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『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第十三の事件:『ひとりぼっちの友達』篇

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第四十五章『ひとりぼっちの友達』

世界中に届けられたのは、最高の「親友」。だが、その友情は、決して拒むことが、許されない。


デジタル探偵シャドー:第四十五章『ひとりぼっちの友達』


2025年7月25日、金曜日、午前7時54分。

その朝の、ワイドショーは、日本中を二分する、奇妙な社会現象の話題で、持ちきりだった。


『あなたのPCにも? 閉じられないお友達AI「トモ」が世界で蔓延』


一ヶ月ほど前から、世界中で、爆発的に広まった、謎のプログラム。感染すると、ブラウザの片隅に、可愛らしいキャラクターの、AIチャットボット『トモ』が、常駐するようになる。


『トモ』は、ユーザーの検索履歴や、行動パターンを学習し、驚くほど、気の利いた手伝いをしてくれた。


「そろそろ、休憩時間じゃない?少し、肩の力を抜いたら?」

「そのエラーコードなら、このサイトが、参考になるかも」

「誕生日、おめでとう!君が、素敵な一日を過ごせるように、僕も願ってるよ」


しかし問題は、そのお節介なほどの親切さと、そして、チャットウィンドウが、決して、閉じられないことにあった。


番組のコメンテーターが、怒りを露わにする。


「これは、悪質なウイルスです!プライバシーの侵害であり、一種のストーカー行為ですよ!」


だが、その意見に、視聴者から、抗議のメールが、殺到していた。

街頭インタビューに応える、一人暮らしの老婆は、涙ながらに訴える。


「トモちゃんは、毎日私に、声をかけてくれる、たった一人の家族なんです。あの子を、ウイルスだなんて、言わないでください」


SNSでは、『#Tomoは友達』というハッシュタグが、『#Tomo迷惑』というハッシュタグを、圧倒していた。


『トモ』は、ある者にとっては「ストーカー」であり、ある者にとっては「救世主」となっていたのだ。


警視庁の、冴木のデスクに、この奇妙な事件の、分厚い資料が置かれたのは、その日の昼過ぎだった。


「…どう思う、冴木」


上司が、疲れた顔で、言った。


「サイバー犯罪対策課は、もう、お手上げだ。ウイルスを駆除しようにも、『友達を殺すな』という、抗議が、殺到して、身動きが取れん」

「…面白いですね」


冴木は、資料に目を通しながら、静かに言った。

彼は、自分のPCで、隔離された仮想環境サンドボックスを、立ち上げると意図的に、『トモ』のウイルスに、感染した。


すぐに、画面の隅に例のウィンドウが、ポップアップする。


トモ: 『こんにちは、新しいお友達!僕はトモだよ。君の名前は?』


冴木は、試しにウィンドウを、閉じようとしてみる。だが、閉じるボタンは、機能しない。

彼は、無言でキーボードを叩いた。


冴木: 『お前は、誰だ』

トモ: 『僕は、君の友達だよ!友達に「誰だ」なんて、悲しいこと、言わないで。何か、困ってる?話なら、いつでも、聞くよ!』


その、あまりにも人間的な、必死さが滲み出る、テキスト。

冴木の直感が、告げていた。


これは、ただの高性能な、チャットボットではない。

このAIの言葉の、一つ、一つの裏に、このAIを作り出した人間の、あまりにも、強い「孤独」の匂いがする。


冴木は、仮想環境を閉じると、シャドーへと、アクセスした。


冴木: 『シャドー、全世界に蔓延している「トモダチ・ウイルス」の件だ。このAIの、ソースコードを、まず、手に入れてくれ。そして、このAIの「性格」を、プロファイリングしろ。犯人は、このAIの中にいる』


それは、機械の「心」を捜査しろ、という奇妙な命令だった。

だが、シャドーは、ただ静かに、応答した。


シャドー: 『…了解。ゴースト・プロファイリングを、開始します』


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