37 愛されたことが無い子供は愛し方を知らないのですね
フリード殿下は黙って俯いておられました。
「物語に出て来る王子様は囚われの身のお姫様を助けて恋に落ちて結婚する。絶望の状況から救ってくれる人を好きになるのは納得できるからそういう物語を人は好むんじゃないかな」
「殿下もその物語には共感いたしますの?」
「生きる希望を与えてくれるなら、それは愛じゃないのかな」
自分で言っておいてナンですが、何だか違うような気がします。
何ででしょう。
「もしもですよ、助ける人が通りがかってただの親切心で助けただけだとして、別に恋愛の相手と考えてなかったとしたらどうでしょう。助けられる側も、助けてくれる人が恋愛的に趣味じゃなかったら。そこに恋愛は発生しませんし、助けてくれてありがとうございます、いえいえどういたしまして、それじゃあ、で終了してしまうじゃないですか」
そう言いますと、殿下はぽかんと口を開けて見つめてきました。
「あー、そうだね、そうだよね。物語はどこまでも都合よくできてるんだ」
そして悲し気に笑います。
「色んな事を諦めかけて、望みを持つ事すらできなくなってしまって。そんな時に光を見せられたらどこまでも縋ろうとするか、そんな光など瞞しだと疑って斬り捨ててしまうか、どちらかしかできないと思うんだ」
詳細はわかりませんが、殿下は絶望的な状況に置かれているのでしょうか。
「殿下は私以外の人が助けに来てくれたら、その人を愛して結婚されるのでしょうか」
「それは…」
口籠られてしまいましたが、否定はされていないようです。
「その時になってみないとわからないかもしれないけど。少なくとも姫は、国を守るために父上に連れて来られたんだろう。人に対してではなくても、国に対して愛を持っているんだから、貴女に思われている国が羨ましいと思う」
ええ、国に嫉妬されてるんですか?
「その姿を美しいと俺は思うし、そういった一途な思いで愛されるのが幸せだと俺は感じるから。だから俺の妃は貴女がいい」
そうでしたわね、国王陛下も王妃陛下も、殿下ではなく御自身が一番でなければいけなかったのですからね。
子供が親に無償の愛を求めるのは自然な事ですわ。
「父上にとっては人は手駒。自分の子ですらそうなのに、ましてや母上達なんて替えのきく存在でしかないよ。それなのに愛を象徴とする創世神の作った世界を手に入れたいなんて凄く変な話だと思うんだ」
私には、殿下が必死で自分に愛というものを教えて欲しいと訴えかけているように見えました。
確かにそんな親からはまともな愛を受け取ってるようには考えられませんし、人を愛するという感情がわからなくても仕方がないのかもしれません。
「殿下も人を愛することがどんなものか、わかっていないのではと思います。私の心を無視して手に入れたいと思うなら、国王陛下と同じように私の事も手駒と考えているのだと思うのですけど」
すると、殿下の顔は紅くなりました。
きっとご自身の考えが恥ずかしくなられたのでしょうね。
「知らない事は恥ずかしい事ではありません。これから知って行けばいいのですから」
「姫は俺に教えてくれるのか?」
仕える者には難しい事でしょう。
でも対等な立場の者なら、それは可能かもしれません。
私も愛される幸福を最近知ったばかりなので、期待に応える事は出来ると思います。
それに。
もしも本当に愛することを理解されたなら、私をフィリップ殿下の元に帰してくれる。
そう思うのです。




