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ただいま、地獄

 世の中はあらゆるパターンが組み合わさり、その中の一つ一つが交じり合って構成されている。パターン構成は無限大に存在するため、絶対にありえないという言葉は存在しない。例え世界が三つ同時に存在しようが、死人が生き返ろうが、化け物が現れようが、それはただの確率の一つに過ぎない。


 1963年。地球はもう一つの惑星に覆われ、その惑星を一回り大きな惑星が覆う複合世界と化してしまった。

 荒廃した地球を好き勝手に扱う、無法者が暴れ狂う世界アブノーマル。

 文明が発達し、機械と共に生きる世界ダイタス。

 古風な雰囲気が印象的で未だに魔力という概念が存在し、時代遅れの所に見えるが、裕福な人でしか住む権利を得られない世界カルデラ。

 と、、、三つの異なる世界が混在しあう世の中となってしまった。それぞれ元にいた人々は各世界に分かれてしまったと言われている。ま、これは私たちの世界の都市伝説であり真偽は不明だ。

 もしも上の世界があるのなら、この話を信じてもいいかもしれない。だが、もしもこの話が本当なら俺のいてる世界はアブノーマルとなるのだろう。

 この世界にはルールは存在しないし、殺人や食人を行う、、、いかれた奴らの集まりだから。

 俺は噂話に思い老けながら、椅子に座りぼーっと木製の壁を眺めていた。

 暫くすると、鈴の音が鳴り若い女性が俺の前に立っていた。


「いつまでぼーっとしているのかな。新月。」


「ぼーっとはしてないぞ。」


「へぇ、嘘は良くないな。」


 微笑みながら俺の首を絞めつけ羽交い締めをし、バックドロップをかました。

 俺は首を痛め「クソ姉が、、、」と一言残しつつ、意識が朦朧となり目を閉じた、、、


 翌日、、、


「開けろ、ここにいるのは分かってるんだぞ!人食い!」

(誰だ?聞いたことない男の声だ。)

「開けるわけないじゃない!第一、食糧難なのに人を食って何が悪いのさ!」

(姉が必死に扉を塞いでいる?)


 目が覚めると、外から男の声とドアを叩く音がし、目の前には姉が必死に扉を抑えていた。

 どうやら人を食っている事を知られ、挙句の果てに居場所までバレたらしい。

 俺はすかさず窓の方を眺めると、男が数十人で松明を持って近づいてきてる。

(この家は木製の小屋、火をつけられたら火だるまになって死ぬ。)

 真っ先にこの事を姉に伝えると「家を燃やす気か、、、」と舌打ちをする。

 完全にどこに行っても逃げ場はない絶体絶命な状況。

 だが、、、


「そうね、こうするわ。」

「どうするんだ?」

「火をつけてもらいましょう、その隙に外に出る。」

「正気か?」


 姉の正常ではない判断に俺は困惑をしたが、四の五の言ってはいられない状況であるためこれを受け入れるしかなかった。数秒後、そのタイミングがやってくる。


「投げろぉ!」


 この声と共に、姉は扉を蹴り飛ばし外へ出るが、無数の銃声が鳴り響き姉は膝をつく。


「終わりだ。」

「はぁ、、、はぁ、、、まだ死ぬわけには!」


 男は姉に駆け寄り刀でその首を掻き切った。背後に突っ立ていた俺はその光景が信じられなかった。過去の映像が早急と流れていく。嫌な思い出も、素敵な思い出も、全て、、、


「あぁ、、、ああああ、、、あああああああああぁぁぁ!」


 叫び声と共に走り出した。腰からナイフを取り出し、自身の姉を殺した男の目を抉り取る。

 それを口の中に飲み込みつつ男の足を切り落とす。外部から銃弾を浴びせられ片目も失い、もう立っていられる状態ではなかった。それでもこの怒りは止まなかった。どれだけ銃弾を浴びようと、刃物で切られようと、俺は足を止めずに群衆の目や首、足などの部位を切り落としていき、、、気付けば群衆を皆殺しにしていた。


