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2 王命に背くと大変な事になります

「私ではその件についてはお返事できかねますわ。父侯爵にも相談いたしませんと」


お茶やお菓子の味なんてもうわからない。

きっとガスパール様が来られるからとメイド達も良いお茶を用意してくれてたに違いないわ。


「いや、一刻も早い方がいいんだ。そうしないとカタリナはデジナ公爵に…」

「お姉様、ガスパール様は私の方がいいって仰ってくれたの」


カタリナを気遣うように肩を抱くガスパール様。

そしてカタリナがお腹を撫でる仕草をして息を呑んだ。


―――え?


「お父様にもお願いするわ。ガスパール様の御子がいるかもしれないんですもの。いつものようにお父様だってきっと」


許してくれる、そう言おうとしたのか。

御子って、何を勝手にそんな関係になってしまっているの。


ああ、昔からこの子はそうだった。

やったもの勝ちとばかりに私のものに手を付けて自分のものにしてしまう。


でも婚約者は玩具やアクセサリーやおやつじゃないんだから、仕方がないわねと安易に譲れるものでもない。


なのに、今回もそうやって今更返しませんよという行動に出てしまっていた。


頭痛がしそうだった。

折角の美味しい筈のお菓子が、お茶が、何よりこの時間すらも勿体無い。


「ガスパール様、王命に背くことはどうお考えでいらっしゃいますの」

「え?姉妹で婚約者を交代しただけなのに王命に背くの?」


まあ、侯爵家の実務的な事は私がやることになってたから、彼は特に何もしなくていいと思ってたんだろう。


「あ、それじゃあエヴァンジェリンと結婚してカタリナを愛妾にするとか」


婿入りする三男が結婚する時点で妻の妹を妾にするとか、その頭には脳みそではなくクリームでも詰まってるのかしら。

無理だ。

こっちの方が願い下げだ。


「もう結構です。お父様に話してきますわ。包み隠さず何もかも」


これ以上頭痛が酷くなりそうな話を続ける気になれなかったので、立ち上がってその場を辞した。

テラスには婚約者と妹が取り残されたが、もうこの婚約は続ける気が私にもなかったのでどうでもいい。


その日、お父様が城から戻られて夕食に向かう前に、青天の霹靂ともいうべき婚約者と妹の愚行について報告することになった。

父侯爵は僅かに顔色を変えたが、そのまま動くな、任せなさいと言うにとどまった。




翌日のうちに父侯爵とガスパール様の父君のエディン公爵が王城に召された。

エディン公爵は息子のやらかしにその時初めて気が付き、血の気が引いていた。

息子がサノーバ家の令嬢の元によく出かけているから、てっきり私との仲を深めているのだと思い込んでいたようだ。

それが普通よね。

まさか息子が婚約者の屋敷に行って、その妹と懇ろになってるなんて常識を考えれば思わないわよね。


「さて、エディン公ウィッセルよ。其方、子息にこの婚約の意味をきちんと教えていたのであろうな」


玉座の国王陛下の言葉に、エディン公爵は頭を垂れながら是と答える。


「では何故其方の子息ガスパールはエヴァンジェリン嬢との婚約を破棄したいと言い出したのだ」

「それが…」


息子から何も聞いていないエディン公が言い淀む。


「ガスパール殿はエヴァンジェリンではなく妹のカタリナを妻にしたいとのことです」


代わりに詳細を聞いていたサノーバ候ランセットが答える。

カタリナの血統については特にガスパールには話してこなかった。

恙なく婚約が結ばれていれば不要な情報だったからだ。

だからこそサノーバ候はそのような血統でも求めてくれる高位貴族の元にカタリナを嫁がせようとしていたのだ。

サノーバ候なりの愛情であったのだ。


「ガスパールの方から婚約の破棄を申し出たのだな」

「そのようでございます」


ふむ、と国王陛下は考えた。


「貴族の家に生まれた者が王命の重さを知らぬわけがなかろう。王命に背いたガスパールを貴族籍から削除し、エヴァンジェリン嬢個人に慰謝料としてロード領を渡すことを命じる。それはサノーバ侯爵家への慰謝料ではない。サノーバ侯爵のもう一人の娘もこの不貞に関わったのだから、以降その娘への援助は禁ずる」


両家に沙汰を出し、一方的に棄てられたエヴァンジェリンを庇うようにした。

次代の侯爵は彼女自身であるため、不出来な公爵家の三男の気紛れで彼女の地位が傷付かないように取り計らったのだ。

エヴァンジェリンには国王の後ろ盾があると諸侯に示す為でもあった。


文句の出しようもない国王の言葉に返す言葉もなくサノーバ候とエディン公は王の間を辞した。

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