入口密度
「私、飲食店でバイトすることになったんだ」
友達のAが言う
「ええ、ちょっと客とのトラブルとか怖そうじゃない?蹴られたりとかさ」
もう一人の友達のBが心配そうに返す
私達は毎日一緒に登下校を共にする友達だ。
今日は、Aが新しいバイトに採用されたという話題で持ちきりになっていた。
「やっぱり将来は飲食店とかじゃなくて、飛行機とかで働きたいよね」
「分かる。やっぱり一つの場所だけで働きたくない。世界を駆けて働きたいよね」
「でも世界中の人と関わりたいなら、高級ホテルとかもいいよね」
「うんうん、そういうところは客の質もいいよね。メンテナンスもしっかりしてくれるし」
「ところで、私達一体どこで働くことになるんだろうね。もうすぐ職業審査も始まるし」
私達が通っている学校は人々が言うところの専門学校のようなものなのだろうか。
各自が自分のなりたい職業のために必要な能力を育むため、一部の基礎的な授業を除き、生徒が自分の興味関心のあることを学ぶことができるようになっている。
「一度位置についたらもう身動きが取れなくなるから慎重に場所は決めないとね」
職を選ぶうえで重要になってくることはやりがいも大事だが、やはり、長生きできるのかということだ。
先ほどのBの心配事のように、私達が仕事で壊れてしまうと、運が良ければ修理をしてもらえるが、怪我をしたまま働かされることもある。ましてや、一度壊れてしまった私達をそのまま捨ててしまうことだってあり得るのだ。
『キキーッ、ガシャン』
聞き慣れない音が聞こえたかと思うと突然Aが私に体当たりをしてきた。
後ろから車が急に突っ込んできて私達を跳ね飛ばしたのだ。
ドアを閉める音を立てて運転手が私達のいる方へ駆け寄ってくる。
「人に怪我がなくて良かったよ」
状況を確認した彼は少しほっとしたように胸をなでおろす。
私はちらっと後ろを見る。後ろのAとBは少し損傷はあるが、修理をすればすぐに元通りになりそうだ。一方で無理を言ってガラスの身体にしたことに対しての天罰か、私の身体は紙吹雪のように粉々になっていた。
***
「フフッ」
自分の家の近くで起こった事故現場を見て思いついた自分の妄想に自分でも笑ってしまう。
入口の入という字は人と形が似ているだけでなく、同じように将来へ不安を抱き、働く、人のようなものだ。
また、人が多いところには入口もよく集まることになる。
まさに、人口密度が大きいほど、入口密度も大きくなる。
4作目です