表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/38

ダンジョンの秘密を探して

「冒険だよ、冒険!」

「いえーい」


 仲間も増えたし、取り敢えずテンション上げていこう。


「まぁそれはいいんすが、なんかあてでもあるんすか?」

「ないよ!」


 いつもてきとうに直感で行動を選んでいるのに、たまたま必要なときだけ都合よくあてがある、なんてあるわけないよね。仮にあったとしたら、先にそっちに行ってただろうし。


「ので、新入りくん! どこか気になるところはあるかね?」

「お、直感の見せどころってやつ? ちょっと待ってね、()()するからさ」


 準備? なんだろう。そう思っていると、トレイシーは何処からともなく短剣らしきものを取り出した。収納術は異界にもあるんだね。


「お待たせ。こいつを持ってないとね、あんま直感が働かないんだあ」

「冒険の相棒的なやつね。分かる気がするよ」

「相棒、か。そだね、おれたちにとっては()()みたいなもんだけど、そっちのが格好いいや。今度からそう言おっと」


 名前を見てみる。『探索者の短剣(ダウザー)』と名の付いたそれは、どう見ても一点物だった。超欲しい。大事そうにしてるけど、特に特別な効果とかはないみたい。直感どうこうについては多分、気持ちの問題だね。トレイシーが持ってる異界のもので、なんか要らないものとかないかな?


「さあ行こうぜ、相棒(ダウザー)。むーん……。……そうだなあ、近場だと、あっちのほうが気になるかもって感じ? 危険度も、そんな死ぬほどじゃあないと思う!」

「直感つってもてきとうすぎんだろ」


 あっち、と指す方を見る。記憶によると、あっちの方角には初心者向けのダンジョンがあったような気がする。たまたまかもしれないけど、何も把握していないはずの直感としては、精度が高過ぎるような感じがする。


「あっちが気になるんだね。地図があるともっと正確にわかったりするの?」

「ん。そうだね。おれの十八番(おはこ)と言ってもいい! 単に面白そうなものを探すってだけなら、()()()()()()()()()よ」

「本当かよ……」


 見習いは、疑わしそうな目でトレイシーを見ている。気持ちはわかるけどね。流石に自信過剰だと思う。近辺の地図を持ってきたら、トレイシーは迷いなくダンジョンの位置を指した。


「具体的には、ここだね。何このマーク? 未知っぽくはなさそうだけど」

「初心者向けのダンジョンがあるんだ。駆け出しの冒険者はよくお世話になるの」

「なるほどね。聞いてる限りではそんな面白そうでもないけど、行ってみればわかるよね。おれもこの世界でまともな戦力になるかはよくわかんないし、当たって砕けよう」


 そういや、戦闘能力に関しては何も意識してなかったね。只者ではないとは思っていたけど、戦えるかどうかは別の話だろうし。


「じゃ、早速行ってみようか。装備とか持ち物は大丈夫? あと、何か要らないもの持ってたら見せてほしいな」

「おれは大丈夫だよ。特にあげられそうなものは持ってないや、ごめんね。……ダウザーはあげないかんね。他のは見つけたらあげるけど、これだけは駄目」

「そっか。残念」


 欲しがってたの、やっぱりバレてたね。大丈夫、取り上げたりしないよ。


----


 到着です。ここが目的地の、


「だん!」

「ジョン!」

「……仲いいっすね、あんたら」


 呆れた声で見習いは言う。せっかく仲間が増えたってのに、ノリが悪いね。トレイシーは逆に、わたしの期待に対して察しが良すぎるかもしんないけど。


「ここがそのダンジョンってやつ? なんか探索すること自体が目的、みたいな場所だねえ」

「そうだね。色んなアイテムが湧いたり、モンスターを倒してドロップ品を獲得したりして、冒険者はそれで生計を立てることもあるんだ」

「ふーん……? 役割としては、資源の生産施設的な感じでもあるのかなあ」


 わたしたちは最初から「そういうもの」としか認識してないから、特に疑問も何もないけど、トレイシーにとっては不思議なものらしい。異世界の常識ってのも興味あるね。


「そっちの世界…… ホロウェンバークスだっけ? にはそういうのなかったの?」

「ないねえ。……いや、あったんだっけ? まあ、普通はないよ」


 一度断言したけど、トレイシーは途中で首を傾げていた。皆無というわけでもない、ということだろうか。あるいは記憶が曖昧なのかな?


「何にしろ、ここは好きに探索しても、誰も咎めない場所ってことだね?」

「いや、(アチ)は咎めるぞ。ある程度はいいけど、無駄すぎることはしっかり止めるからな」

「大丈夫だよお。独りでやる時よりは、ちゃんと効率良くやるって。……じゃあ、まずはあの隅の方かな」


 トレイシーは迷いなく部屋の隅に向かっていった。


「何かあったよ。コインみたいなやつ」

「わぁ、それ見たことある!『探索者の証』とかいうやつでしょ? なくしたと思ってたのに、まだあったんだ」


 まだ駆け出しの頃に、くまなく探していたから見つけられたものだ。当時もちゃんと持って帰ろうとしてたのに、いつの間にかインベントリから消えてたから悲しかったな。


「ナズナはこういうの好きそうだよね。取り敢えず記念に持っていこうかな」

「うん、大好き。トレイシーもそういうの好き?」

「そだね。普段は見つけるだけで満足して放っとくんだけど、これは一旦持っとかないと駄目なタイプのやつかなって」

「そっか。そういえば、探すのが好きなだけって言ってたっけ。トレイシーって変わり者だね」


 見習いは「お前が言うのか」みたいな顔をしている。わたしが変わり者なのは特に否定しないけど、トレイシーが変わり者なのも事実だから、別にわたしは間違ってないと思うな。


