戦いが終わり……
セラフナハシュの眷属【世界を喰らう蛇】が、欠片すら残す事無く兵器を飲み込んで行く。
そしてマスカレイドへの道が出来ると……
「……【アシッドミスト】」
背後からソフィアの声と共に、マスカレイドが霧に包まれる。
そして嫌な臭いが鼻を刺激したかと思うと、彼の身体が溶け始めて……
「この臭いは……?」
「金属を溶かす酸です、人体にも有害なので暫くは近づかないでください」
「近づくなって、それだと俺達はどうやってマスカレイドに近づくんだよ」
そこまで強力な酸を魔術で作り出すのは凄いけど、ぼく達が近づけない以上……正直ここでその魔術を使うのは良い判断とは思えない。
けどそんな予想に反して、世界を喰らう蛇が霧を飲み込みながらマスカレイドへと突っ込んで行く。
そして彼を勢いよく弾き飛ばすと、溶けて脆くなっていたところが砕けて床に転がる。
「Sランク冒険者を一撃で吹っ飛ばすのかよ」
「マスカレイド様に意識が合ったら、ここまで上手くは行かなかったと思います」
「……つまり、今のマスカレイドは弱いって事?」
「いや、それは無いと思います」
マスカレイドの戦い方を見て来たから分かるけど、今の彼が本来の実力を出せて無いのは確かだ。
まるで魔導具に刻まれた回路の指示によって動いているように感じる違和感があって、控えめに言って気持ち悪い。
本来なら兵器を破壊し続けているたぼくを先に倒して、こちら側の戦力を削ぐことで効率的に場を支配しようとするだろう。
「いや……今のレイドは弱いわよ、兵器の展開速度は上がっているけれど、魔術や魔導具を使った立ち回りが単調だし……何て言うか決められた動きを繰り返していて、気持ち悪いわ」
「母さんもそう思う?」
「えぇ、長くずっと一緒にいたから分かるわよ、レイドの癖や考え方も全て知り尽くしてるのよ?、そんな私が彼の事が分からないわけないじゃない」
「……そっか」
確かにマスカレイドが本来の実力を出す事が出来ないでいる事を、母さんが気付かない筈が無い。
ならどうして、攻撃を迎撃してばかりで攻めようとしないのか、色々と気になるところがあるけど、触れない方がいい気がする。
「それが分かってるなら何で、あんたがマスカレイドを攻撃しないんだよ」
「……ダ、ダリアさん、そういうのは聞かない方が」
「あ?んでだよ、倒せるって分かってるのに、迎撃ばかりでふざけてんじゃねぇか!、俺達は今命を掛けた戦いをしてんだぞ!それなのにいくらカルディアも弱ってるからって真面目にやらない理由にならねぇだろうが!」
世界を喰らう蛇が、四肢を失い動けなくなったマスカレイドに向かって、大きく口を開けるとそのまま飲み込もうとするが、胸元の穴から白い光が溢れたかと思うと内側から頭を貫く。
「ソフィア……蛇が!」
「大丈夫です、この世界の住人では無い存在が死んでも、元の世界に戻るらしいので問題ありません」
頭を貫かれた世界を喰らう蛇の体から光の粒子が舞うと徐々に姿が薄れ空気に溶けるかのように消えてしまう。
そして再びマスカレイドが床に転がると、失われた四肢から魔力の光が溢れると徐々に人の手足を象り、ゆっくりとした動きで立ち上がる。
「……あれは、会話をしてたのよ」
「あ?それってどういう……?」
「レイドの意思が本当に無いのか、調べたかったの……、私の知ってる彼なら魔術に対して毒の魔術で対処するんじゃなくて、心器の【魔導工房】で作り出した兵器で対応して来るから」
「……二人とも、今はそんな話をしている余裕は!」
マスカレイドの胸元に空いた穴から大筒が飛び出す。
そして周囲の魔力を取り込むと同時に母さんが鉄扇を構える。
「一度でも愛した男が、あのような化け物になってしまったのを冷静に受け止められるわけないじゃない」
『敵対対象の危険度上昇認識、撃退から殲滅へと移行、【カタストロフ】』
「詠唱して制御する必要なんて、今のあなたにする必要何て無いわ……【魔導砲】」
二つの圧倒的な威力を持つ魔術と魔科学兵器の一撃がぶつかる。
これだと先程と同じような状況になると思ったけど、カタストロフを取り込んで威力を増した魔導砲がマスカレイドを飲み込んで行く。
「……あの一撃で頭が残るのかよ」
「もしかして、あの頭の中に心器が?」
「確かマスカレイド様の心器は大筒の中に入った動力を核とした【魔導工房】でしたよねカルディア様、それが頭に入る事何てありえますか?」
「……魔導工房は能力の一つよ、か、れ……の心器の本来の姿……四角い掌サイズのは、こ、だか……ら、入れる事なら出来、るでしょうね」
「……母さん?」
……苦しそうなに喋る母さんの方を振り向いた時だった。
音も無くその場に崩れ落ちる母さんと、驚いた表情を浮かべて身体を支えようと手を伸ばすソフィアの姿が目に映る。
けれど、地面に頭をぶつける寸前に姿が消えたかと思うと、マスカレイドの近くに精気を失った顔の母さんが座っていて、ゆっくりと腕を伸ばして彼の頭を抱きかかえ『……レイド』、と戦いが終わり静寂だけが支配する研究室に、小さな声が響くのだった。




