30 色々と勘違いな御方がやって来ましたわ
王太子殿下とナミア王女の婚礼式は厳かに執り行われました。
ナミア様はお可愛らしい容姿を存分に引き立てる素晴らしい衣装で、王太子殿下の横で微笑んでいらっしゃいます。
こうして無事に式を挙げられたものの、王太子殿下から告げられたナミア様の実力不足は何も解決しておりません。
恐らくフィリップ殿下や次期公爵夫妻がその助けとなるのでしょう。
だからこそアンジェ様の婚礼式の時期が早まり、私とフィリップ殿下の婚約も早々に発表される事になりました。
プラチナ色のドレスにアイスブルーのティアラを冠した私がフィリップ殿下の横に立っていることに違和感を抱いた諸侯は少なくはありませんでした。
それと同時に、長年婚約者を決めてこなかった第二王子の伴侶が決まったのかと噂をする声も聞こえてきます。
ガスパールとはあまり社交の場に出なかったので、私が新サノーバ侯爵と気付いている人はそんなに居ないようです。
国王陛下の目配せで、私と新エディン公のオリバー様が陛下の横に招かれます。
内外の諸侯が集まったこの場で、新公爵と新侯爵のお披露目です。
「皆の者、本日は王太子リュミエルとその妃ナミアの婚礼式によくぞお集まりいただいた。この善き日に我が国に新しく爵位に就いた者を紹介させていただきたい。…新エディン公爵となった…」
国王陛下が高らかに紹介されると、その言葉が終わらないうちにホールに何方かが入って来られました。
会場に居た者は皆そちらの方に注目します。
白の軍服に金の肩章、裏地が緋色の金のマントを翻して真っ直ぐにこちらに向かってきます。
騒めいていた会場が静かになります。
この御方は確か…
「シオン国王陛下。この善き日にお招きいただきミッドガルド国王ヘルベルト・フォン・ミッドガルドより御礼とお祝いを申し上げる」
国王陛下は言葉を切り、突然眼前に進み出たその御方を見ています。
そしてその御方は視線を王妃陛下に移されました。
「マルガレーテ王女。久しく貴女にお会いできなくて寂しい思いをしていたよ」
うっすらと笑みを浮かべるミッドガルド王に対して、王妃陛下は厳しいお顔をされています。
王妃陛下よりミッドガルドとの事を聞かされておりましたので、それもさもありなんと思うばかりです。
「ずっと貴女を欲していたというのに、シオンの王妃となられてはそれも敵いますまい。して、どうだろう。貴女の娘のアンジェ殿下を我が国に輿入れさせるというのは」
黙っていた王妃陛下が口を開きます。
「ミッドガルド国王、礼儀に則った挨拶をしようと思うにも、いきなり無礼な物言いをされてはそれも適わぬ。それにアンジェは現在婚約中の身ゆえ…」
「この場に兵を踏み込ませて王女を浚う事も可能なのに?」
そしてミッドガルド国王は私の方を見ます。
…何故?
「アンジェ殿下。この国の平和の為に、我が国へ輿入れをなさらんか。何よりも国の為を想う王家の者なら否とは言えますまい」
―――え。
え――――と?
私、アンジェ様と間違われてます???




