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『デジタル探偵シャドー』  作者: さらん
第二十六の事件:『緑の、マザーボード』篇

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第百一章『盤外の、棋譜』


デジタル探偵シャドー:第百一章『盤外の、棋譜』


2025年10月11日、土曜日、午前6時48分。


東京から豊橋へと戻る新幹線の中で、冴木は目を、閉じていた。


彼の頭の中では、時任錠の言葉が、何度も反響している。


『彼が残したい、本当の「作品」…「棋譜」は、別の場所にある』


棋譜。ゲームの記録。

ハッキングの、ログファイルのことではない。そんな、無機質な、ものではないはずだ。

もっと知的で、芸術的で、そして石田蓮の、プライドを、満たすもの……。


「……!」


冴木は、目を開いた。一つの可能性に、たどり着いたのだ。

石田蓮は、大学教授だ。彼にとっての作品とは、彼の「研究」そのものだ。


冴木: 『シャドー。捜査方針を、変更する。アグリネクスト社の、サーバーから撤退しろ』

シャドー: 『……了解。ですが、それでは、手がかりが…』

冴木: 『手がかりは、そこには、もうない。ターゲットを、変更。京都大学の、学術データベース。及び、石田蓮の個人研究サーバーに、侵入しろ』


シャドーは、冴木の意図を、即座に理解した。


シャドー: 『……なるほど。「棋譜」は、犯行現場ではなく、犯人の「研究室」に、ある、と』

冴木: 『ああ。奴は、学者だ。自分の、完璧な、犯行を、理論化し、研究成果として、どこかに、記録している、可能性が、高い。……未発表の、論文、講義の、下書き、個人的な、研究メモ。……ここ、半年以内に、作成された、全ての、データを、洗い出せ』


それは、大海から砂粒を、見つけ出すような、作業。

だが、シャドーにとって、それは最も、得意とする、フィールドだった。


シャドーの意識が、再び潜行を開始する。今度の舞台は、日本最高学府の、知の要塞。


そして、夜が明けきらぬ、午前5時。

シャドーはついに、それを見つけ出した。

石田蓮の個人サーバーの奥深くに、厳重なプロテクトを、かけられて、保存されていた、一つの論文草稿。


タイトルは『ゲーム理論に基づく、農業IoTインフラにおける、非対称攻撃モデルの、一考察』。


シャドー: 『……冴木。見つけました。これが、奴の「棋譜」です』


論文は、あくまで学術的な、体裁を保っていた。

特定の企業名は、どこにも、書かれていない。


だがそこに、理論モデルとして、記述されていた、植物工場のシステム構成、ネットワークの特徴、AIの仕様。その全てのパラメータが、アグリネクスト社のシステムと、完全に一致していた。


そして、論文の結論部分。

そこに、書かれていたのは、この理論モデルにおける、最も効率的で、美しい攻撃手法。


それは、今回実際に、行われた犯行の、手口そのものだった。


これは、自白ではない。

自分の犯罪が、いかに学術的に優れ、美しいものであったかを、証明するために書かれた、犯人自身による、犯行の解説書だったのだ。


「……ご丁寧に、どうも」


冴木は、論文のデータを見ながら、冷たく笑った。


「あんたの、くだらない研究発表は、俺が最高の舞台で、披露してやる。……法廷という、名の学会でな」


ゴーストを捕らえる最後の、そして、最大の武器が、手に入った。

ゲームは、最終盤を、迎えようとしていた。


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