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治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―  作者: 物部 妖狐
第十章 魔導国学園騒動

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心の葛藤

 大きな狐の姿で傷だらけになったグロウフェレスが口元から大量の血を吐き出しながらゆっくりと立ち上がる。


「……おいおい、これ大丈夫なのかよ」

「グロウフェレス?」

「レースさん、お逃げください」

「逃げてって言われても状況が分からないんだけど?」

「いいから!早く逃げてくださ──」


 彼がこちらを振り向いて時だった、眼を開けている事すら難しく感じる程に強い光が視界を襲う。

咄嗟に顔を背けようとしたけど、グロウフェレスがぼく達の前に出て盾になると肉の焼けるような匂いと鼻を刺激する。


「……グロウフェレス?」


 ぼくの呼びかけに反応する事無く、その場に崩れ落ちる。

急いで近づこうとするけれど、先程の光の事があるから下手に動くわけにもいかない。

グロウフェレスが盾になってくれたから、ぼくとダリアは無事だったけれど……ソフィア達は無事だろうか。


「レースさん!そちらは大丈夫ですか!?」

「こっちはグロウフェレスが盾になって守ってくれたから大丈夫っ!母さん達は!?」

「お二人なら私の魔術で守ったので問題ありません……ですが、グロウフェレスは無事なのですか?」

「……危ないけど確認してみるよ」

「またさっきの攻撃が来たら俺が何とかするから、父さんは治療に集中してくれ」


 追撃を警戒しながら、グロウフェレスへと近づくと魔力の波長を合わせて行く。

そして彼の状態を確認すると、身体の半分が体内まで熱せられており、皮下脂肪や筋肉だけではなく、内臓までに到達する程の重度の損傷が起きていた。

これは普通の治癒術だけでは、治療が間に合わない……禁忌指定された術を使うなら治す事が出来るけれど、ふと頭の中に治癒術らしからぬ考えが浮かび上がる。


(……ここで、グロウフェレスを見殺しにすればシャルネ側の戦力を減らせるんじゃ?)


 今は協力関係にあるけれど、マスカレイドの一件が終わったら彼とは再び敵対関係に戻るだろう。

ならここで治療をするふりをして、治すのが無理だったという事にすれば誰にも気づかれる事無く始末する事が出来るのではないだろうか。

そんな恐ろしい考えが脳裏に浮かんでは、ぼくの理性と治癒術師としての責任がそれを否定する。

頭を激しく振って邪念を振り払おうとするけれど、葛藤がおさまる事は無く……額から嫌な汗が垂れて床に落ちて行く。


「……まさか父さん、こいつを見殺しにしようだなんて考えて無いよな」


 いつの間にか隣に近づいて来ていたダリアが、困惑したような表情を浮かべながら顔を覗き込んでくる。

その仕草と言葉に思わず、自分が考えていた事に関して……何をしようとしていたのか分からなくなり動揺してしまう。


「いや……えっと」

「あいつが居たから俺達は助かったんぞ?例え敵だったとしても、助けられた以上恩は返さねぇとダメだろ」

「……確かにそうだよね、ごめんダリア、ぼくが間違えてたよ」

「……?お、おぅ、まぁ分かればいいんだよ分かれば」


 確かにダリアの言う通りだ。

助けて貰ったのに恩を返さずに見殺しにするのは違うし、治癒術師である以上例えそれが敵であっても目の前にいるのなら、人命を最優先にするべきだろう。

それが本来の治癒術師としての在り方だというのに、どうしてあんなことを考えてしまったのか。

まるで……自分の中に自身の物とは違う思考があるようなそんな不快感。

多分、これがミュラッカが父ヴォルフガングから、本物のディザスティアの封印を受け継いだ時に感じた感覚なのかもしれない。

そういう意味では本来の力の殆どを失っているとはいえ、五大国の王がその身に封じている神達から受ける影響に流されずに、本当に耐え続けているのは凄いと思う。

けどミオラームと出会った頃、マリーヴェイパーの影響を受けて性格に影響を受けていた事を視野にいれると、周囲に支えになってくれる存在がいる事も大事なのかも。

……そうなると、一人でディザスティアをその身に封じて耐え続けて来たヴォルフガングの凄さが分かる気がするけど、あの人は一人で抱え込み頑張り過ぎていた気がするから参考にはしない方がいいだろう。


「……ダリア、もし治療中にさっきの光が来たら何とかするって言ってたけどどうするの?」

「そりゃあ……俺が契約してる精霊の力を使うんだよ、名前は特に無いけど必要な魔力を渡す事で範囲は短いけど、周囲にある物質と移動したい物の距離を質量を無視して場所を入れ替える精霊術が使えるから、さっきの攻撃が来たらそれを使って逃げるつもりだぜ?」

「……それなら安心して治療に専念出来るかも、ありがとうアリア」

「ん??礼ならこいつに言ってくれよな」


……ダリアはそう言うと自身の肩の上を指差すけど、ぼくには精霊術に関する適性が無いから何も見えない。

けど確かにお礼はしっかりと伝えるべきだろうと思い、言葉にして伝えるとグロウフェレスの治療をする為に意識を集中する。

普通の治癒術での治療が無理なら、彼には悪いけど禁忌指定された術を使うしかない……身体の殆どが火傷でダメになっている状態から作り直す以上寿命が削られてしまうだろうけど、こればっかりはしょうがないだろう。

そう思い治療を開始すると、遠くの方から誰かが歩いてくる音がして……それが徐々にぼく達の方へと近づいてくるのだった。

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