5話.火起こし
馬車の中で待っていたミリアは、富美子とラグネルが帰ってきたのを馬車の窓から見つけると、飛び出すように馬車を出てきた。
「トミコ様、大丈夫でしたか?お怪我などしていませんか?」
心配そうに尋ねるミリアに、富美子はにこにこ笑いながら答えた。
『大丈夫よ、何もないわ。それより火が起こせそうよ!』
「は…?火を起こすのですか…?どうやって…」
『まぁ、見ていてちょうだい!』
富美子は呆けているミリアに構わず、拾ってきた小枝や葉っぱを積み上げ始めた。ラグネルも富美子を真似て、拾ったものを積み上げながら尋ねた。
「俺に何か出来ることはあるか?」
『そうね…この木の枝に穴を開けてもらえるかしら?』
富美子は少し大きめで幅の広い木の枝(割れていて板のようになっている)と布カバンから小型の折りたたみナイフを取り出し、ラグネルに渡した。
「わかった。」
ラグネルは木の枝とナイフを受け取ると、すぐに穴を開け始める。その間に富美子は乾燥した蔓の繊維を割き、硬い綿のように解していく。
「このくらいで大丈夫か?」
『ええ、完璧よ、ありがとうね。』
穴を開けた木の枝を受け取ると、富美子はその穴に解した蔓を詰めて、積み上げた枝の真ん中に置いた。
そして、火打ち石と魔石を取り出すと、富美子はカッカッと何度か火打ち石を打ち付けた。
ミリアは、富美子が何をしているのか全く理解できず、ただ心配そうに見守っていた。ラグネルも積極的に協力しているが、何が起こるのか予測がつかず、少し戸惑っているようだった。
富美子が何度か火打ち石を打ち付けると、チリッと小さな音を立てて、火の粉が割いた蔓の詰められた枝に落ちた。
だがそれだけでは直ぐに消えてしまう、富美子は一切間を空けることなく、手で火種を囲むと、何度も強く息を吹きかけた。すると、火種は次第に大きくなり、周囲の枯葉や蔓に火が移っていった。
「火が…ついた。」
ミリアは予想していなかった事態に、驚きのあまり目を見開き、しばらく呆然としていた。ラグネルも、手伝っていたとはいえ、本当に火がつくとは思っていなかったらしく、目を見開いて驚いていた。
気がつけば、火は大きくなり、焚き火ほどの大きさにまで広がっていた。富美子は、こんなに嬉しいことがあるのかと驚きながら、久しぶりの達成感や新鮮な気持ちで胸がいっぱいになった。
『ほら、魔法なんてなくても火はつけられるのよ?』
驚いて固まるミリアとラグネルに、富美子は優しく微笑みながら言った。
『さあ、驚いている暇はないわよ。もう少し大きな枝を拾ってこないと、夜のうちに火が消えてしまうわ。』
両手をぱちんと叩いて朗らかにそう言うと、近くの枝を拾い始めた。はっとしたように動き出したミリアとラグネルも、富美子の後を追い、周囲の枝を拾い集め始めた。