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3 愛を引き裂く悪役になるのはお断りします

次の日に父公爵から国王の沙汰を聞いたガスパールが再びサノーバ侯爵家に来ていた。

貴族籍を抜かれると聞いて漸く事の重大さがわかったのだろう。

婚約破棄は無しにして再構築を求めに来たのだ。


「今更何の御冗談を仰ってるのですか、エディン公爵子息様」


既にカタリナと男女の関係にあって婚約者の交代をしたいと言い出したのはガスパールの方じゃないか。


「カタリナとの婚約に切り替えるだけの筈がこんなに大事になるなんて思ってもみなかったんだ」

「どう思おうがご勝手ですが、それによって私の立場を著しく傷つける事は全く考えておられなかったと」


それだけじゃなく、国王陛下に対して侯爵家も公爵家も泥を塗ったことになるのですけどね。


「だから悪かったと思ってる」

「悪かったと思ってももう起きてしまったことは無かったことにはできません。それに私は愛し合う恋人達を引き裂く悪役にはなりたくありませんの」


まったく、御自身の謝罪にどれだけのありがたみがあるなんて勘違いをなさってるんだか。


「お願いなさりたいなら国王陛下になさっては。ああ、でももう貴族ではなく平民になられるのですよね。エディン公子息様なんて呼んではいけませんわね。その平民の方が国王陛下にお会いできるものならやってみてくださいませ」


そう言うと、ガスパールはぐっと声を詰まらせた。

今更国王に陳情したところで決定が覆るとは思わない。

ガスパールの事は、『身勝手な理由で約束を破り人を裏切る王命に逆らう信用できない者』という評価になっているだろうから。

まして保身の為に簡単に掌を返すような真似をする者は、最も王の周囲の臣には置いてはならない者だ。

そのような者を公爵家にも侯爵家にも置いておくのは危険過ぎる。


「冷たいな、エヴァンジェリンは。そういうとこだぞ、可愛げが無いってのは」

「名前で呼ばないでくださる?もう婚約者でもないし貴方は貴族でもないのに」


そこまで言って、ああ、と思い出したように話しかけた。


「婚約破棄のお申し出、喜んでお受けいたしますわ。一つだけ条件がございます。あの子の嫁ぎ先を貴方が無くしたのですから、どうかカタリナとは決して離縁しないでくださいね」

「…」


元婚約者が冷たいというから、妹思いの優しい姉を演じてみせた。

安っぽい正義感でどれだけの人を傷付けているんだ。


「せめてカタリナだけでも幸せにして差し上げてくださいね」


にっこり笑って先に応接室を辞した。

ええ、私の幸せを貴方なんかに祈ってもらわなくて結構ですのよ。

それよりご自身のこれからを心配した方が良いと思いますの。



10歳の時に婚約して7年、政略であってもそれなりに交流があれば情は湧いた。

貴族なのだから政略で結婚する方が殆どだ。

長い年月寄り添って愛情を育てて家庭を作って行く。

自分もそうなのだと思っていた。


悲しくないといえば嘘になる。

それでも結婚してから身勝手な理由で裏切りを受けるより、その前に素性が知れて良かったとも思う。


良い方へと思考を切り替えようとして居たら、部屋の前で待ち伏せるカタリナに遭遇した。


「お姉様、一体何をやってくれたのよ!」


私とやり直すと言ってガスパールは侯爵家に来たのだから、私が何か唆したとでも思ったのだろうか。


「私がやったことと言えば、婚約の破棄を受け入れますと言った事かしら」

「嘘よ!それだけでガスパール様があんな重すぎる処罰を受ける訳ないじゃない」

「処罰を受ける訳はあるのよ。以前にも言ったでしょう、私達の婚約は王命だって」

「王様に命じられた愛のない結婚をなさるのは可哀想だわ!」


愛のない結婚?

一体何を言ってるんだろう、この子。

恋愛小説とかの読み過ぎじゃない?


「彼は貴女と愛のある結婚を望んでそれが叶えられる。おめでとうカタリナ。貴女も年寄りの後妻じゃなくて愛のある結婚ができて幸せになれるわよ。そんなの、貴族では望んでもなかなかできない事なんだから良かったわね」


望んだとおりになったのに何を怒ることがあるのかしら。


「でもっ、貴族じゃなくなるって…っ」


欲しいものは何でも手に入れてきた。

にっこり微笑んで、泣いて脅して。

それはその願いを聞いてくれる存在がいたからできたことよ。

これからは自分の力で何でも手に入れなきゃいけない。


「国王の命令に背いた貴族は反逆の意志があるとして処刑されることもあるのに、貴族籍の剥奪で済んでとてもラッキーだったと思うわ」


私が癇癪を起こした妹に微笑みかけると、カタリナは顔色を青くさせて走り去った。

ああそうだわ、お父様が帰宅されたらご報告しなきゃ。


カタリナと一生添い遂げる事を条件に、私がガスパールとの婚約破棄を受け入れたって事を。


お父様はお父様なりにあの子の幸せを考えていたのに。

平民の男の妻になって苦労するだろうに、あの子は愛のある結婚を選んだ。

何が幸せなのかはあの子が決める事。

あの男の妻になるあの子はもうこの家からは出て行くのだから、私ももうあの子の為に我慢することもなくなるわ。


皆が幸せになれるわね、素晴らしい決断をしたわねガスパール。

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