11話 ちょっと思ったよりキツイかも。……胸のあたりとか。
「……ありがとうな、結衣」
結衣の手に引かれながらなんとか無事に向こうの砂浜まで辿り着くことが出来た。……めっっちゃ疲れた……。
手を放して結衣の顔を見てみると、顔は少し赤くなっていて『?』というような表情だった。
「ううん。私は別に。……どうしたの?」
……やっぱり、それ気になるよな。そりゃそうだ。いきなり手を繋ぐし、さっきまでとはまるっきり様子が違うんだから。
……ちゃんと言わなきゃな。結衣のためにも。
「……悪い夢をみたんだ」
「え?」
「結衣が来る数日前くらいだったかな。海で溺れる夢を見たんだ。それがあまりにもリアルで……。そこから海が苦手というか、トラウマというか……」
「言ってくれれば良かったのに……」
結衣がシュンとした寂しそうな顔になる。
「ごめんな。結衣も行きたがってたし、なにより結衣がいれば大丈夫だと思ったんだ」
「でも、来た結果がこれだ。笑えないよな……」
……ははっ、本当に笑えねえよ……。結衣には迷惑掛けてさ。もう結衣に顔向け出来ねえよ。
「……って。うおっ!」
結衣に顔向け出来ない。そう思った矢先、結衣はしゃがんで下から顔を覗かせる。
「ねえ、ゆーま君。今、目の前にいるのは誰?」
「??」
「そりゃあ、結衣だろ?」
「ピンポーン!そう、ここにいるのは私、結衣。ゆーま君がこの人となら海を克服出来るかもしれないって思った柳瀬結衣、本人!」
「お、おう……」
結衣の勢いについ押されてしまう。……こんなにグイグイ来る奴だったっけ?それに、何が言いたいのかあまりよく分からない。
「ゆーま君なら克服出来るって!……私となら!」
「そ、そうか?」
どうやら、結衣は俺が苦手な海を克服させるらしい。いや、一度は結衣とならと思いはしたが……。結衣が下からとびっきりの笑顔を見せているが、その期待がちょっと苦しく思う。
「うん!それに……」
「せっかくの海だもん!花火大会までまだまだ時間もあるし……少しはトラウマから抗って見ても良いんじゃない?」
「あっ!別にゆーま君が『本当に無理!』って言うなら私も無理強いはしないから!」
「……」
「……頑張ってみるよ、結衣と」
俺がそう言うと結衣もまた笑顔になる。そうだ、そうだよな。所詮は夢の話だし……なんとかなるのかもしれない。
「と、その前に……」
「私、水着に着替えなくちゃ……。ねえ、それちょうだい!」
そう言って結衣は立ち上がって俺が右手に持っている袋をヒョイっと取った。
「ふっふー!この水着はまだゆーま君にも見せてないからね。着替えてからのお楽しみだよ!」
「あっ。覗かないでよね?あっち向いて待ってて!」
「……へいへい」
『あっち向いてて!』と言われたので、俺は海と反対側を向いて体育座りで待っていることにした。
ちょっとすると、ザーッ、ザーッという波の音に混じってバサッ、バサッと二回ほど何かが砂の上に落ちる音がした。……いや、着替えてる最中なら落ちたものというのは十二分に想像出来るのだが……。……何か恥ずかしいな。見えずに音だけどいうのもどこかもどかしく、ムズムズする。
次にガサガサッと少しこもった音がする。袋の中で何かしているのだろうか。水着でも取り出しているのか。それとも脱いだ服を中に入れているのだろうか。
ガサガサッとした音の後にはドタッ、ドタッと重い感じの音が聞こえてくる。……水着でも見つけて喜んで飛び跳ねているのだろうか。
水着に着替え始めたのだろうか。ドタッという音は無くなりただザーッと波の音が聞こえるばかりだ。
「ん~、ちょっと思ったよりキツイかも。……胸のあたりとか」
