表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
富美子84歳、聖女になる。  作者: みかる
5/9

5話.火起こし

馬車の中で待っていたミリアは、富美子とラグネルが帰ってきたのを馬車の窓から見つけると、飛び出すように馬車を出てきた。


「トミコ様、大丈夫でしたか?お怪我などしていませんか?」

心配そうに尋ねるミリアに、富美子はにこにこ笑いながら答えた。

『大丈夫よ、何もないわ。それより火が起こせそうよ!』

「は…?火を起こすのですか…?どうやって…」

『まぁ、見ていてちょうだい!』


富美子は呆けているミリアに構わず、拾ってきた小枝や葉っぱを積み上げ始めた。ラグネルも富美子を真似て、拾ったものを積み上げながら尋ねた。

「俺に何か出来ることはあるか?」

『そうね…この木の枝に穴を開けてもらえるかしら?』

富美子は少し大きめで幅の広い木の枝(割れていて板のようになっている)と布カバンから小型の折りたたみナイフを取り出し、ラグネルに渡した。

「わかった。」

ラグネルは木の枝とナイフを受け取ると、すぐに穴を開け始める。その間に富美子は乾燥した蔓の繊維を割き、硬い綿のように解していく。

「このくらいで大丈夫か?」

『ええ、完璧よ、ありがとうね。』


穴を開けた木の枝を受け取ると、富美子はその穴に解した蔓を詰めて、積み上げた枝の真ん中に置いた。

そして、火打ち石と魔石を取り出すと、富美子はカッカッと何度か火打ち石を打ち付けた。


ミリアは、富美子が何をしているのか全く理解できず、ただ心配そうに見守っていた。ラグネルも積極的に協力しているが、何が起こるのか予測がつかず、少し戸惑っているようだった。


富美子が何度か火打ち石を打ち付けると、チリッと小さな音を立てて、火の粉が割いた蔓の詰められた枝に落ちた。

だがそれだけでは直ぐに消えてしまう、富美子は一切間を空けることなく、手で火種を囲むと、何度も強く息を吹きかけた。すると、火種は次第に大きくなり、周囲の枯葉や蔓に火が移っていった。

「火が…ついた。」

ミリアは予想していなかった事態に、驚きのあまり目を見開き、しばらく呆然としていた。ラグネルも、手伝っていたとはいえ、本当に火がつくとは思っていなかったらしく、目を見開いて驚いていた。



気がつけば、火は大きくなり、焚き火ほどの大きさにまで広がっていた。富美子は、こんなに嬉しいことがあるのかと驚きながら、久しぶりの達成感や新鮮な気持ちで胸がいっぱいになった。

『ほら、魔法なんてなくても火はつけられるのよ?』

驚いて固まるミリアとラグネルに、富美子は優しく微笑みながら言った。


『さあ、驚いている暇はないわよ。もう少し大きな枝を拾ってこないと、夜のうちに火が消えてしまうわ。』

両手をぱちんと叩いて朗らかにそう言うと、近くの枝を拾い始めた。はっとしたように動き出したミリアとラグネルも、富美子の後を追い、周囲の枝を拾い集め始めた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