5 王家の方々は裏切りがお嫌いです
「そういえばエヴァンジェリン様は、婚約破棄の条件にカタリナ嬢との離縁を禁止されたのだそうですね」
やはり意図がお分かりになったのね、と頷く。
「ええ。あの子にあるのは可愛いという武器だけですわ。家政の能力も領地の経営の手腕も身を立てる手段も何もなく、他人の物をクレクレと欲しがるだけの我儘な娘です。その可愛さがなくなった時、あの子に残るのは醜い人間性だけでしょう?」
だからこそ、そんなカタリナと平民として一生添い遂げなければならない事こそが罰なのです。
もしもカタリナがお父様の決めた通りの老公爵に嫁げば、愛らしい容色が失われる頃に老公爵も寿命を迎え、元公爵未亡人として多くの財産を得て悠々自適に暮らしていけたでしょうに。
カタリナは早々に甲斐性のないガスパールに不満を持つだろうし、女性に可愛らしさだけを求めるガスパールは次々と新しい女に目移りするだろう。
裏切る者はまた裏切る。
誰よりも他人を信じない国王陛下だからこそ、ガスパールの裏切りには容赦が無かった。
「エヴァンジェリン様の良さがわからない御仁ですから、別に好きなだけ苦労されると宜しいのよ。エディン公爵家でも王家を裏切る者は容赦なく直系の子でも斬り捨てるという姿勢を示していただけたから周囲からの信用は高まったと思います」
そうですわね、王女殿下をお迎えするのですからエディン家も相応の覚悟を示されたと思いますわ。
「ところでアンジェ様。この時期に私をお召しになるのは、何も慰めていただくだけの目的ではなかったのでしょう?」
「察しが良くてそういう所もやっぱり好きよ、エヴァンジェリン様」
来月には王太子殿下の婚礼式が盛大に執り行われる。
その際に諸国から来賓を招き王城主催の宴が催される。
「私はオリバー様にエスコートをしていただくのですけど、我が家に一人ほどパートナーにあぶれている兄上が居るのですわ」
あー…フィリップ第二王子殿下ね。
幼少期から正しく王太子のスペアとして育てられた、私より二歳年上の第二王子殿下。
王城に登城した時には、アンジェ様と一緒によくお話をしたものだったわ。
殿下から聞く話はとても有意義で、特に地政学的な話はうちの領地の改革にも参考にさせて貰ったので恩義がある。
だから殿下が困っていると聞けば無碍に私は断らないだろうとアンジェ様は踏んだわけね。
相変わらず良く知恵の回る方だわ。
「側妃方をパートナーに選べば、その者と出自の家門を贔屓するのかって話になるでしょう?王と側妃を競うのかっていうきな臭い話にもなりかねませんし。その点、婚約者が居ない、話し相手としても昔から馴染みのあるエヴァンジェリン様ならうってつけだと思いましたの」
兄上様より先にこの話をしたことは御内密に、とこっそりアンジェ様に囁かれた。
「私は構いませんが、フィリップ殿下の方こそそれでいいのでしょうか」
困ったように首を傾げてアンジェ様に尋ねると、思いっきりぶんぶんと首を振っておられる。
「元々兄上からの希望だったのですよ。パートナーにはエヴァンジェリン様がいいって。昔からの馴染みだから余計な詮索もされないだろうし気楽な相手だからって仰ってて。兄上までエヴァンジェリン様の良さがわからないならガッカリだけど、それでもお相手にエヴァンジェリン様を選ばれたのだけは合格よ」
うーん、何が合格なのかよくわかりませんけど。
私としてもエスコートをしていただく予定だったガスパールとの縁談が破談になったのでパートナーに困っていたのも本当の話。
次期侯爵としては、諸侯との交流も重要な仕事になるから祝宴は欠席したくない。
「勿論、エヴァンジェリン様が新しい出会いを求められたり、既に想われる方がいらっしゃるならお断りしていただいてもいいのですけど」
国内でそういう方が見つからないなら外国の方と?
それこそ考えていないことだわ。
ふう、と溜息を吐いてから返事をした。
「いえ、私もその方が助かります。何もそれで婚約云々の話にはならないでしょうし、単なる祝宴のパートナーでしょう?久しぶりにフィリップ殿下と沢山お話ができるのなら楽しみです」
私の言葉にアンジェ様がぱあっと顔を綻ばせた。
「ありがとうございますエヴァンジェリン様!兄上もきっと喜びますわ!」
余程フィリップ殿下の事が気掛かりだったのね。
兄弟思いの良い方だわ、アンジェ様は。
私も一つ懸案事項がなくなったので、軽い足取りで王城を辞した。