言った。


「僕は車が好きで、旅が好きで、今の会社に入った。誰もが自由に、安全に、旅ができる、最高の、ナビを作りたかった。…でも会社が求めていたのは、ユーザーの利便性じゃない。どうやって、ユーザーから金を搾り取るか、ということだけだった」


彼は悔しそうに、唇を噛んだ。


「知識は、独占されるべきじゃない。特に、安全に関わる知識は。…僕は、ただ自分が本当に、作りたかったものを、この手で世界に、届けたかっただけなんです」


その純粋で、不器用な動機。

彼は義賊でもヒーローでもない。


ただ、自分の「理想」に正直すぎた、一人の技術者だ。


「…君の旅は、ここで終わりだ」

「はい」


風間は、静かに頷くと、自らキャンピングカーから、降りてきた。

そして最後に一度だけ、夜空を見上げた。


「…でも、刑事さん」


彼は、言った。


「僕が解放した地図で、誰か一人でも、新しい道を見つけてくれたなら。見たことのない、景色に出会ってくれたなら。…僕の旅は、決して無駄じゃなかったって、思えるんです」


その言葉を最後に。


旅人トラベラー』の、長くて短い、たった一人の反乱は、静かに幕を閉じた。


冴木は彼を、パトカーに乗せると、東京へと車を走らせた。

カーナビの画面には、シャドーが最新にしてくれた、美しい地図が映し出されている。

それは皮肉にも、風間走が世界にプレゼントした、「自由な道」、そのものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