表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第二十七の事件:『空白の、ノート』篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

105/133

第百五章『羽根ペンと、万年筆』


デジタル探偵シャドー:第百五章『羽根ペンと、万年筆』


冴木の、指令を受けた、シャドーの意識は、慧明学園の堅牢な、サーバーの壁を静かに、すり抜けていた。


ターゲットは、ただ一人。古典文学担当・古谷仁ふるや ひとし


シャドーはまず、学園の人事データベースに、アクセスした。

そこにあった、古谷の経歴は、輝かしいものだった。


国内トップの大学を卒業後、一貫して教職の道に、身を捧げてきた、ベテラン中のベテラン。生徒からの、人望も厚い。


だが、シャドーが、彼の学内での活動記録を、深掘りしていくと、一つの特異点が、浮かび上がった。


5年前、学園が「教育の、完全デジタル化」を、推し進めた際、その方針に、唯一真っ向から反対意見を、提出していたのが、この古谷だったのだ。


シャドーは、その時に彼が提出した、意見書のデータを、探し当てた。

そこに、綴られていたのは、ただの、感情的な反対論ではなかった。


『……ペンを握る、力加減。紙の匂い。インクの滲み。文字を書くという行為は、思考を身体に刻み込む、神聖な儀式である。それを、画一的なデジタルデータに、置き換えることは、生徒から、言葉の「重み」と「身体性」を、奪うことに、他ならない…』


シャドー: (……冴木。見つけました。彼の、思想です。犯行メッセージと、完全に、一致します)

「……ああ。間違いないな」


図書館の陰から、古谷を見つめながら、冴木は答えた。

犯行メッセージにあった、あの流麗な『羽根ペン』は、古谷の思想の象徴だったのだ。

動機は、分かった。だが、肝心の実行手段が、分からない。


シャ-ドーが、彼のPCのログを解析しても、ハッキングを、行ったような、痕跡は一切、見つからない。


冴木は、図書館を後にすると、今度は教師たちの、職員室へと向かった。

そこでも、教師たちは機能停止した、タブレットを前に、途方に暮れていた。


冴木は、何人かの若い教師に、話を聞いて回った。


「古谷先生?ええ、尊敬していますよ。いつも、穏やかで……。ただまあ、少し、時代遅れなところも、ありますけどね」

「デジタル化には、最後まで、反対されていましたね。『君たちは、万年筆の、インクの、匂いを、知らない、可哀想な、世代だ』なんて、よく、皮肉を、言われましたよ」


何気ない一言に、冴木の思考が、止まった。


万年筆。


冴木は、すぐにシャドーに、命じた。


冴木: 『シャドー!学園の、全生徒・全教師が、使っている、タブレットの、正式な製品名を、調べろ!そして、その付属品……特に、純正タッチペンの、仕様を徹底的に、解析しろ!』


数秒後。シャドーから、驚愕の事実が、もたらされた。


シャドー: (……冴木。見つけました。致命的な、脆弱性です。学園指定の『タッチペン』の、内部には、ワイヤレス充電用の、受信コイルが、あります。これに、外部から、特定の、超音波を、照射すると、コイルが、異常共振を、起こし、ペアリングされた、タブレット本体に、強制的な、エラー信号を、送り続けて、システムを、フリーズさせます)


「……超音波だと?」


冴木: (……だが、待て。それだけの、強力な超音波を学園全体に、届かせるには、相当大掛かりな、装置が必要だ。ポケットに、入るような代物じゃ、ない)


シャドー: (はい。犯人は、おそらく、学内の、どこか、中心的な、場所に、強力な、超音波発生装置を、隠し、作動させたと、思われます。例えば、放送室や、サーバールーム……)


犯行の全体像が見えた。

冴木は、職員室の古谷の机へと、向かった。

綺麗に整頓された机の上。ペン立てに、一本だけ、古風で美しい万年筆が、差してある。

だが、そのキャップの先端には、万年筆にはあるはずのない、小さなボタンが、付いていた。


(……これか)


冴木は静かに、それを、手に取った。


(これは、学園全体を、攻撃した、兵器じゃない。彼が、この脆弱性を発見し、自らの仮説を証明するために作った、最初の、実験機プロトタイプだ。……そして、犯行の動機と、犯人を結びつける、唯一の物証……)


「……あんたは、羽根ペンじゃなく、こいつで、生徒たちの、言葉を、取り戻そうとしたんだな」


ゴーストの正体は、ハッカーではなかった。

ただ、自らの信念に殉じようとした、一人の、老教師だったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