「やったよ、、、」


 俺は無数の屍が転がり落ちる真ん中で姉の首を手で包みながら、膝をついて微笑みつつささやかな風を浴びながら見上げる。その後、俺は少しの安堵を感じ、倒れ込んだ。


「あれ、おかしいな、、、」


 俺はだんだんと目に映る光景が霞むようになり、次第に暗闇へと変わっていく。その時に俺は悟った()()()のだと、、、


「おーい、神代(かじろ)くん?神代新月(かじろしんげつ)くぅん?生きとるかぁ?あ、死んでるか。」


 女の声が聞こえる、、、確かに今、俺の体は死んだ。だが、誰が俺を呼んでいるのだろうか。


「こいつちっとも起きねぇなぁ。そうだ!」

「誰だ、お前。」

「どわっと!?急に起きるなんて怖いなぁ、、、あと()()はないよ。うん、初対面でないわぁ、、」

「面識もない奴にこいつとか名字で呼ばれる筋合いもないだろ。」


 俺は顔を上げて起き上がると、急に無数の時計が存在する暗闇の空間におり。セーラー服を着ている緑髪の女がそこに立っていた、というより浮遊していた。なぜか、右手に金属バットのような何かをもっているが触れないでおこう。


「で、誰だよ。」

「え、私?名乗るなら神代から名乗りなよ。」

「そもそも名前知ってるなら、名乗る必要ないよな。てか、何で知ってる。」

「え、なんかあったナイフ。これご丁寧にかじろしんげつって彫ってるし、精神年齢は小学生かな?」

「誰が小学生だ。さっさとナイフ返せ。」


 女は俺が倒れている間に、勝手にナイフを取り出していたらしい。

 それで俺の名前がご丁寧に彫られている事を知り名前を覚えられ、ニヤニヤと俺を見る。

 こいつを今すぐぶん殴ってやりたいと感じたが、拳をプルプルと震わして歯を噛み締める程度にしておいた。しばらく女にナイフを返すように睨みかけつつ、震わした手を差し伸べていると、女は少し顔を上に向いて天井を眺める態勢になり、ため息をつき、俺に近づいてきた。


「わかったよ~ナイフ返すよ~名乗るよ~これじゃあ話が進まなそうだし。」

「ようやくか。」

「うっそで~す☆いだだだだだだだ!ナイフ返す!名乗る!だから、だから、、、首絞めんのやめろぉぉぉぉ!」


 俺は目の前に近付いて来た女に対しムカついたので首を絞めて180°折り曲がるように両腕で首絞め、ナイフを取り戻した。女はじたばたと喚き、名乗るからと凄く嘆いている。

 しばらくして、俺は女が気を失いかけていたので手を緩めた。


「ぜぇ、、ぜぇ、、普通怒っても首絞めることある?思考がアブノーマルでマジ嫌だわ。」

「そんなことよりさっさと名乗れ。」

「うっわ、、、慈悲という名の言葉が無いのかしら。だが名乗ろう!私の名はエメスティン・ルーメンベルク!ゲッホ!ゲッホ!オゥエェェ!吐きそう。」


 女は手を往々と広げ、ミュージカルっぽい踊りで名乗りだした。が、首絞められた影響か声が出ないどころか咳き込みまくり、吐瀉物を吐き出す体制になる。


「で、目的は。」

「死んでしまった哀れな君を蘇生させに来た!」


 女は人差し指をさしながら俺を蘇生させると言ってきた。全く持って意味が分からない。

 普段であればわーいヤッター復活できる、ヒャッホー!みたいな感じなんだろう。しかし俺の場合は、ただの無法犯罪地帯に返されるだけである。ましてやこんな得体の知れない女に、急に蘇生しますとか言われたら喜びより警戒が強い。だから俺は疑問を寄せ、こう言った。


「、、、なんで?」

「なんでって、、、え、普通喜ばない?第二の人生送れるんだよ?もう一回人生リトライ出来るんだよ?」

「いや別に、生きる分生きたしもういいかって。」


 早く殺せ、お願いだからそうさせてくれ。生きる分は生きた、もう十分なんだ。地獄に帰すのは勘弁してくれ。俺はそう思い女に、あの世に逝かせるよう暗示させる。

 だが、、、


「え、何この子、、、怖。まぁ選択権はこちらにあるからどうでもいいや。」

「おい、ちょっと待て。」

「え、なんで。あ、もしかしてあの世に行きたいとか思ってない?無理、無ゥ理ィ、あの世なんて存在しないし。」


 終わった。女は俺の考えていることを見透かし、下に向き手を前に伸ばして、絶望している俺を嘲笑う。嘲笑いながら女は浮遊し、奥の方にある謎の紐を掴み取る。

 あれが多分俺の行く先なのだろう。だが紐が二つある。片方は現世だろう、ならもう片方なんなのだろうか。


「そのもう一本の紐はなんだ。」

「ん?あぁ、それ?知らない紐。どこに繋がってるか分からないし、そもそも知りたくもない。」

「ならいっそ、そっちの方を引いてくれよ。」

「嫌でぇ~す☆引きたければ引いてみな!ま、そこからここまで飛べないと来れないから無理だろうしね。」

(こいつ今すぐにでも殴りてぇ、、、)


