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14 家もない領地もない、でも愛がある

「あのっ、それではサノーバ侯爵家は取り潰しに…」


うっそお、お父様から爵位を譲るって言われたのにその爵位が無いってどういうことなの!?


「いや、君が爵位を継いだのだから君は女侯爵になる」

「でもその継ぐべき家がないということでしょう」


それに殿下はふるふると首を振られる。


「さっき言っただろう。侯爵家は王家預かりになったって。つまり君自身も王家預かりになる。今の君は、領地も家も持たない女侯爵なんだよ」


え、ちょっと、ちょっと待って。

お父様はそんな事言われなかったわ。

確かに爵位を譲るとまでは仰っていたけど。


「そんな…」

「公爵領も半分は王家の預かりになった。そっちは兄上が中心になって治めていくことになる。僕は侯爵領の方を任されていてね。それには是非とも元の領主である侯爵の力を借りたいんだ。領民達もその方が安心できるだろう」


理解がなかなか追いつかなくて言葉に詰まっていると、徐にフィリップ殿下がビシっと指を三本立てられた。


「三人だ」


え?何が三人?


「少なくとも御子を三人産めば、次の代で公爵家も侯爵家もそのうちの誰かに爵位と領地を返してあげられるそうだ。アンジェも大変だなあ、公爵家の代替わりもだけど婚姻式もそれで早まることになった」


ざあっと音を立てて血の気が引くのがわかります。


「他人事じゃないよ、勿論君もだよエバンジェリン・サノーバ・アルキオーネ侯爵」


殿下はソファから立ち上がり、呆然としている私の前に跪きます。


「第二王子フィリップ・シオン・ソロルが乞う。私の妃になっていただきたい」


あ、この方フルネームで仰った…

冗談ではなく本気で、ということだ。



「あの、フィリップ殿下は婚姻はしないと仰っていたという噂を聞き及んでおりましたが違ったのでしょうか。その障りになると思って、余計な誤解を与えては失礼かと思っておりましたのに」

「幼き頃から貴女だけを私の妃にしたいと望んできた。王命でそれが叶わぬこととなったのなら、婚姻はしなくてもよいと思ってきた。貴女でなければ意味がなかったから」


だから誤解じゃなくて、本当にそういう印象を与えたいと思っていたということなのかしら。


「王子の僕が望むのだから貴女は断れないだろう。でももし、貴女がどうしても僕の妃になるのが嫌で耐えられないと思うのなら、断ってくれてもいい。僕は貴女を不幸にすることを望んでいないから」


お返事、即答じゃなきゃダメ?

でも二択、というかほぼ一択よね。

お父様に相談しようにも、もう侯爵の当主は私なのだったわ。


最後の殿下の言葉は、ご本人の意志よね。

命令ではなく、御自身の意志で私を望み、そして私の心を尊重してくれようとされている。

心から私を望んでおられるのは、あの執着心の塊のようなドレスからも察せられた。


「その、殿下が嫌というのはありません。共に国を支えていくのだと子供の頃から考えていた御方でしたから」

「うん…」

「もしも、もしもですよ?私がお断りしたら殿下はどうされるおつもりだったのですか」


私が尋ねると、殿下は悲しそうに眉尻を下げられます。


「そうなれば、元の通り、私は誰も娶らず終生王家の一員として兄上を支えるつもりだ。侯爵家を預かっている以上、貴女も領地も家も持てず王家から解放される事は無いだろうけど」


普通に考えて、断るのは愚かな選択ね。

幸いな事に殿下は嫌いではないし、寧ろ好ましい方だと思って来た。


「殿下。私を悲しませたくないと思われるお気持ち、嬉しく思います。私も同じです。殿下を悲しませる事は望んでおりません」


悲しげだった殿下のお顔がぱあっと晴れます。

どなたかしら、殿下も可愛げがないと仰る御仁は。


「そ、それでは…!」

「はい、共に歩み共に幸せになりたいと願っています」


そうね、どちらかが一方的に支えるのではなく、共に分かち合っていきたい。


「ありがとう、ありがとう!」


いつも冷静な殿下が珍しく感情全開で頬を赤く染めて私の手を取り、ギュウギュウと握りしめてきます。

ええ、こんな可愛らしい御方だったのかしら。


「本当に僕の妃になってくれるんだね!嬉しい、ありがとう!諦めなくてよかった!」


ギュウギュウに握りしめてた手は、いつの間にか私の身体をギュウギュウに抱きしめています。


殿下、殿下、落ち着いて~!

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