動画職人ってモテそうって軽い気持ちだったのに
日課となっている朝のランニングをしてホテルに戻ると俺と同じく長期宿泊している米国人カール氏とロビーでバッタリ会った。
彼はアニメの音楽監督で日本らしい楽曲を制作するために来日したそうだ。
ジムで顔を合わせる内に会話するようになった。
数分軽く世間話をしてからハグしてから別れた。
その後フロントに部屋の鍵を貰いに行くと
「おかえりなさいませ宇佐美様」
とフロントマン兼コンシェルジュで俺の担当になってる(?)望月くん(30)が声を掛けてきた。
「ただいま望月くん」
「宇佐美様だいぶ英会話が上達されたようですね」
「この半年間真面目にやっていたからね」
「それに思い描いた肉体に近づいたのでは?」
彼には色々相談しているのでモテる為にお金を使っている事知っている。
「俺の理想はプロレスラーの肉体だからもう少し厚み欲しいね」
「と言う事はまだまだ当ホテルに滞在して頂けるのですね?」
「ん?1年は滞在するって言ってなかった?」
「お聞きしてましたが予定は変わる事もありますから」
「なるほどね、ホテル暮らし快適すぎて部屋を借りる予定はないよ」
「当ホテルのサービスに満足して頂いて何よりです。何かご相談ありましたら気楽にお声かけて下さい」
「ありがとう、その時はお願いするよ」
部屋の鍵を受取りフロントを離れる。
予定は変わるか……当分はその気は無いけど英会話はある程度出来るし次のステップに進む時期かも知れないな。
アラフォーのオッサンがモテる為には肩書がいる!
青年実業家(俺は青年じゃないが……)とか会社経営、社長とかオーナーね。
今どき会社を立ち上げるのはらくに出来るらしいので肩書は簡単に手に入る。
極端な話、お金はあるから肩書きあればそれで良い(笑)
で何の仕事をするかなんだけど一人でそれなりに認知されてる職業が良いんじゃないかな?
そう考えて思いついたのは動画職人クリエイターだ。
これなら子供や若者に人気な職業だしトレーニング終わりの暇な時間にちょこちょこ撮影してれば仕事と言い切れるし楽でいいんじゃないかな?
問題があるとすれば編集のスキルがないくらいだけど習えば良いな!
★☆★☆★
軽い思いつきを何人かに話すと何故か食い付いてきた。
①英会話スクールの同級生『遠藤公彦』(24歳)
システムエンジニア系の専門学校卒業後就職するもブラック企業で心身共にボロボロになり実家で引きこもりになる。
数年引きこもるが母親に追い出されたくなかったら仕事するか何か勉強しろと言われ英会話スクールに入ることにしたそうだ。
お互いアニメ『白悪魔』ファンって事もあり意気投合し夏良くなった。
「飛雄さんその話ボクにも噛ませて下さい!」
「へ?」
「ボクは編集やドローンの操作も出来ますし映像の幅を拡げられると思うんです」
「いやいや待てってエンキミはトラウマで働こうとすると拒絶反応出るんじゃなかった?」
「飛雄さんとなら何でも話せるし思いっきり働けると思うんですよ!だからお願いします!!」
「まだ思いっきりレベルだし、どんな動画にするかプランも固まってないんだぞ!
それに給料なんて払え無い……」
「それでもボクと飛雄さんなら上手く行くと思えるんです!」
真っ直ぐな目で熱く言い切られると返す言葉が出てこない。
②英会話スクールの同級生『新名奈々美』(23歳)
父が日本人で母がロシア人のハーフで容姿は完全にロシア系の美女。
日本人として教育を受けたので日本語以外は話せなかったが一念発起し英会話を学ぶ事に。
コスプレイヤーであるためアニメ全般に詳しいのでエンキミと俺と3人でつるむコトが多い。
「私もウッピー(俺のあだな)達と仕事したい!」
「まだノープランなのにお前もかよ!」
「私ってコス自分で作れるし服のセンスも良いからスタイリスト枠でどう?」
「高い時給のバイトは良いのかよ?」
ニーナはモデル並のルックスを活かしレイヤー活動の他、下着姿でウエートレスする会員制高給レストランで働いていた。
「最近外人のお客様多くて居辛くなって……」
「その容姿で英語話せないって一種の詐欺だよな」
「うるさい!」
「取り敢えず考えさせてくれ、一人で趣味の延長程度に考えていたから人を雇うなら色々調べたり準備がいる」
「「わかった」」
「飛雄さんはどんな動画にするとかイメージあったりするんですか?」
「ザックリとはあったけどな」
「ウッピーどんなの?」
「アラフォーのオッサンが何かしても面白くないし『超人』ってキャラが色々挑戦するのをイメージしてた」
「ギネス記録とかですか?」
「それも候補として考えてたよ。ただ権利として使えるかはわからないけどさ」
「ウッピーの考えてるキャラってプロレスのマスクマンみたいなの?」
「それも良いね!俺の名字が宇佐見だからウサギをモチーフにしようとかな(笑)」
「ウサギって弱そうね」
「マスクマンって戦う仕事だから強そうな動物とか多いし、やり尽くした感あるからウサギなら逆に新鮮じゃない?」
「飛雄さんのアイデア新しいしイケますよ!」
「マスク製作なら私のスキル活かせるし任せて!」
③フロントマン兼コンシェルジュ望月賢太郎もちづきけんたろう(29歳)
「カクカクシカジカって事を考えているんだけど」
「宇佐美様その話私わたくしも噛ませていだだく事は可能でしょうか?」
「へ?」
「私こう見えてもエリートでして近々出世の話が出てまして」
「それは目出度いね」
「それはそうなんですが幹部候補として地方で管理食になるのですがY市は地元ですし妻と子供を置いて単身赴任も嫌だと考えていたのですよ。
宇佐美様の話を聞いて面白いと感じましたし、私が参加する事で成功する確率が増えると直感が働きました!」
高学歴のエリートがグイグイ売り込んで来るので俺は圧倒され「ヨロシク」と答え握手してしまった。
モテる為に肩書が欲しいと思っただけなのに会社立ち上げ前に従業員が3人で来た。
どうしてこうなった?