----


「何だあ、この露骨な装置はあ……」

「触るなよ、警報トラップだ。作動するとモンスターが大量に湧いてくんぞ」


 見習いはトレイシーに、ダンジョンの罠について教えている。先輩って感じだね。いいじゃん。


「なるほど。つまり、触ると兄さんに怒られるやつだね。……困ったなあ。超触りたい」

「何でだよ。言っとくが、振りじゃねえぞ。絶対触るなよ。……絶ッ対だからな!」

「……はあい」


 トレイシーは、警報トラップに興味津々といった様子だね。トレイシーなら何となく、本来説明されるまでもなく触らないようなものな気がするけど。


 うずうずしていたトレイシーは、こっちに寄ってきて小さな声でぽそぽそと話しかけてきた。幼児かな? かわいいね。


「ナズナあ。おれ、アレ触りたいんだよね」

「どうして? 見習いが言ってる通りの罠だよ?」

「でもなあ。()()()()()()って思うんだよねえ。出てくるモンスターはおれが責任持ってなんとかするからさ、ちょっと兄さんを連れて、しばらくここから離れててくんない?」

「直感ってやつ? そういうの、大事だよね。でも、危険だからそれは駄目。そんなのより、もっといい方法があるからね」


 内緒話をしながら、チラチラと見習いの方に視線を送っておくと、見習いも寄ってきた。ちょっとイライラしてるみたいだね。


「何をコソコソ話してんすかねぇ? (アチ)には聞かせられないような相談すか?」

「そんなことないよぉ。ねぇ? トレイシー」

「そうだね、ナズナ。怒られそうだけど、別に聞かせられないってわけじゃないかなあ」

「うんうん、ちゃんと分かってんなぁ。……ならもう正直に言えよ、新入り」

「ええー、いちいち聞かなくても、何となく分かるでしょ? 怒られるの嫌だし、言いたくないなー」

「言わなくても既に怒ってるから、安心して言いな」


 ふたりが話している間に、こっそりとその場を離れる。トレイシーは触りたいけど、触れない。わたしは触る必要はないけど、触れる。だったら両方合わせれば、()()()()()()()()()よね。


「おりゃあ!」ガチャン!

「いや分かっちゃいたけどマジで何やってんすか姐さんー!?」


 けたたましい警報が鳴り響き、モンスターの群れが現れる。久々に見るけど、やっぱ結構な量だね。


「いい運動になるかと思ってね!」

「せめてちゃんと宣言してからやれって、ついさっきも言いましたよねぇ!?」

「ごめんねえ、兄さん。ちゃんと責任は取るからさあ」

「んなこと言っとる場合か! さっさと逃げんぞ!」


 見習いは逃げる気満々だね。わたしも、普段ならそうするだろうけど。


「いいや、おれは逃げないよ。このまま殲滅戦だ。おれのわがままに付き合う必要ないし、兄さんもナズナも退避してていいよ」

「私も付き合うよ。大丈夫、多分いけるって!」

「正気かよあんたらぁ! 付き合えばいいんでしょもう!」


 結果が分かってても敢えてやりたかったのは、つまりそういうことだよね。


----


「いやあ、苦しい戦いでしたな! お二方、ご協力感謝感謝だよう」

「……そうか? 少なくともお前は余裕だったじゃねえかよ……」


 やはりというべきか、トレイシーは特に危なげもなく戦闘をこなしていた。相手もそんなに強いのはいなかったけど、例の短剣を使った独特の刀剣術、素人目にも只者ではないことがわかる。


「長期戦は疲れるからねえ。おれ、あんま体力ないし」

「息も切らしてるようには見えねえけどな。……んで、迷惑までかけた結果は満足か?」

「そうだね。ナズナが持ってるんじゃないかなあ、多分」


 わたし? インベントリには…… 何か『蛮勇者の証』とかいうのがあるね。いつの間に? 名前もちょっと失礼だけど、レアアイテムだと思うので、全部許しました。


「これかな? さっきのコインに似てるね」

「なるほど、そんな感じなんだね。となると、後()()()()んだろ」

「あぁ、そういうことかぁ。一個じゃ足りなかったってことだね?」


 つまりは『証』が何個かあって、全部集めるとより嬉しい、そういう仕組みなんだね。


「よくわからんすが、姐さんも新入りも、その何の効果もないコインを集めてるんすね?」

「そうそう。一つだと意味なくても、全部集めたら何かあるかもしれないでしょ? というわけで、これ預かっといて」


 見習いに『蛮勇者の証』を渡しておく。わたしには似合わない気がしたし。見習いにはもっと似合わないけど、いいでしょう。リーダー権限です。


「何で(アチ)に渡すんすか。荷物持ちなら新入りでもいいでしょうに」

「みんなで探して、分担して持ちたいの! 勝手に捨てないでね!」

「まぁ、いいっすけど…… 預かるだけっすからね」


 仲間外れはよくないからね。浪漫ってのはみんなで探さないと。

探索者の短剣(ダウザー)』効果なし

探索者に類稀な直感力を与えるとされる、異界からもたらされた片刃の短剣。


『探索者の証』

汝、注意力に長ける者。広く視野を持ち、常に油断なく行動すべし。


『蛮勇者の証』

汝、戦闘力に長ける者。驕ることなく賢明に行動し、分の悪い争いを避けるべし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