タイムスリップしたので老後に備えてカードゲームを買い溜めしていたら、なぜか女子小学生が寄ってきた
失敗した。気づけば投資で大損。
こんなことなら、真面目に働いて安全資産にだけ金を回していたらよかった。まさかバブルがはじけるなんて。TCG投資なんてしなきゃよかった。借金してまで、カードに手を出すものじゃないな。
そうして、俺は、最後の望みをかけて、屋上から飛び降りた。
ああ、見事に急降下だ。バブルの下落相場のような。
異世界転生しねーかなーと、思った。
「早く起きろ、お兄」
「てぇッ!」
顔を叩かれて、目が覚めた。コンクリに頭をぶつけたはずが、ハリセンで叩かれた。
ぼやけた目に映るのは妹ハリセンの姿、そして俺の子供の頃の部屋。
悟った。
さとり世代の俺は一瞬で、これはタイムスリップ人生やり直しウハウハリア充展開だと悟った。
そして、俺は、即座に決意した。TCG投資必勝の型を実行することを。
やばっ、今から、シュリンク付きBOX保管とシングルカードを買い漁れば、金儲けできるじゃん、賢すぎる。
爆買いした。お小遣いの全てを費やした。
超レアになるものは、とにかく保管。完美品で長期保存だ。
今日も新しい新弾の発売日だ。高校生最高。お宝集め放題。
誰も数年後、バブル到来なんて気づいていない。
さっそくカードショップへ向かった。
以前、俺がやっていたのは、麦王だった。当時は麦王が一強だったから。それから、コメモンやソバットモンスターズとか流行った。どれも悪くはない。俺だって、麦王の大会にも出てたし、世界大会まで後少しだった。でも、好みとか関係ない。世の中、カードは金だ。ああ、なんで俺はーーーーこいつを選ばなかったんだろう。
コメモンや麦王じゃない、ジャガー・イモーがバブルになる。21世紀のジャガイモ飢饉と呼ばれるほど需要と供給のバランスが悪くなる。ジャガー・イモーとかマイナーもマイナーだったからな。
当然、人気なのは、可愛いメークイーンシリーズの女性キャラ。カッコいいダンシャークは不人気だ。場に出すポテトの能力としては、ダンシャークは悪くないが、あいにくあんまりバトルで使われるカードゲームじゃない。相手のチップスを粉々にすれば勝ちというシンプルなルールだけど、ジャガー・イモーはもっぱらコレクター品だ。
とりあえず買い漁る。まだ不人気なうちに。
そしてカードでマイホームを建てるんだ。
将来をワクワクしながら、ジャガー・イモーのboxを6個買っていた。
そしたらーー。
「おじさん、ジャガー・イモー好きなの。対戦しない」
背後の声は女の子の声だった。自慢じゃないが、カードが趣味の男に彼女なんていなかった。彼女いない歴=年齢いや享年だった。いやいや、カードが恋人だったとしておこう。無機物にも愛は宿る。しかし金の切れ目が愛の切れ目。
やけに幼い声だなと思って振り返ると、小学生だった。将来性が期待できる感じのいい顔立ちの美少女だった。俺はロリコンではない。人生二周目でも、JKに手を出さないくらい矜持のある誇り高い転売ヤーだ。
「ああ、遊んでやってくれないか。そのゲームやってる人、少なくてね」
カードショップの店長にまでお願いされてしまった。まぁ、これだけ爆買いしてれば顔も覚えられるし、当時の思春期よりは社交性もあるから、顔馴染みぐらいにはなる。常連客だ。
「いいですけど」
「ほんと、ありがとうございます」
反抗期真っ盛りの妹と違って、小学生の女の子はいいなぁ。なにせ、愛嬌を振り向くことに余念がない。思春期すぎると、性に敏感なのか、こっちへの目線が、牙を剥き始めるし。俺、何もしてないじゃん、なのに、なんで男はオオカミみたいな視線を向けるんだよ。
「ポテトをフライド進化して攻撃。チップスを21枚破壊」
単純なゲームだ。ダブルフライドもない。
「うう、負けました」
小学生相手に全力だった。
たとえ、相手が小学生でも手を抜かない。それが俺のレゾンデートル。
じゃないと、負けた時にわざと負けてやったとか言い出すウザい大人になるからな。敗北を認めるには常に全力を出すことを自分に課すしかない。
