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34 馬車の中は逃げ場がありません

ミッドガルドへは本当に着の身着のまま、荷物は侍女達が纏めてくれました。

フィリップ殿下から贈られたドレスとアクセサリーを身に付けて。

この先の事が不安でも、殿下に包まれているような気持になります。

馬車には3人の侍女と一緒に乗り込みました。

アンナやウィルヘルミナは色々とアンジェ様の情報や知り得る限りのミッドガルドの話をしてくれています。


その中でも、メルだけは寡黙でした。

時折確認するかのように私達の方を見たりしていましたが、殆どは車窓の外に視線が向いています。


肝心のミッドガルド王は馬車には同乗しておりません。

控えの馬車は同行しておりますが、そこにも乗らず騎馬で進んでおられます。


なんでも、有事の際に一番腕の立つのが国王陛下だそうですので、馬車の中に居るのはかえって危険なのだそうです。

馬車がいなければミッドガルド軍の進軍にもみえます。

ミッドガルドの王と近衛、国軍の隊列に喧嘩を吹っ掛ける様な命知らずは居ないようです。


長いミッドガルドへの道中、私はどうしてもメルの事が気になりました。

面識はない筈ですが、どこかしら知っているような気もします。

それに、フィリップ殿下も全幅の信頼を寄せていらっしゃるようでした。


―――ノリス卿の関係者とか?


「…ねえ、メル?」

「はい」


思い余って話しかけてみる事にしました。


「貴女は随分とフィリップ殿下と親しそうでしたが、どういったご関係の方なのかしら?」


それを聞くとメルはきょとんとしていましたが、やがてにっこり微笑まれました。


「妃殿下が心配されるような関係ではありません。ご安心ください」


いえいえ、貴女のような美しい方が殿下と親しいのですから心配するのが当然なのですが。


「あの御方に浮いた話など出る訳がございませんでしょう。妃殿下が公爵子息様と長い婚約期間中もずっと妃殿下一筋でいらっしゃった御方なのに」


ええ…でもメル自身は特別な感情を持ったりとかはしなかったのかしら?


「私はよく殿下に纏わり付く小蝿を追い払う役目を仰せつかったりはしておりました」


はあ、それででしょうか。

何となくメルに既視感があるのは。


メルは『わたしがしってるおうじでんかのあれやこれや』を自慢げに話すような人ではありませんでした。

言葉の端々から、仲の良い友人というよりは忠実な臣下という印象を受けます。

そっちが言わないのなら、私の方から訊いてみましょう。


「もしフィリップ殿下の事をよく存じていらっしゃるのなら、私が知らない殿下の事も聞きたいです」



―――藪蛇を突いてしまいました。

メルからは嬉々として、『如何にフィリップ殿下がエヴァンジェリン様を好きで好きで大好きで周囲がドン退くほど大好きなのか』を延々と聞かされることになりました。

ごめんなさい、許してください、訊いた私が愚かだったのですわ。

馬車の中では逃げ場がありません。

意味ありげにアンナとウィルヘルミアがにこにことしています。

居た堪れないです。

何故かメルはドヤ顔で楽しそうです。


「妃殿下、可愛いです」


ウィルヘルミアが真っ赤になっているであろう私にそう言ってきます。


「ウィルヘルミア、殿下には内密に。妃殿下の可愛いところは殿下だけが知っていればよいと不機嫌になられますので」


まるでその経験がおありのようなメルの言葉です。


「ええ、私がそのように殿下から叱責を受けましたので」


あああああああああああ!


叫び出したい衝動に駆られますが我慢です。


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