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44 ミッドガルドとリンゼイと始まりの神々

城外が騒がしいのでヘルベルト王も流石に異常に気が付いた。

やがて衛兵からの伝達でそれがリンゼイの王とその兵が城門を突破してきたのだと知る。


自室から出て剣を持って迎え討とうとしたヘルベルト王の前に、リンゼイの王ベルトランが姿を現した。


「我が愛しい妹の義娘が無理矢理連れ去られたと聞き及び、返していただきに参った」

「久しいなベルトラン王。だがこちらにも姫を返せぬ事情があってな」


それを聞くと、ベルトラン王は溜息を吐く。


「『真の愛』の呪いであろう。それについては把握している。だが無理強いをしてそれで呪いが解けるものか」

「このままではミッドガルドだけでなくリンゼイや大陸中の国々にも滅びの未来が待つ。我々にはリンゼイの姫が必要なのだ」

「聞こえぬか。義娘と言ったであろう」


はたとヘルベルト王は口を噤み、手に持った剣を鞘に納めた。


「神はどこまでも私の邪魔だてをするというのか」

「神に背く行為だからこそだ」


ベルトラン王もそれを見て自らの剣を納める。


「意に染まぬ相手を無理に自らに従わせようとするのは己しか幸福にせぬ。不幸しか齎さない者には不幸しか与えられぬ」


それこそが神の意志であると何故気付かないのだ、とベルトラン王は目の前の王に迫る。


「既に其方もその神の思し召しを受け取っているのではないか。例えば其方の世継ぎに何かしらの不具合が起きてるのではないか」


一向に聞こえてこないミッドガルドの世継ぎの存在の話。


「それならばリンゼイも同じではないのか」


それにはふるふるとベルトラン王が首を振る。


「最初は我が妹に不義な夫を棄ててリンゼイに出戻り、女王として統治するように求めた。だが妹の答えは否だった。既にシオンの王妃としてシオン王家の子を産み、シオンの民を愛し守ろうとしている。その深き情けにこそ神は恩恵を与えた」


ベルトラン王の話を聞いても、問題の解決の糸口が見つからない。

無言の後、場内の議場の間に来るようにとベルトラン王に促し、ヘルベルト王は先立って近衛と歩き始めた。




「今や敵対している場合ではない」


大陸中の国が国体としての力が弱ってきている。

しかも王家の子の数自体も減ってきている。

王家維持のための側室の制度も王家内部を殺伐と荒れさせる要因になってきており、妃にと差し出した貴族達の家門同士での争いも酷くなってきている。

貴族同志が争い腹の探り合いをし、結束が揺らいできている。

そうなれば堰を切ったように弱肉強食の世界に向かってしまうのだ。


「ではリンゼイは世継ぎをどうするおつもりか」

「妹に打診した時に、一つの案を出された。シオン王家の第二王子をリンゼイの世継ぎとすることを。シオン王家の王子王女は皆リンゼイ王家の血を引く、妹から生まれた子達だ。私にとっても実の甥にあたる」


勿論それに異論はない、と付け加えた。


「元より第二王子は、いやシオン王家の子達は生まれた時からシオン王家の、そしてリンゼイ王家の世継ぎとなる可能性を教えられて育てられていた。我々国王が我欲を主張する間に、妹はひたすらに民と国の為に尽していた。だからこそ女王にと望んだのだ。そのような素晴らしい女性は、其方のような我欲に生きる者の伴侶にすべきではないのは明白であろう」


始まりの神と女神の支配を夢見る輩に等、所詮マルガレーテは過ぎた女性だったのだ。


「妹はその代でシオンとリンゼイを結び、次代でシオンとトーエンとリンゼイを結んだ。その次の代で更にはミッドガルドとの繋がりをも模索している」

「…どういうことだ」


訝しむヘルベルト王に、議場への来訪者が現れた。


「父上…」


幼いミッドガルドの王子、フリードだ。


「シオンのアンジェ王女はリンゼイの姫だっていうから、ずっと会うのを楽しみにしてたんだ。でも俺だけじゃなくて姫も幸せじゃないといけないんだってわかったから」


幼い王子はちらりとベルトラン王を見遣った。


「ひょっとしたら俺も父上達と同じ間違いをするんじゃないかって気付いたんだ。アンジェ姫…じゃなくて、エヴァンジェリン姫が気付かせてくれた」


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