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20 お父様は悪い事をただ許してきたのではありません

「平民の娘が長年貴族の生活をさせて貰ってきておいて何が酷いというのだ。感謝こそすれ、次期侯爵のものまであれこれ強請って手に入れて、恥ずかしいと思わないのか!」


初めて大声で怒鳴られ、カタリナはビクッと身体を震わせた。


「お父様、酷いです」

「もう私をお父様と呼ぶな。それを許してきた私がお前に勘違いをさせてきたのだから私も悪いのだが」


母と自分に優しく微笑みかけてくれる筈の父はそこに居なかった。


国王に翻意を見せた貴族なのだから、恐らくあれだけでは済まないだろう。


「お前には出来る限りのものを与えてきた。平民が望んでも得られないほどの縁談さえも用意していたというのに。それに不満であったなら、好きなだけガスパール殿と一緒に生きるがいい。私はもうお前を助ける事はできないのだから」


もう話はないとばかりに、サノーバ候はカタリナに背を向けた。

今までありがとうございましたという言葉すらいう事もないまま、カタリナは乱暴に扉を閉めて部屋から出た。



愛妾の連れ子には最大限愛情を注いだつもりだった。

けれどもその愛情は通じず、自分は庇護者として連れ子の欲に利用されていただけだった。



父親に突き放されたカタリナは、母親の所に行って泣きついていた。


「王様に背いた罰に、お父様は私をこの家から追い出すと仰っていたの」

「可哀想に」


母なら執り成してくれるだろうと甘い期待を抱いて。

でもその期待は裏切られた。


「私も侯爵閣下にお願いすることは難しいわ。閣下に養っていただいてる身なのですから、逆らう事は身の破滅になるのよ」


そんな。

母はずっと、美しく可愛く殿方に甘えれば良い暮らしを得られると教えて来たじゃないか。

その通りにして、公爵家の息子の心を射止めたのに。


「閣下は貴女に公爵家の後妻の縁談を用意して下さっていたでしょう。どうしてそれを素直に受けなかったの」

「だって公爵は私の年齢には釣り合わないわ。愛し合う人と温かい家庭を作る事をどうして望んではいけないの」

「カタリナ。私と侯爵閣下の間には子供がいないでしょう」


母の言葉に、カタリナははっとした。


「後の禍根を残す子は作れないと侯爵閣下は仰った。それを守る代わりに私達によくしてくださった。自分の分以上のものを望めば身の破滅になるの」


まさに今、カタリナはその破滅に直面している。


「じゃあ私はどうすれば…」


青くなって俯くカタリナに、ナタリーは安堵させる言葉を掛ける事はできない。


「自分の持ち物を持って、迎えに来るエディン公爵令息様と一緒に新しい生活を始めるのだと侯爵閣下は仰っていたわ。私からは何もしてあげられないけど、幸せになるのよ、カタリナ」


ナタリーが貰った私物まで、勝手にカタリナに与える事はできない。

言葉こそ優しいが、半ば突き放すような手向けの言葉にカタリナは慌てて部屋を飛び出した。



部屋に戻って、カタリナはクローゼットを開けて持ち出す物を選んでいる。

嵩張るドレス類は置いて行くしかない。

せめてアクセサリーだけでも、と思っていたら侍女がやってきて「お待ちください」と声をかけた。


「カタリナ様の持ち物ではないものまで持ち出すことは許されていない筈です」


そう言って、一旦鞄に詰め込んだアクセサリーを引き摺り出した。


「エヴァンジェリンお嬢様から取り上げた物は、この屋敷に居てこそ持つことを許されていただけです。侯爵家の物を平民が外に持ち出すのは窃盗になりますので憲兵に引き渡します」

「そんな、お姉様はこれを下さって…」

「違いますでしょう。私達はカタリナ様が強請って無理矢理お嬢様から奪っているのを何度も見てきました」


これと、これと…とアクセサリーを仕分けて行くと、カタリナの私物のアクセサリーは殆ど残らなかった。



何故なら、殆どのアクセサリーをエヴァンジェリンから奪っていたから、ランセットも買い与えなかったのだ。

お前にも買ってあげるからそれは返しなさい、と言えばその成功体験でまたエヴァンジェリンの物を盗っては自分にも買ってもらうという事を繰り返しただろう。

だからこそランセットは黙認した。



もっとしおらしくしていれば、ランセットだって憐れんで買い与えてくれていたかもしれない。

自分の分以上のものを欲しがったら身の破滅になると言ったナタリーの言葉が今腑に落ちた。


誕生日等で買い与えられた僅かなものだけを持って行かなければならなかった。

侍女達が見張っているので、誤魔化して持ち出す事も適わなかった。

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