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25 リンゼイ王家の不思議な宝珠の薬は王妃陛下が作れるようです

「二つ条件がございます。シルビア嬢には、王家の御子を産むことは許しません。まさかリンゼイとの火種になる事をお望みではありますまい?」


そもそもの問題がそこに在るのだから、否とは言えない。


「勿論でございます。元はと言えば身を弁えぬ娘のした事が発端なのですから、全ては王妃陛下の望みのままに」

「もう一つは側妃という称号こそ与えますが、国政に対する権力を一切与えません。国王陛下をお慰めする事、それが唯一の務めとなります」


マルガレーテは畏まるトール伯爵から無言で俯くナバールに視線を移す。


「陛下、何か異議はございますでしょうか」

「…」


何も言葉を発しないのが、そのまま是の意と捉えられた。


「ではそれで宜しゅうございますね、陛下」


にこりと笑うマルガレーテ。

嘗てそんな笑顔を見た事は無い。

諸侯の前で不義な国王の所業を暴き、国王の不貞相手を慰み者として王妃が召し上げる。

完全に王家の力関係が決定した瞬間だった。

以降も、議会の玉座には王妃陛下が座することになる。


誰よりも国の事を考えて、私情ですら殺してしまう王妃がその座に就くことを誰もが認めざるを得なかったのだ。



ぱちん、と軽くマルガレーテが手を叩いた。

すると侍女が議場に現れた。

ワゴンには新しいお茶のポットと茶器。

それがシルビアの前に置かれる。

マルガレーテは袖から1つの箱を取り出した。


銀色の細工が施された箱の蓋には、真ん中に大きな青い宝石が嵌められている。

それを開けると、中から1つの珠を取り出した。

銀に青が溶け込んでいる様な不思議な美しい珠だった。


マルガレーテが手に取ると、それは二つに分裂して新しい珠ができた。

新しい方の珠を茶器に入れ、ポットのお茶を注いだ。


シルビアはそれを不安そうに見ている。


「ご安心くださいませ。毒ではございませんわ。リンゼイ王家に伝わる秘薬ですの。御子ができなくなる薬です。リンゼイは大国故に、王家の血を狙う輩がどの時代にも居たのです。ですからこの秘薬が作られるようになったのです」


嘘は申しておりませんわ、とマルガレーテは内心付け加える。


「お飲みくださいませ。それでこの件は契約が成立いたします」


珠は茶器の中で溶けて、茶色のお茶の色が薔薇色に変わった。


「わあ、綺麗。それに良い香り。こんなお茶、見た事が無いわ」


シルビアは興味津々、ティーカップを覗き込む。


「あの、それは今ここで飲むことが必要なのだろうか」


不安げにナバールが尋ねる。


「寧ろ信用を得るために必要な事では?」


信用が地の底に落ちている国王が何を言う。

マルガレーテの冷ややかな笑顔がナバールに刺さる。


「貴女は一生御子を抱くことができないのと引き換えに国王陛下の傍に侍る。どのみちまともな縁談も望めないと言うのなら、悪くない選択でしょう?」


コクリと頷くシルビアがカップを持ち上げ、一口お茶を口に含む。


「…凄く甘いわ。そしていい香り…」


恍惚とした表情で、残りのお茶も飲み干した。

その様子を見て、マルガレーテは嫣然と微笑んだ。


「気分はどうかしら?」

「はい、特に変わったことは何も…美味しいお茶をいただいて幸せな気分です。ありがとうございます、王妃陛下」


それには何も答えず、にこりと微笑みを返した。



それから直ぐにシルビアは側室として召し上げられ、その翌々月にはマルガレーテ王妃の懐妊が発表された。

4年のうちに王妃は3人の御子を産み、盤石な地位を固めた。

第一王子リュミエル、第二王子フィリップ、第一王女アンジェの3人共が王妃によく似たプラチナの髪とアイスブルーの目を持ち、仲良く育てられた。



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