 そういいつつ女は現世行きであろう紐を引く。すると背景の時計が動き出し、徐々に歯ぎしりを立てながら歯車が回りだす。やがて辺り一面の暗闇が、ノイズが走るとともに見覚えのある風景に切り替わり、気付くと俺が死んだ死骸の上に立っていた。


「嘘だろ、、、」

「おめでとうございます!貴方は生き返りました!私と一緒に行動してください!」

「煽りか?煽りだよな?明らかに嫌がらせで引いたよな?」

「気のせいですよ。アハハハハハ!!笑い死ぬ!ぐっっっはぁぁ!?」


 女は拍手喝采をし、死骸の上を突っ立っている俺を眺めつつ、顔を引き寄せながら笑ってくる。その煽りに耐えられず、気付いたら女の腹に強烈なパンチを喰らわせた。女は蹲り、「ど、ドストレートにいてぇんだけど、、、」と痙攣していた。俺はそんな女の姿を気にせずに外の空気を味わい。(本当は、こんな薄気味悪く吐瀉物臭い空気なんて吸いたくもないんだけどな、、、)と蔑みながら上を向いた。


「ちょっと神代!少しは私の心配するとかないの?」

「ない、お前の自業自得だろ。」

「あぁ!?頭、殴られてぇのかな!?」

「そんなことよりなんで一緒に行動しなくちゃいけないんだ。」

「聞いてねぇ、、、はぁ、まぁいいや。単刀直入にいうとこの世界を救って欲しいから一緒に戦って。ただそれだけ。」


 この女、急に世界救えとかいう良く分からない条件引っ提げて来やがった。


「お前こそ頭アブノーマルか?」

「はぁぁぁ!?頭アブノーマルはそっちでしょ!?大体、今の状況知ってる?上の世界でバケモンが跋扈して、私たちじゃ手に負えなくなってんの!それの対抗になりそうな子を見つけてきて。と命令されたらこんな、、、」

「くどい。」

「押し潰すぞてめぇ!!」

「あと、顔がうざい。」

「よし、ぶっ殺す☆」


 女は急に笑顔になり拳を作り、殴る体制を取る。試しにこっちも拳を上げたら、「うわ、引くわ~」みたいな体制を変えて構えを解いた後、女は大声で俺にしがみつき「とりあえず、世界救ってよぉ!!!」と嘆きだす。

 クズだ、クズである。どうしようもないクズである。意味が分からない事を提示する挙句。突如現実に帰すわ、こっちが殴られかけるわ、こっちの事情など知らんふりだ。

 おまけにYES・NOではなくYES・YESを選ばせてくるこの外道さ。さて、どうしたものか。


「全部聞こえてるからね?」

「あ、心の声が漏れてたか。」

「クズクズ言うけど、、、君の方が余程外道だからね!!うわぁぁぁぁん!」


(うわ、面倒臭。)

