21 その後のカタリナとガスパールの事は陰から伺いました
エヴァンジェリンに会いに来るときは堂々と正門から玄関にやって来たガスパールも、カタリナを連れ出しに来たのは使用人達が使う裏口の方だった。
カタリナが持っている少なすぎる荷物を見て溜息を吐いた。
侯爵家の次女だと思っていた女性は、ただの平民の娘だった。
エヴァンジェリンに実務を任せ、侯爵家の跡取りはカタリナが産む。
そんな未来の予定が崩れ落ちていく。
婿入りの時に持参する筈だったロード領も慰謝料として取り上げられ、この先収入を得る方法が無い。
取り敢えず城下に向かい、仕事を探した。
一応貴族院で教育を受けたガスパールだったが、勉強には不熱心で成績もふるわなかった。
それで家庭教師ならできるかもしれないと安易に考えていたら、教えられるだけの器が無く、何処に行っても断られ続けた。
かといって力仕事ができる訳もなく、食堂の給仕程度の仕事にありつけた。
三男坊とはいえ一応公爵家の子息だっただけあって、見かけは整っている。
そのうちガスパール目当てに来る客が増えて、最初こそ仕事がうまくこなせず給金も安かったのだが、慣れれば人並みの働きはできるようになった。
平民と違って読み書き計算くらいなら難なくできる。
平均が高い場所でなら埋没してしまう能力も、平均が低い場所でなら輝くことはできたのだ。
国内の貴族の頂点であるエディン公やその跡継ぎの兄オリバーが見れば、栄えある公爵家の子息がその程度なのかと呆れるだろう。
それでも能力が高くどうしても比べられるエヴァンジェリンの後ろで縮こまって生きていくより自尊心が湧いた。
但し得られる給金は独りで生きていくのにギリギリな額しか貰えない。
「カタリナ、君も働いて。僕一人では君を養っていく事が難しい」
公爵家の子息だからと思って近付いたのに、養えないという甲斐性のなさにカタリナは落胆していた。
「ええー、私働いたことなんてないからどうすればいいかなんてわからないわ」
不機嫌そうにそう言うカタリナに、ガスパールは自分が働く食堂に口利きをしてみると返事をした。
ガスパールに連れられて食堂にいったはいいものの、何をやっても上手くできないカタリナには食堂の主人も呆れてしまった。
見かねて客の一人が声を掛けた。
「お嬢ちゃん、この仕事向いてねえんじゃないか」
「はい、そうかもしれません」
ぐずぐず泣けば周囲が甘やかしてくれることに慣れ切ったカタリナは、そうして同じようにしおらしくして見せた。
「俺の店で働かないか。あんたならきっとすぐ稼げるぜ」
「本当ですか!?」
目を輝かせてカタリナはその男の話に乗った。
役に立たないカタリナの代わりにと忙しく働くガスパールは、男がカタリナと連れ立って店を出て行ったことに気が付かなかった。
男が連れて行ったのは娼館だった。
客層は富裕な平民が多かった。
普通の平民の容姿では満足できないといった人達を満足させるといったコンセプトの店で、小汚い客は見当たらない。
そこでどういった仕事をするのか説明された後、そこで働くかどうかを質問された。
「でも、御子ができては困りますわ」
断り文句のつもりで言ったのに、笑って返された。
子ができなくなる薬は高価だ。
自前で買っていては働く意味がない。
「心配ない。俺の店ではその薬はどの娼婦にも給金とは別に与えている」
店主としては、高級娼館の女達にはその心配なくバリバリ働いてもらう方が儲けが多くなるからだ。
「まあ、薬を買うお金を心配しなくて済みますのね!」
男達にチヤホヤされるのはカタリナの自尊心を大いに擽る。
しかもお金も貰えて一石三鳥くらいの良い職場だ。
カタリナはその場で男に娼館で働くことを承諾した。
ざまぁによく使われる娼館落ちですが、貴族としての誇りを持っていない娘には嬉々として働く職場かもしれないと思うと、これがざまぁになってるのかはナゾです。