そうして、俺と小学生女子とのカードバトルが毎月ぐらい開催されたのだ、このカードショップで。
「お兄ちゃん、U15世界大会勝ったよ」
こっちの妹は可愛いなぁ。うちの妹と交換をしたい。おじさんからお兄ちゃんになったし
というか、ガチ強くなったなぁ。
まさか当時はこんなに強くなるとは。カードショップの店長が意気揚々とショップ自慢してるのが恥ずかしい。うちのカードショップが育てた感出さないでよ。というか、俺と一緒に写った写真を飾るな。俺は、日本大会の入賞レベルの存在だぞ。
そういえば、この子、前時間軸のどっかで見た記憶があった気がしたけど、前時間でも世界大会優勝者じゃなかったか……、気のせいだな。
「それでね、このカード、あげる」
「そ、それはーー」
世界大会の優勝者のみに与えられる伝説のーー、確か、いずれ数千万を超える……。これさえあれば、もう俺は働かないで生きていける。今までのジャガー・イモー保管品と足せば、余裕だ。数年後、売り抜ければ。
でも。
「いやいや、受け取れないよ、さすがに」
こういうのは記念だし。というか売れるわけないし。人として、人生二周目で、中学生のヒモのような人生なんて。
「だから付き合ってください」
やばいぜ、ガチでヒモ人生ルートに行こうとしている。
大切なのは、物じゃないよ。本当の愛というものはね。
「俺、君が中学卒業する前に大学生になっちゃうよ。てか、なんでカードをワイロみたいに?」
「だって、いつもカードを値段で見てるし。このカードだったら、いい値段付きそうだから付き合ってくれるって、店長が……」
「ちょっと店長と大人の話をしてくるから、少し待っていてね」
カードショップの奥のカウンターに殴り込みだ。
「店長っ!!」
「おっ、どうした」
「俺をカードを金で判断して、しかもそれを貢がせる系男だと思ってたのか」
「いやぁ、だって業者並みに買い込むし、やけに美品にこだわるし、それに値上がりの目利きが完璧すぎてなぁ」
「百歩譲って、そうだったとしても、中学生に変な交渉術を教えるんじゃない」
「いやいやコレクターなら、こんな希少なカードで折れないわけないし、いいじゃん。中学生の将来性を期待してさ」
「恋愛は、キープは最低なんだよ」
「じゃあ、今、味見を、おっとこれ以上は、俺の青少年を守る鉄の十字架が言葉を滑らせてはくれないようだ」
味見とか何を言ってるんだ。俺の精神年齢は、これぐらいの娘がいてもいいぐらいなんだが。
だが、付き合いたい欲がないとは言えない。しかし転売ヤーとしての矜持が。人生二周目、金に困らず生きたいだけ。JKとの恋愛とか青春コンプレックスより金。
そう金だ。転売ヤーの矜持。愛より金。
そうだ。彼女に、俺は転売で食っていくなんて言えない。だから、俺は独り身で生きていくんだ。そうだろう……。
小学生女子の純粋にゲームを楽しむ顔、そしてその成長、それからの世界大会優勝ーー脳裏に、その様子が浮かぶ。
どうせ二周目じゃないか、堅実に生きるのか。ギャンブル精神はどこいったんだ。転売ヤーとしての、いやカードゲーマーとしてのーー。
「真っ当に生きよう」
「は?」
店長がポカンとしている。
「店長、俺、ジャガー・イモー売るよ」
「えっ、カードやめんの。待て、大人っていうのは、常に子供心を忘れないように生きるべきであってだね。何も転売クズ野郎とか思っているわけじゃないし、好きなカードゲームを保管するのは全然おかしくないしーー」
「いや、俺が純粋にカードをするために。そして、あの子と付き合うために」
転売というゲームからはおりるとしよう。
「ガチ。女子高生でも犯罪だからな」
釘を刺された。何もしないから。
売ろうとしたら、むっちゃジュニア世界大会チャンピオンに止められた。美品がもったいないと。結局、保管場所が彼女の家に移っただけになった。
そして、それはとどのつまり、共有財産になったのだった。
それは、また、いずれ将来の話。