 女は泣き出した。泣いている奴に拒否する事はロクでもない事を起こしかねないため、とりあえず受託することにした。


「わかった、わかったよ。受ければいいんだろ。受託するよ。世界がどうなんだろうか知った事ねぇけど救いますよ。」

「え、本当!」

「お前、急に泣き止むな。」

「ありがとう!あ、さっきのはね、嘘泣、、、おぐへぇ!?」

「くたばれ。」


 俺は女の顎にアッパーを繰り出す、女は「いい、アッパーだ、、、!」と吹っ飛ばされながら言った。


 ~~~~~~~~数時間後~~~~~~~


「はい、とりあえず!私に協力することが決まりましたね!イエーイ!」

「はぁ、、、まず、上に向かう方法とかあるのか。」

「え、そんなものあるわけないじゃん?」

「舐めてるのかお前。」

「飴なら舐めるよ?」

「鞭でぶん殴るぞてめぇ。」


 とりあえず、俺はこのクズ女と共に行動することにした。暫くすると、ゴーストタウンの地域に入った。相変わらず、周りの景色は廃れており、人々は道端で卑しい行為をしているカップルや、普通に餓死を待っている者もいる。こんな絶望的な空間なのに女はすごく陽気で軽快に街中を歩き、街中のど真ん中に入った所で「この辺りかな。」と立ち止まった。


「何する気だ。」

「まぁ、見てなって。面白いもんあるからさ!そぉーれ!」


 女は地面に手を当て引っ張り上げるような動作を行うと、地面から扉が生えてきた。

(扉、、、本当にあったんだ。)俺は驚いた。都市伝説に出てくる一つ目の事象が目の前に現れたのだ。これにより、都市伝説が現実味を帯びて来たことに一抹の恐怖を抱いた。だが、

(その都市伝説が本当なら、実際に目で見てみたい。)と好奇心の方が勝って、俺はその扉の中へと入っていった。


「おぉ~なかなか驚かずに入りますねぇ?神代。」

「馴れ馴れしく呼ぶな。」


 扉の中は案外暗くなっているものも外の空間を見ると星などが回転しており、まるで宇宙空間を彷徨っているトンネルという感じであった。


「もうすぐ出口だけど~」

「数歩しか歩いてないが。」

「いや、ワープゾーンみたいなもんだし。そんな長くないからね。」

「ワープゾーン?」

「あ、英語も出来ないんですか。そうですか。」

「そもそも英語なんて学んだことない。」


 そう言うと女は「マジでか。」と引いた顔をしていた。そりゃそうである。あの世界には元あった「学、、、校?」とかいう学ぶ場所すらなかったんだから。精々、生き抜くためのやり方を独学で学んできた程度である。

 とりあえず出口の扉の前に来た。その際、女は「ニホンゴ、ワカリマスカ?」と人差し指を自身の頭に付けて回しながら聞いてきたのでとりあえず腹を殴った。


「いい腹パンだったぜ、、、ではなくて、着いたよ。ダイタス!」

「ここが、上の世界、、、」


 俺は扉の先にあったネオンの光による光景やサイバーパンクな街中を見て、見惚れていた。俺のいてた世界とは段違いに美しく、そして煙臭い空気であった。ただ、、、


(空気は相変わらず最悪だが。)


 俺は早速、扉の先にある光景に向かおうとした。その時、「危ない!」とエメルが俺を押し出す。


「なにすんだ、、、お前。」

「はぁ?助けたんですけど?てか前、前!」


 俺は前を向くと、全身刀塗れの怪物がそこには立っていた。

 俺は(なんだありゃ)と思っているとその怪物は俺の方向に振り向き、、、


「あぁ、君かぁ。殺す、倒す、切り刻む。いいよねぇ?」と刀を伸ばして攻撃してくる。

 俺はそんなの避けられる訳がないと思い、死を覚悟する。だが謎の引力によって俺は横に吹っ飛ばされた。


「消えたいのか!?馬鹿!」

「なんだあれ。」

「あれぇ?結構驚いてないねぇ?じゃなくて、、、戦って!」


 無理がある。何の状況説明もなく、上に怪物がいるという情報を半信半疑に聞き。精々、獣くらいだろうと思えば。とんでもないおネェ口調の異形相手に戦えとは無理があり過ぎである。そうしている内に、、、、グサッっと何か鈍い音が聞こえた。


「あらぁ、刺さっちゃった?」

「神代!?」


 刀の異形は俺の胸を腕が変形した刀で貫く。俺はその光景に視界がまたピントが合わない景色になる。だが、俺はその状況と真反対の行動を起こした。


「いってぇな。」

「こいつ、同類だと!?」


