28 王命にしたら今度こそ王妃陛下がキレますわ
「恐れながら王太子殿下。それをいたしますとナミア様とトーエン国の不興を買うのではございませんか。国の王女が蔑ろにされていると」
そう言って極力政略の話をしたのですが。
「事実ナミアに能力が無いのだから仕方がない事。それを咎める事はトーエンにはできないのだから」
「それにフィリップ殿下との間に溝ができてしまうのでは」
王家の兄弟が争うのは良くありません。
王位が絡んでいる者同士なのですからシャレになりません。
「一緒に国を支えていく伴侶として幼い頃から貴女を思い描いていたのは何もフィリップだけではない」
そう言われて息を呑みました。
「フィリップとの婚約話は未だ内々でのものだ。改めて父上に奏上してみる」
絶対に反対するであろう王妃陛下ではなく、国王陛下にってところが確信犯なところです。
私の婚約を王命にしないで、とアンジェ様は憤っておられましたが、国王陛下は国の利益を冷徹に考えて人を動かす方です。
「それともエヴァンジェリン嬢は、私の側妃では不服だろうか」
絶対にそうですと言えないのをわかっていらっしゃる。
そりゃあ疵物となり侯爵領も王家の預かりになった身の上ではありがたい話には違いありません。
「そのような事は考えておりません。ただ、私はフィリップ殿下から求婚され、それを受けた身です。殿下のご了承を得るのが先かと思います」
「私はフィリップは個人の感情よりも国益を選択する方に期待している」
…そんなの知らんがな!でございます。
リュミエル殿下のお申し出は、実は他にも要因があってのことでした。
その事を婚礼式の当日に知ることになってしまいました。
ともかく、先にフィリップ殿下にこのお話を相談することにしました。
相当お怒りになる反応が目に見えておりますので、どうやって話を切り出すかにも頭が痛くなる思いでした。
意外にも殿下に話した時の反応は予想とは違っておりました。
静かに眉間に皺を寄せ、
「…そうきたか」
と怒りを抑え込んで呟いていました。
私と王家の兄弟達は幼い頃から交流を深めてきたのです。
「アンジェだってそうだったんだ。兄上がエヴィを好きにならないなんて確証はなかった。寧ろ将来の王の伴侶として好ましいと考えるのは当然だ」
何やら不穏当な事を仰っておられます。
生涯王家の預かりとなる身ですから、私からは何とも申し上げられません。
フィリップ殿下はアンジェ様に王妃陛下への言伝を頼み、何事かと部屋に王妃陛下が入って来られました。
「エヴァンジェリン嬢。リュミエルが其方を側妃にと申し出たのは真か」
開口一番、そう仰られたので驚いていました。
「婚礼式も未だだというのに、今からそんなことを」
王妃陛下には、御自身の婚礼の時のバタバタが記憶に蘇ったようです。
「婚礼式の祝宴の招待客のリストにミッドガルドの王が含まれておる。恐らくそれを牽制しての事であろう」
ん?
どういうことでしょう。
「この祝宴に、シオンの才媛であるサノーバ侯爵が出て来る。諸侯にとって、また外国の王族にとってもこの上ない優良物件なのですよ。黙って見過ごされる筈がありません」
要するに、狙われてるのはナミア様ではなく私って事なのでしょうか。
そこに、アンジェ様に連れられて国王陛下と王太子殿下もやって来られました。
何か言うより先に王妃陛下が国王陛下に向かって鋭い声を浴びせられました。
「陛下。エヴァンジェリン嬢の婚約を王命にいたしましたら、私フィリップとエヴァンジェリン嬢を連れてリンゼイに帰りますわ」
それには陛下もヒエっと声をあげ、顔色をなくしていらっしゃいます。
王妃陛下の実質の離縁宣言になります。
「し、しない!しないから待ってくれマルガレーテ!」
「エヴァンジェリン嬢を守るには王太子の妃の立場が良いと?莫迦な、リンゼイの王家の一員であることの方が余程強固な守りとなるでしょう」
王妃陛下がいらっしゃってこその大国の庇護です。
それを受けられなくなるとトーエンとの繋がりなど波に翻弄される小舟のようなものです。
はあ、と呆れたようにアンジェ様が国王陛下に文句を言います。
「大体、元はと言えば父上がいけないのですわ。エヴァ様の婚約を王命なんかにしたからフィリップ兄上との婚約ができなくなってたんですもの」
でもでもだって、ロード領が欲しかったんだもん、とか何とかぶつぶつ呟いておられます。
あのう、もう一度(心の中で)言っても宜しいでしょうか。
―――知らんがな!!




