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41 初めて知る物語は楽しいです

夕食後、夜着を着て大きな本を抱えたフリード殿下が侍従に付き添われて私の部屋に来られました。


「姫、お約束通り一緒に寝ましょうね」


あら、私が訪問するのではなく殿下がいらっしゃったのね。


「わかりました。どの本を読みましょうか」


大きな本を差し出すと、寝台に上がりました。

厳つい装丁の本です。

大陸の創世の神話のようです。


「俺にはこの本しか読ませてくれない」


小さな子にこの神話は面白いものなのでしょうか。

そりゃあ、大陸に住む子供達は必ず読むものでしょうけど。


「それなら、読むまでもなくもう全部覚えてしまっているのでは?」


そう尋ねるとコクンと頷かれます。


「あのう、宜しいでしょうか」


おずおずとウィルヘルミナが申し出ます。


「私、自分の持ち物に幾つかの書物を持ってきております。シオン語の本ですが、読み聞かせをされるのなら問題ないかと」


私が頷きますと、ウィルヘルミナは控えの間に下がり、本を数冊持ってきました。


「これなどどうでしょう。囚われの姫君を助ける騎士のお話です」


ウィルヘルミナが差し出したのは子供から大人まで人気の物語です。

美しい挿絵もあって、若い女達は凛々しくそれでいて美男のヒーローに、若い男達は魔物に襲われる美しい姫君に、そして子供達は天馬を駆り魔物に立ち向かうヒーローの冒険譚に夢中になります。

大人達は美貌を誇り、武勇を誇る事の危険性や親に虐げらたヒーローと親の虚栄心の道具にされた姫を親としての戒めとします。

たまたまヒーローが通りがかって助けるだけでは終わらず、ラブロマンスに発展するお話です。

貴族社会ではこんな事等起こり得ませんから、こういった物語に憧れて夢想するのです。


「ペルルーシュとアンドレイア姫のお話ね。これならフリード殿下も楽しめそうね。ありがとう、借りるわ」


そう言って本を受け取ると、ウィルヘルミナばかりかフリード殿下も嬉しそうにしていました。


知らない世界を知ることができるのは本当に楽しい事ですわね。

私も幼い頃に夢中になって本を読み漁りました。

おかげで頭でっかちな可愛げのない女に育ってしまいましたが。


寝台で本を読み始めると殿下は目を輝かせてお話を聞いておられましたが、冒険譚のクライマックスが終わる頃に安らかな寝息を立てていらっしゃいました。

勿論、シオン語ではなくミッドガルド語に訳してお話ししました。

本を閉じてウィルヘルミナに渡すと、彼女も嬉しそうでした。


「ありがとうございます殿下。私もミッドガルド語の勉強になりました」

「よかったわ。そうね、貴方達も言葉を覚える方がいいわね。貴方達にも日中に読み聞かせをいたしますわ」

「宜しいのでしょうか。ありがとうございます」


アンナも嬉しそうです。


「私はお二人が学習中、代わりに仕事に就きます」


メルはそう言って頭を下げました。

彼女はミッドガルド語も堪能なのよね。

流石はフィル殿下が信頼する侍女だけあるわ。


3人の侍女達に礼を言って、私も温かな寝台で寝る事にします。


あどけない寝顔のフリード殿下を見ていると、私もフィル殿下との御子が生まれたらこうして眠るのもいいななんて思えてきます。

そのためでしょうか。

その晩はフィル殿下に優しく抱きしめられる夢を見ました。

早く殿下にまたお会いしたい…


朝起きたら、フリード殿下は一足先に自室に戻られていたようでした。

朝食の席で嬉しそうに話しかけてくれます。


「姫、昨夜は楽しかった!ありがとう」

「いえ、どういたしまして」


その言葉になぜか侍従がぎょっとしています。


「今夜も行っていい?また同じのをお願いしたいんだけど」

「わかりました。余程気に入られたんですね」

「うん!ああ、夜が楽しみだなあ」


あらあら、昼も充実した日を過ごしていただきたいものですわ。

ですからお庭を散歩したり、城内の案内をしてもらいがてら探検したりという過ごし方を提案しました。

その日は楽しく過ごせました。

殿下がお昼寝の時間には侍女達への勉強会です。

同年代のお友達が居れば良いのでしょうけど、殿下には兄弟も従兄弟も見当たりません。

歪な育ち方をした子というのは大人になってから歪な考え方をしてしまいがちです。

歪な考え方の君主の治める国との国交は難しそうだと、ヘルベルト王を思い浮かべていました。


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