7話 そんなことばっか言ってたら女の子にモテないぞー!
階段を降りたものの、砂浜には人でごった返している。さらに結衣が言うにはそこに幽霊もたくさん居るらしい。……だから余計に暑く感じんのかな、ここ。
「お、おい!」
砂浜に降りた途端、結衣は海の方へ走って行ってしまった。……勘弁してくれよ、こんなに暑いのに。追いかけるか、見失う前に。……はあ。
「お、おい。……ぜぇ」
「……ゆーま君!もう早速泳いでもいい?もう待ちきれないよ!」
……人を走らせておいて一番初めに言う言葉がこれか。てか、さっきの「人のいない場所を探す」という話はどこに行ってしまったのか。
「……おい。着替えるために人のいない場所を探すっていう話はどうしたんだよ」
「だってだって!目の前にこーーんなに大っきい海があるんだよ!ゆーま君だって見えるでしょ!?」
「分かった、分かったから。ちょっと落ち着け。早く探しに行こう、な?」
「むぅ……」
結衣がほっぺを膨らませて少し低い声で唸っている。
階段を降りてからというもの、結衣のテンションが目に見えるほど上がっているように見える。階段にいるときに結衣の手首を掴んで少しばかり大人しくなったのに比べて、やっぱり結衣にはこのほうがずっと似合っている。
まぁ、幽霊になってから楽しいことなんてあんまり出来なかっただろうし、目の前の海に魅せられたらテンションが上がるのも納得だ。……しかし、テンションが上がるのはいいことだが、目の前のことに夢中になって他のことを忘れるのはどうにかしてほしいものだ。
2日前までは悪夢ばっか見てどんより暗かった気がするのに、昨日結衣が来てからは、結衣の豊かな表情・感情でいつもの自分らしさ?が戻っているような感じがする。
……ちょーっとからかってみるか。結衣の反応って面白いんだよな。
「まあ、お前が服を着たまま海に入ったとしてもここにいる人達には見えないから良いんじゃないか?別に俺は構わないけど?」
いたずらっぽく笑って結衣に向かって言ってみる。膨らんでいるほっぺは少し赤くなった。
「もう!ゆーま君たら!!ヒトには見えなくても幽霊がいるって言ってるでしょ!」
「そんなことばっか言ってたら女の子にモテないぞー!」
……思っていた反応とは大きく違って、結衣は俺と同じようにいたずらに笑って言う。
「……おう」
モテない。モテないってそりゃ事実だけれども。なーんか他人から言われんのは……ねぇ。
「……もう!そんな暗い反応しないの!こんなとき、『なにを〜!』とか言うのがゆーま君でしょ!」
「ああは言ったけどゆーま君、モテる要素はあると思うよ?優しいしあとは……」
結衣が必死にフォローしようとしている。……しているが、そのフォローが今は心にくるものがある。
「もう!ゆーま君たら!そんな落ち込んでないで早く探しに行くよ!」
「…………別に、落ち込んでねぇよ」
「え〜。本当かな〜」
「……ああ、本当だとも」
自分から仕掛けて自分から自滅して、結衣よりは冷静でしっかりしていると思い込んでいたが、こうやって気分も一気変わって。俺と結衣はもしかしたら似たもの同士なのかもしれないな。
……いや、これだけで俺と結衣が似ているというのは失礼か。結衣は俺とは違って人を惹きつける、変えさせる"もの"を持っているような気がする。
結衣には落ち込んでないと言ったが、いきなり内心1位2位を争う気にしてることを突かれて気分が上がって来ない自分がいる。
結衣は本当のことに気づいているのだろうか。……いや、気づいていないか。気づいていたらもっと色々とフォローしてるだろうし。
でも、このままだと気づかれるか。何か気分が戻るようなことはないか。うーん……。
……あっ、そうだ。俺には場所を探す前にやらないといけないことがあったんだ。すっかり忘れていた。
「なあ、結衣」
「ん、何?」
「俺、場所を探す前にそこの更衣室で着替えようと思ってるんだ。少し待っててくれるか?」
「えっ?なんで」
何で?何でと言われても……。気分転換的なものもあるし……なにより
「別に一緒のところで着替えればよくない?」
「あのな?結衣」
「うん」
「海に来たのに何にも水着にも着替えないで人気のない所を探して彷徨う……」
「これ、傍から見れば結構おかしな奴に見えなくないか?」
「うーん、そうかなあ。私は別に」
「と、とにかく!俺は着替えてくるから。ちょっとそこで待ってくれ」
「あっ、ちょっと!」
結衣の声を振り切って俺は更衣室の方へ走り出す。ちょっと一方的な別れ方をしてしまったが、結衣はちゃんとあの場所に留まってくれるのだろうか?
結衣のことだ。ああはいってもいきなり制服を脱ぎだして海で泳いでいるのかもしれない。どこかへ走り出すかもしれない。どこかへ行かれでもしたらこの人混みの中探すのは難しくなる。
……心配だ。早く着替えないと。ゆっくりと気分転換している場合じゃないな。いや、逆に忙しいから……。
何にせよ、急がないとな。
……てか、『別に』って?ん??
──────
「うげぇ……」
更衣室の中に入った途端、俺は思わず声が出てしまった。
砂浜にいた人の数から予想は出来ていたつもりだったが……それでも人が多すぎじゃないか!?
まあ、今日は海で花火大会もやるし、昼過ぎだからある程度は覚悟はしていたが……ぐぬぬ。
てか、こんなに人数がいたらロッカー、空いてないんじゃないか??うう……本当に空きがなくなる前に早く見つけないと。
人の多さに圧倒され、少しげんなりしつつも探さないことには何も始まらない。俺は少し小走りで更衣室内を回る。
……ゴトン、ゴトン
手に持っている二つの荷物がぶつかる音がする。更衣室の中には人がたくさんいてうるさいはずなのに、この音が妙に響く。
一つは俺の水着、もう一つは海に来る前に買った結衣の水着やらが入っているが……。
ちょっとかさばるな……。結衣に自分のものは持たせておくべきだったか?てか、結衣はちゃんと待っていてくれているのだろうか??
うう……早くしなきゃ……。
前回の投稿から随分と遅れてしまいました……。最後まで読んでいただきありがとうございました。次回も読んでいただけると嬉しいです!