 俺は自分に刺さった相手の手の刀を強引に押し込み。相手が自分の顔の前に来たと同時に刀塗れの顔面に思いっきりヘッドバットを食らわせ、刀を噛み砕こうと噛み付く。それを見た彼女は唖然とした。(狂ってる。やっぱ頭アブノーマルだわ、、、)

 彼女は少し引きつつも、彼ならいけると思った。だが、


「舐めるなよ!このクソみたいな分際が!」


 刀の怪物は自身の刀を自分の手で切り落とし。それを横に振るった。神代は体が真っ二つになり、林の向こう側に吹っ飛ばされる。それを見た彼女は目からハイライトが消えて、腰を抜かした。


「あらぁ、残念ねぇ。あなたのお遊戯もここまでのようね!」

「いや、まだだ!あんなのじゃなくたってまだ他に駒は、、、いったぁ!?」


 彼女は刀の怪物に手を切られてしまう。そして地面にへばり付くとなにやら怪物が喋り出した。


「君さ、往生際が悪いよね。知らないのかな~?もう他の世界に居てる君の駒と呼ばれてる存在は私達の親によってもう全滅したんだよ?で、あれが最後の駒って訳ね。あら案外、あっけなぁいねぇ!」


 刀の怪物は彼女の前で煽りに煽りにまくる。彼女は地面にじりじりと地面の砂を手で掴み、徐々に顔をあげ、瞳孔が赤く照らし出された。


「お前らみたいなのが一番、癪に障るんだよ!」

「なに!?」


 謎の引力によって、刀の怪物は地面と顔を擦り合わせるはめになる。しかし、その効果は少ししか持たず。瞳孔の色が元に戻り、刀が彼女の首元に突きつけられる。


「クソ緑、、、ここで消えろ。こんな小細工で消える私ではないんだよ。」

「ハハッ、お前が消えろよ、、、この憎しみの異形共がよ。」


 彼女は突きつけた刀の先端を見て、固唾を呑み。捨て台詞のように強がりを見せる。

 それが奴の怒りに触れたのか、異形は刀を振り上げ落とす。その時、隣から黒い人影が現れた。


「な、なんだ!?」


 黒い人影は、奴の腹部を殴り数キロメートル吹き飛ばす。彼女はなにが起こったのかわからず困惑する。やがて、月が照らし出され人影の影の部分が徐々に消えだす。すると、一人の見覚えのある男がそこには突っ立っていた。


「とりあえず、ムカつくお前を吹き飛ばすことが出来るということは分かった。」


 さっき真っ二つに切られた筈の神代が目の前で立っていた。私は呆然としていると、彼は手を指し伸ばし、、、


「おい、手を貸せ。」

「、、、!分かった。」


 私はその声と共に何故か無意識に手を掴んで立ち上がる。目の前の怪物はふらふらと立ち上がりつつ、激昂を起こしていた。


「お前らぁ!ただで済むと思うなよ!」

「知らねぇよ。ただ気に食わないから。お前はここで徹底的にぶっ潰す。」

「右に同じ。」

「左だろうが。」

「場所じゃない。」


 すると彼女は不敵な笑みを浮かべつつ相手の腹部に指を指した。


「ねぇ、あいつあそこが弱点っぽいなぁ。」

「そうか、じゃあそこに一発殴ればいけるな。」


 俺たちは手をお互いの甲を合わせ、ポーズを取って奴へと向かって走り出した。彼女は手を振って見てたが、そんなことはどうでもいい。正直、無事な理由は良く分からない。だが一つ言えることは、、、


「力をやろう。失うモノは、、、」


 力を手に入れたという事だ。刀塗れの怪物は無数の刀を飛ばして、俺達に近付けないようにしてくる。だが、そんなのモノとせずに俺は突っ込む。怪物は避けると思って刀を構えていたのだろうがそれが外れ、急いで振り落とす体制に戻すが、その時には俺は目の前まで近づき、、、


「あ、あんた自ら刺されつつも止まらないなんて、、、でも馬鹿だねぇ!!」


 怪物は刀を振り落とすのに間に合うが、それを左手で受け流す。同時に金属音が鳴り響き、刀の怪物は違和感を覚える。


「なんで、金属音が、、、き、禁忌の腕輪!?な、なぜお前なんかが!」

「だからいってんだろ。知らないって。」


 俺は禁忌の腕輪というもので刀を弾き飛ばし、首の血管から2つの鍵をブチブチと鳴らしながら引き取り、相手が怯んでいる隙に鍵を2本、腕時計でいう9時の部分と6時の部分に差し込む。すかさず腕輪の甲に手を置いて時計回りし、9時になるように回すと、、、「スタン!」「デッド!」となにやら女と同じような声が鳴り響きだし、右足が何やら赤く血のように充満しだす。やがて、目が光り出した瞬間。{ENDROLL!}と腕輪に文字が浮かび出し、右足に充満した光が左に移行し、刀の怪物の腹部に思いっきり左足で蹴り飛ばす。もろに食らった刀の怪物は「嘘だ、、、お前みたいな存在がまだ居てる訳、、、が、、、」っと体は段々と膨張していき、腹部から中心に破裂していった。


