ママからの贈り物
久しぶりに…泣きながら書きました。
「もう13歳なのね…あっという間だった…プレゼント、何か欲しいものはある?」
やっぱり聞いてくれた。
お隣に住むせつ子さんはママの古い友人だ。
せつ子さんがお隣に越して来て…ほどなくママは入院した。
私はまだ小さかったからよくは覚えていないのだけど…せつ子さんが一番、ママの事、看取ったし、ママが亡くなった後は…それこそママの代わりにお父さんと私の世話を焼いてくれた…感謝しても感謝しきれない…私にとっては“家族以上”の人だ。
それはきっとお父さんにとっても同じで…
最近、テレワークで…自宅でお仕事をする事が多くなったお父さんは…
どうやらせつ子さんのお休みに合わせてテレワークして…せつ子さんのおうちでお仕事をしているらしい。
これ、きっと私への配慮だと思う。
だって、私が学校から帰って、せつ子さんのおうちに訪ねてみると…ふたりが大人の雰囲気を帯びているのが分かるから。
うん、『仲良し』したんだなって思う!
ママが亡くなってもう7年。
ママにはちょっと申し訳ないけど
私はせつ子さんにウチに来て欲しい!!
だから、こうお願いした。
「…私、弟か妹が欲しい。そしてせつ子さんをママに欲しい!」
私の言葉に、せつ子さんは大きく驚いて…それから両手で顔を覆った…
「それはダメ! あなたのママは綾さん一人だけ…それ以外はないの。オバサンは…優乃ちゃんの傍にいる事は…できるから…許して」
そう言いながらせつ子さんはボロボロと泣いてしまった…
何を許すと言うのだろう?…
ママに対して申し訳ないから??
ママだって自分が居なくなった後の私たちが心配だから
せつ子さんに縋ったのだと思う。
だから、せつ子さんは、もっと堂々とお父さんとも付き合えばいいのに…
だけど今は…
私はそれ以上何も言わずに、ただせつ子さんに抱きついてその背中をさすった。
でも、私は決してあきらめない。
必ずせつ子さんにウチに来てもらう。
それが私達みんなの幸せと
信じているから。
--------------------------------------------------------------------
私は次のお休みでいいよって言ったけれど
「13歳のお誕生日はその当日に祝ってあげたい」ってお父さんもせつ子さんも言うから…
私は学校に居る時からワクワクしていた。
今日、お父さんが居る席でもう一度プロポーズするんだ!!
『ママになってください。私が生まれた時と同じ様に13歳のお誕生日にもう一度ママを持たせてください』って
私は…せつ子さんに渡す為の小さいけど素敵な花束を花屋さんから受け取って…大きめの巾着に隠し持ってウチへ帰った。
ウチのドアを開けると、とたんに美味しそうな香りが私を出迎えた。
私の為にせつ子さんはお仕事を休んでお誕生日会の準備をしてくれていて…いつも三人で食事するリビングダイニングのテーブルは素敵なディーナー席!!
こんなにまでしてくれるせつ子さんをパーティが終わった後、ひとりお家へ帰すなんて絶対にできない!!
何が何でも引き留めてみせる!!
お父さんにも頑張ってもらわなきゃ!!
そう、お父さんができなきゃ、せつ子さんに私が一緒に寝てもらうモン!
--------------------------------------------------------------------
「今年はママからもプレゼントがあるんだ」
せつ子さんから手作りの素敵なワンピースを、お父さんからは10インチのタブレットとお絵かき用のスタイラスペンをセットで貰って上機嫌の私にお父さんは語り掛けた。
「えっ??!!」
本来は喜ぶべき事なのに私の顔は僅かに曇る。
どうしよう…今日、せつ子さんにプロポーズしようと思っているのに…
「どうしたの?嬉しくないの?」
せつ子さんが心配そうに尋ねてくれる。
嬉しくないことはないけど…だけど…
お父さんが手渡してくれたふんわりと可愛い包み…
写真かなにかかしら…
開けてみると…
手紙と…
可愛いイラストの手帳??
とたんに、せつ子さんの顔色が変わった。
クルリとひっくり返して表紙を見ると
母の氏名 木下せつ子 子の名前 木下優乃
母子健康手帳…??!!
えっ?!!
なんで私の名前??!!
せつ子さんが木下??
佐藤じゃなくて!!??
これってレプリカ??!!!
パラパラとページを繰ると色んな項目が手書きされていて…最初は…“買い物メモや私の学校への連絡帳や勉強を教えてくれる時によく見る”せつ子さんの筆跡だったのが…途中から“レシピノートでしか見る事のできない”ママの懐かしい筆跡に代わっていた…
これって!!!
どういう事??!!