……ボソッと独り言のつもりで言ったのだろうが、どんな音よりも頭の中に響いてくる。これは俺に元気になって貰いたくて言っているのだろうか。それとも正真正銘のド天然なのだろうか。
音だけしか無いのがとてももどかしい。さっきの一言で波の音ともう一つ、ドッ、ドッという心臓の音がよく響いてくる。……まあ、結衣の声に勝つものはないが。
……あの一言から少し時間が経ったからか、自分の心臓の音よりも波の音の方がよく聞こえるようになってきた。もうそろそろ着替え終わる頃だろうか。
「ふぅ~。着替え終わったからこっち向いていいよ!」
そう言われた瞬間、とっさに結衣の声がする方向へ振り返る。振り返った時、結衣は少し体をビクッとさせていた。……もう少し、ゆっくり振り返れば良かったかなぁ。
「待って、ゆーま君。そんなに私の水着を期待してたの?」
「い、いや……。そんな訳では……」
「じゃあ、期待してなかったの?」
結衣がニヤニヤとした顔で尋ねてくる。
「おい、結衣。それはちょっとずるいって……」
「あはは!ごめんごめん。ちょっとは調子を取り戻したようで何より何より!そ、れ、よ、り、私の水着、どう?」
「ああ、いい……」
ただ呆然と、淡々と言うほかなかった。いや、俺だって女の人の水着姿は見たことはある。写真やそれこそ砂浜を見渡せばいくらでもいる。しかし、結衣の水着姿というのはどこか特別感がある。
「ちょっと〜!ゆーま君たら、私の水着が楽しみなのは分かるけどさ〜。ちょっと目線がやらしくない?」
「ん?あっ、ああすまん!」
結衣が少し照れたように言う。顔も案の定赤くなっていた。その様子を見て俺は堪らず横を向いてしまった。
しかし……俺だって男だ。健全な男子なら……結衣には悪いが目の前にあるなら見ずにはいられないだろ!
特に目に付くのは本っ当に申し訳ないが胸の方だ。海の色と同じ水色の三角ビキニで、結衣がちょっとキツイと言っていたように少し窮屈?なようにも思う。
しかし……セーラー服の上からじゃ分からなかったが結衣ってその……何というか……大きいのな。
「もう、ゆーま君!そんな目で私を見るなら一人で泳いでもらおうかな〜!」
「悪い、本当に悪かった」
「ふふん。分かればよろしい!」
とっさに謝ると、結衣は鼻息を鳴らして何か誇ったかのような感じで許してくれた。
「……さっ、ゆーま君。私の水着姿を堪能したところで……行くよ!」
「あっ、ちょ!」
結衣が『行くよ!』と言うと同時に俺の手を引っぱる。えっ、ちょっといきなり……!俺はいきなりのことで目を閉じてしまった。
「……!」
ほんの少しの時間、海の波のある所までは5秒もないくらいだが俺にとっては長く感じられる。やがて足首らへんにに冷たい感覚を覚える。
やがて、結衣の俺の手を握る力が若干弱くなった。うっ……結衣離れて行かないでくれよ……。怖いよ……。
「ん、もう!ゆーま君、いつまで目つぶってるの!そろそろ目を開けたら?」
「う、うん」
恐る恐る目を開けて見ると目の前には……海。あの海。しかし、すぐ横を見てみるとそこには凛とした表情の結衣。
今までと同じだと思ったが、ほんの少しであるが違うことがある。それは結衣の距離だ。一番初めの夢の時には結衣は居なくて、二回目のここに来る時は結衣に引っ張ってもらうような感じだったので少し距離が空いていた。
しかし、今は隣。ピタッと隣にいる。隣に結衣がいるということに特別な安心感を覚える。
これなら……イケるかもしれない。
「……俺、頑張るよ。結衣と一緒に楽しむために」
「そうこなくっちゃ!ね、ゆーま君!」
結衣が横から顔を覗かせて笑って答える。その笑顔を見てまた安心する気分になる。……頑張るぞ。
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