「死んだか。」

「正確には消えた。存在ごと消失した。でも私達と同じ、“この世でないモノ”なら認知できる。」

「どういうことだ。」

「あれはね、この世ならざる怪物。本来ならあの世に行くものなんだけど、もうあの世はない。行きつく先は消滅なんだ。君も死ねば消滅するよ。」


 彼女はえげつなく蔑んだ顔で怪物であった血痕を見る。俺はそれを見て、並々ならぬ事があったのだろうと察した。


「なにやってんの鍵なんか取り出して。」

「さぁ、体が勝手に覚えてるかは知らんが。」


 俺は体の一部から鍵を引き出し、敵の血痕に投げ飛ばすと、鍵がみるみると敵の血痕を飲み込みだす。彼女はその光景に「なにこれぇ?」と驚く。血痕を全て吸い終えた鍵は刀の形に変形して俺の元へと戻って来た。


「なんだこれ、刀?」

「うん?う~ん?あ、これ!」

「なんだ。」


 なにやら彼女が何か気付いたらしく大声を上げる。


「多分アリンゲの特徴を表した。鍵だよ!」

「アリンゲ?」

「あ、、、」


 この女、あの怪物の名前をあえて隠していたようだ。しかも目線を斜め上に向けて、「ワタシ知りませーん。」みたいなフリをするがもう遅い。


「おい。」

「ナ、ナンデショウカ、、、?」

「詳しく教えろ。」

「デスヨネー。」


 俺は彼女から怪物の話を聞いたがどれも胡散臭い情報ばかりだった。

 どうやらあの怪物らは人が死んだ場合に生まれる怪物らしく、一体だけでも世界を滅亡させるくらいの力を持っているという。また、奴らはあらゆる世界を滅亡させており、ここが最後の世界であることを彼女は教えてくれた。何故、世界を滅亡させるのか。それに関しては彼女からは何も聞き出せなかった。


「つまり、この世界が最後の砦みたいなわけね。分かった?」

「分からん。」

「見た目に反して馬鹿だから知ってた。」


(こいつ、つくづく一言多いな)と感じつつも。「まぁ、こいつに軽蔑されても仕方ない。」とも感じてはいた。トホホと歩いているとダイタスの入り口ともいうべきであろうか。ゲートのような場所が現れた。


「あれは。」

「あーあれ?アブノーマル用の入国審査場だね。アンドロイドがいつも立っててダイタスの人間か判断しているから、基本的には入れないのよね。っていうかそもそも撃ち殺されるし。」


 彼女はゲートの前で手を上げてお手上げみたいなポーズで言い出す。彼女はダイタスの人間ではないんだろうか。


「お前、ダイタスの人間じゃないのか。」

「お前っていうな。まぁ、言う通りだね。私、死んでますし?幽霊ですし?戸籍なんてもう知らないナイよ。」

「じゃあどうやって入るんだよ。」


 彼女は俺の疑問に対し、フフンと自慢げにポケットから取り出した。


「見て聞いて驚きたまえよ!偽造パスポートォ!ぐへぇ!」

「いつ撮ったこの写真。」


 こいつは意気揚々とパスポートを取り出し、かつ勝手に俺の顔をいつ撮ったから分からないのに、いつの間にかそれに張り付け。しかもそれを目の前で自慢げに見せてきたため腹部を殴ってしまった。


「殴りますか、、、普通。てか、着眼点がそこかい。」

「まぁいい。」


 俺は彼女が蹲ってる姿を無視して、ゲート前にいるアンドロイドに見せに行こうとするが、

「は~い、止まれ~」とこのクソ野郎は拳を握り、不思議な引力を生み出して前に移動させないようにさせてきた。


「なんでだよ。」

「なんでって、それだと直ぐにバレるから入れるわけないじゃん。てか、撃たれるしね。」

「お前、そんなもん渡してくんな。」

「あらら、いっけな~い!てへぺろ☆ま、着いてきな~」


(こいつ後でやっぱ半殺しにしてやる。)


 俺は拳を強く握りしめつつ、彼女に言われた通りについていく。すると辺り一面ゲートだらけだった場所から、何にもない路地裏に辿り着いた。

世界は3つ存在し、多種多様な人々が暮らしている。

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