目を上げるとせつ子さんは青ざめていて…両手を口元に震えている。
お父さんは静かに微笑んで私に言った。
「優乃! 私達にもママからの手紙を…読み聞かせてくれないか」
--------------------------------------------------------------------
優乃
13歳のお誕生日おめでとう。
13歳はおとなへの階段を昇り始めるとき
だから私はお祝いに代えて
あなたに真実を贈ろうと思います。
あなたの生まれた日は
あなたのお母さんとは別の意味で
よく覚えています。
私は病院の廊下近くの柱の陰で
あなたの産声が洩れるのを聞いて
絶望と嫉妬に燃え狂っていたのだから…
私は狂った執念で
病院のスクラブを盗み
一日中潜んで
ひたすら機会を窺ったの。
そう、あなたを縊り殺すための…
ようやくその機会を捕らえ
あなたのまだ座っていない小さな首に私の指が触れたとき
あなたは見えていないはずの瞳で私を見て
ただ、微笑んだの。
私のこの細い指先でもっても簡単に絶つ事のできる命に対して私は何をやっているのだろうと泣き崩れたのを
あなたのお母さん…せつ子さんに見つかってしまって
私はそこから逃げ出した。
どういう事か分からないわよね。
あなたが生まれた時は
せつ子さんとパパはまだ結婚していて
パパと私は不倫の関係だったの。
せつ子さんにも他に想う人がいて…(と、せつ子さんが自分で言っているだけだから…本当は誰もいなかったのかもしれない。あの人は底知れないほど優しい人だから)
なのに私は…
私はもう子供を産めない体で…
寿命も限られていたから
自暴自棄で
色んな人と交わったわ。
そんな私を抱き留めてくれたのがパパだった…
こんな私のどこが良かったのか…
パパはせつ子さんに離婚してくれるよう泣いてお願いしたのだけど…
せつ子さんは許してはくれなかった。
当然よね。
お腹にあなたが居たのだから…
でも私も…
パパを恋する気持ちをどうしても止められなくて
あなたを殺して
自殺するつもりだった。
パパは自殺用の刃物を私から取り上げて
「ふたりでもう一度せつ子に頼みに行こう。だから優乃には何もしないで、せつ子から
優乃まで取り上げる事はしないで」って私を説得してくれたの。
だけどパパと一緒にせつ子さんのベッドへ戻ってみると
ベッドはもぬけの殻で
「私も想い人のところへ行きます。優乃の事、どうかどうかお願いします」
というメモと判をついた離婚届けが置かれていたの。
優乃
悪魔のような
こんな私だけれど
天使の様なあなたは
そう、限られたこの命の事さえ忘れてさせてくれるほどのたくさんの幸福を私に与えてくれた。
そして私の…死出の旅立ちがいよいよ近付いた今…ようやくせつ子さんを探し当てて…私達の傍へ来ていただけたの。
あなたがこれを読んでいる“今”は私がこれを書いている“今”から7年も経っているし…
優しいせつ子さんとその優しさを間違いなく受け継いだ優乃の事だから
今はお互いを労わりあって…パパと三人で素敵な家庭を作っているでしょう…
ひょっとしたら私では到底成し得ないあなたの弟か妹ができて、もっとにぎやかになっているのかも…
だけど
もし三人が
まだバラバラなら
優乃!
あなたの出番です。
その名の通り
優しいキューピットになって
ふたりを繋ぎ直してあげて下さい。
私は、あなたや、パパや、せつ子さんのおかげで
大変幸せでした。
p.s.
せつ子さん
優乃が13歳になるまではふたりの傍に居るとお約束いただき有難うございます。
もしあなたが…
なにかに躓いて
ふたりに
まだ手を差し伸べていないのでしたら
改めて申し上げます。
あなたに…優乃と武雄さんをお返しします。
これからの人生を三人で大切に幸せに生きていって下さい。
いつか同じ世界であえた時に
たくさんの素敵なお話を聞かせていただけるのを
楽しみにしております。
ありがとう
木下綾
--------------------------------------------------------------------
私、途中から泣きじゃくって
読むのにとても時間がかかった…
せつ子さんは泣き崩れているし…お父さんも拳で目を押さえていて
どうにか読み終えた後も
三人ともしばらくは泣き濡れていた。
でも私にはミッションがある!
ママだって望んでいた事!!
私は、巾着からそっと花束を取り出して
騎士のようにせつ子さんの前に片膝をついてプロポーズした。
「私のママになってください。私が生まれた時と同じ様に13歳のお誕生日にもう一度ママを持たせてください。どうかどうかもう一度! 木下せつ子になって下さい!!」
こうして13年間止まっていた私と“お母さん”の時計は…再びその時を刻み始めた。
。。。。。。。
イラストです。
優乃ちゃん(案)
こうした作品はしろかえでの範疇なのですが…
今は“黒楓強化月間”なので…(*^^)v
ご感想、レビュー、ブクマ、ご評価、いいね 切に切にお待ちしています!!<m(__)m>