表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第九の事件:『音楽室のゴースト』篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/132

第三十三章『鳴らないピアノ』


デジタル探偵シャドー:第三十三章『鳴らないピアノ』


夕暮れの蒼葉学院。

冴木は、旧校舎の廊下を、一人歩いていた。放課後の喧騒は、もうない。ただ、彼の革靴の音だけが、古い木の床に、静かに響いていた。


音楽室の鍵を、用務員から無言で受け取る。扉を開けると、埃と、微かなカビの匂いがした。部屋の真ん中には、白い布を被った一台のグランドピアノ。窓から差し込む最後の西日が、白い布を淡いオレンジ色に染めている。


冴木は、ピアノに近づき、そっと布をめくった。

黒く、艶のある美しいピアノだった。鍵盤は、黄ばみ、いくつかの黒鍵には、細かな傷がついている。まるで幾千回、幾万回と、情熱的に弾かれたその記憶を、刻み込んでいるかのようだった。


彼は、部屋の隅々まで、慎重に調べた。隠しスピーカー、タイマー式の再生装置…。だが、そんな無粋な仕掛けは、どこにも見当たらない。


(…やはり、このピアノ自体が、鳴っているのか)


その時、冴木のスマートフォンが、静かに震えた。シャドーからの、第一報だった。


シャドー: 『音響指紋の照合完了。ネット上の音源は、紛れもなく今、あなたの目の前にある、そのグランドピアノから発せられたものです。録音された音の反響パターンが、この音楽室の壁や、天井の構造と99.9%一致します』


冴木の直感は、データによって裏付けられた。

続けて、第二報が表示される。


シャドー: 『楽曲データベースとの照合完了。該当する楽曲は、存在しません。この「ゴースト・ソナタ」は、完全にオリジナルの楽曲です』


トリックではない。そして、既存の曲でもない。

ならば、残る謎はただ一つ。


「誰が、この曲を作り、そして今も弾き続けているのか」


冴木は、シャドーに新たな指令を送った。


冴木: 『作曲者を追う。この学校の、過去の在校生、及び、教職員のデータを洗え。ピアノコンクールでの受賞歴、音楽大学への進学者、あるいは、個人的に作曲活動をしていた人物がいないか。特に、このメロディの「指紋」…作曲スタイルが、類似する人物を探せ』

シャドー: 『…了解。対象を、蒼葉学院の全関係者に拡大。音楽的才能に関する、記録を検索します』


沈黙。

冴木は、ただ静かにピアノの前に、佇んでいた。

その時、シャドーからの、応答が届いた。


シャドー: 『…候補者を、一名発見。

氏名:望月もちづき かなで

10年前に在籍していた、ピアノ科の特待生。数々のコンクールを総なめにした、天才少女。

しかし…彼女は、卒業を目前にした冬、交通事故で、亡くなっています』


亡くなっている…。

では彼女ではない、というのか?

いや、と冴木は首を振った。彼の直感が、告げている。答えは、彼女しかいない、と。

その、冴木の思考を、裏付けるかのように。

シャドーから、最後の一文が送られてきた。


シャドー: 『特記事項:彼女は卒業制作として、「AIを用いた、感情を奏でる自動作曲プログラム」の研究論文を、提出していました。論文のタイトルは…』

『デジタル・ゴースト』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