49 真の愛に満ちた未来
リンゼイの王太子妃として嫁いできてからというもの、私はリンゼイ国民の為にも早く働きたいと思っていました。
それに残してきたサノーバ候の領地の人達も気になっています。
いました、気になっています、には理由があります。
気が付けば婚姻式の日から私は殆どリンゼイ城の王太子夫妻寝室の住人になってしまっているのです。
「エヴィ、愛しいエヴィ、もう絶対に離さないよ」
と私の殿下が比喩でも何でもなく本当に離してくださらないのです。
毎夜毎夜、朝までしっかりたっぷりどっぷり愛してくださっているので私は昼までヘロヘロなのに、何故フィルはあんなにも元気に公務に勤しんでおられるのかわかりません。
流石に私の体力が持たなくなったのか、体調を崩してしまって御典医さまに安静にと指示されて、わかりやすくフィルはしゅんとしょげていました。
しかしそれもじきにそれが懐妊したためとわかり、一転してフィルが大はしゃぎすることになりました。
十月後に生まれた第一子は王女でした。
普通の王室なら世継ぎに男子をというところでしょうが、ここリンゼイでは王女の方が尊ばれます。
通常では対外的なお披露目はこの子が10歳になるまではしないのですが、ミッドガルド王との約束通り、フェリシア王女の首が座る頃にこっそりとフリード殿下がリンゼイを訪れました。
私に対する祝辞もありましたが、殿下はフェリシア王女に会いに来たのです。
恐る恐る差し出した手の指を王女は小さな手できゅっと握り締め、フリード殿下は驚きながらもぽろりと涙を流しました。
「なんて愛らしいんだ。俺はこの王女をずっと守っていきたい」
そう言うと、王女も嬉しそうに「あー」と答えるように笑います。
「あら、フェリシアも嬉しそうですね」
フリード殿下も頷きます。
「ありがとう、エヴァンジェリン妃殿下。貴女に会えて、フェリシア姫に会えて良かった」
傍に居る私のフィル殿下もニコニコしています。
「もう私の愛しい妃を妻にするなどと言わないのならば、また何時でも姫に会いに来てあげてくれ」
「ありがとうございます、フィリップ王太子殿下」
男同士で何か和解するような話でもあったのでしょう。
あれからフィルとフリード殿下は妙に仲良しになっていました。
ミッドガルドの王子がやってくる度に、彼が成長しているのがわかります。
我が娘、フェリシアも幼いながらに足繁く会いに来てくれる王子を気に入ったのでしょう。
フリード殿下の凍てついていた時が流れ始めたのです。
それこそが、幼い二人に真の愛が育っている事を物語っているのでした。
フリード殿下が見かけ「10歳」になった頃、漸くミッドガルドで王太子の披露目がありました。
彼が今まで隠された存在であったこと、真の愛の呪いがリンゼイの姫の力で解けたこと、近い未来にミッドガルドとリンゼイが結ばれること。
「おうたいしさま、おめでとうございます」
小さなフェリシア姫がぎこちなく挨拶をすると、フリード王太子は蕩ける様な笑みで応えます。
「ありがとう、俺の愛しい姫」
そして二人で小さな手を繋いで、ミッドガルド王、リンゼイ王の前に進み出てバルコニーから国民に向かって手を振りました。
私はというと、友好国の慶事に夫のフィルとともに駆け付けたのですが、その場で4人目の御子の懐妊が判明いたしました。
リンゼイ王家の馬車は私が妊娠している期間が長く、揺れを軽減してほぼ感じないくらいに改良されていますが大事を取って2週間ほどミッドガルドに滞在させていただくことになりました。
おめでとうを言いに来たはずのフリード殿下からもおめでとうと言われて何だか申し訳ない気分になったのは事実です。
「リンゼイの王子王女達は、皆王太子とその妃殿下の愛の結実だ。俺も大きくなったら、フェリシア姫とそういう愛に溢れた家庭を作りたい」
そのように言ってくれるフリード殿下も、きっと良き君主になられる事でしょう。
リンゼイに戻ったら、またベッドの上の住人生活になってしまいます。
サノーバ領の視察が先延ばしになったことに落胆する私の元に、お父様とアンジェ様が来て下さって慰められました。
3人の孫の前に、お父様がデレデレした私にも見せたことのない顔をされるのがとても面白かったのです。
「家族より愛人を選んだ王に孫を抱く権利はない。サノーバ元侯爵は愛人より家族を選んだのだからその権利がある」
とシオン王妃陛下がきっちりと手綱を握ってくださっているようです。
フィルも「父上には僕の子を抱かせない」と言っていましたので、その溝が埋まることはなさそうです。
王太子殿下とナミア妃殿下の教育が終わり次第、ナバール国王陛下には穏便退位をしていただく予定なのだそうです。
国王という重責から解放されて真に愛する人との生活を送れるというのはある意味幸せな事なのではと思っています。
人の幸せの基準なんてそれぞれですからね。
一時は覇気のなかったお父様も、孫という生きる喜びを見つけては活き活きと領地の経営に精を出されていると伺いました。
「エヴァお姉様。今日はとても興味深い噂をお聞かせしたくてウズウズしておりましたの」
アンジェ様がニコニコしながら話しかけてきます。
「まあ、何かしら」
「近頃ミッドガルドでは『ペルルーシュとアンドレイア姫』の物語が、続編と一緒にとても流行っているそうなのよ」
あらあら。
「続編なんてあったのかしら」
「何でも最近ミッドガルドの売れっ子作家によって作られたそうなのよ。ペルルーシュとアンドレイア姫の子供が、呪われた王子を真の愛で救うお話なんですって」
あらあらあら。
誰が仕掛けたのか、すぐにわかってしまいましたわ。
次にお会いになる時には、フリード殿下もまた成長されているのでしょうね。
我が子を見るように、彼の成長も楽しみなのです。
月日が流れ、それぞれの王国で代替わりが為された頃。
大陸の国々が豊かに平和に、始まりの神々の愛に満ちて過ごしていた。
中でも、多くの国の平和に寄与した名君マルガレーテ王妃とエヴァンジェリン王妃の名は後世にまで語り継がれた。
ーFIN.ー
これでエヴァンジェリン達の物語は終わります。
後悔した人達も含め、皆が自分が選んだ決断を全うしてどんな形であれ恨みっこなしのハッピーエンドにしました。
アンドレア、メルキオ、アンジェ、フリード等枝葉の話は沢山出来そうですが、エヴァンジェリンの物語として焦点がボケそうなので読んでくださった方々が自由に想像していただいてもいいのかなと思って終了とさせていただきます。
ブクマ、コメント等評価を下さった皆様、ありがとうございました。




