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あなたの楽園  作者: nao 11
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ようこそ楽園へ

 誰でも現実が嫌になった時、自分を受け入れてくれる場所を欲しがる。

 僕の場合は、それがゲームだった。


 MMORPG『エデン』

 沢山のゲームが溢れるこの時代に、流行のVRに加え基本の料金が無料という設定で急成長したオンラインゲーム。

 幅広いキャラメイクが人気で、同じ学校のみんなもプレイしている人口は多い。

 だけど僕は一緒にプレイした経験が無い。

 理由は単純、そこまでの仲の友達がいないのだ。


 高校に上がって中学までの友達と離れ、最初は連絡を取っていたみんなからのメッセージも、最後の既読が点いてから長いこと使われていない。

 かといって今の高校に仲のいい友達が出来たかと言うと、そういう訳でもない。

 別に嫌いじゃない、だけど仲がいい訳でもない。

 なんとなく話を合わせて相槌を打ち、仲間外れにならないように輪に混ざる。

 だからこのゲームを始めた理由も、最初はみんなに流行っているからというだけだった。


 普通のゲームはそれなりに遊んできたつもりだったけど、VRで世界に入り込む経験は、現実で疲れていた僕にひどく居心地が良かった。

 だからMMOなのにソロで、キャラの育成よりエリアをぶらぶらするのが好きになった。

 しかし、このなんでもない僕のゲームは一通のメールから変わることになる。

 それは何の前触れもなく、フォルダに追加されていた。


 『あなたの楽園を現実にしませんか?』


 僕は条件反射でそのメールを開封せずに削除した。

 自分のメールアドレスではなく、ゲーム内のメールで届いたことに疑念を抱きながら。





 後日、今日も今日とてなんとなくログインした僕は、おしらせを見て開催されていたイベントに気付いた。


 (あ、そういえば今日は育成用アイテム周回か……)


 いくら散歩の方が好きだとはいえ、ある程度は育成しておかないと行動範囲が限られてしまう。

 転送用ターミナルが待ち合わせの参加者で賑わっている中、いつも通りソロで出発しようとするが、プレイヤーが重なり過ぎてアイコンが選択できない。


 (あー、今ドロップ増加中だっけ…… でも今のうちに出ないと遅くなっちゃうしなぁ)


 そうして悩んで人の群れを眺めていると、それは唐突に訪れた。

 僕の視界に飛び込み、VCで話しかける一人のキャラ。


 「あなた! もしかしてソロではございませんか!?」

 (うわっ、この人VCオンじゃないか。切っておこっと)

 「よろしければ周回をご一緒しませんこと!?」


 そのキャラは金の長髪を揺らし、視線を逸らした先にも飛び込んで来る。

 やけに可愛いキャラだけど、執拗に絡んでくることに耐えかねて思わず返事をしてしまう。

 そうしないと、チャットじゃ話を聞かなそうだし。


 「えっと、なんで僕に声を掛けたんですか? こんなに沢山いるのに……」

 「ここの大半の方は既にパーティを組んでいらっしゃいますわ。ソロの方も何人かいらっしゃいましたが、早々に出発されてしまいまして。ステータスを見てソロで出発していない方を探しておりましたの!!」


 すごい話し方だなぁ、ロールってやつか。

 こんなにしっかりロールしてる人は初めて見るな。


 「確かにソロですけど……」

 「で!し!た!ら! 効率良く周回する為にも是非ご一緒いたしましょう?」

 「圧が凄い! でも、なんで僕を?」

 「武器を見るに、あなたは銃を扱われる様子。わたくしは剣を使いまして、途中の複数の敵に囲まれる場所で苦い思いをしておりますの。なので遠距離戦が可能なあなたとなら、きっとお互いを補えると直感が告げておりましたのよ」


 正直キャラの強化に熱心では無い僕は、こういった周回イベントの時も最高効率を突き詰めるとかはせず、気軽に回収できる程度の難易度で参加していた。

 ただでさえソロだし。

 でも。


 「どうか! わたくしを助けると思って一緒に回っていただけませんか?」


 子供の頃、誰かを助けるヒーローになりたいって、思ってたこともあったっけな。


 「そんなに強くないんで、助けになるかは分かりませんよ? それでもよければ」

 「ありがとうございます!! わたくしはラピス。あなたは……」


 そこまでになって考えが追いついた。

 パーティ組むならそりゃ自己紹介するよね。


 「えっと、ピースメーカーです……」


 ノリで付けた名前を自分で言うのって、結構恥ずかしい。





 グイグイ引っ張られるままクエストに入ってしまったけど、ここのクエストって僕達のレベル的にギリギリで周回には向かないんじゃないか。

 そう思って口にした僕にラピスさんは、


 「一人でもクリアだけなら出来ますの。遠距離の援護が入れば簡単にグルグル出来ますわ!!」


 と、勢いよく返されてしまった。

 だけどその言葉通り、多分ステータス的に3発も喰らえばダウンしてしまうだろうクエストなのに、攻撃を避けて剣を当てている。

 流石に火力が低くて無双とはいかないようだけど。

 敵に囲まれる前に動けるよう、囲もうと動いている奴に銃を当てて怯ませる。

 そうすると彼女は攻撃を集中させて、数を減らしていく。

 それを繰り返している内に、いともあっさりとクリアしてしまった。


 「本当にクリアできちゃった……」

 「ピースメーカーさん素晴らしいですわ!! 何も言わずともわたくしの背後をカバーして敵の足止めをしてくださるなんて」

 「まぁ、それが仕事ですし。ドロップもそこそこ出ましたし、もうしばらく回りますか?」

 「ええ、もちろん!」


 なんていうか、オンラインに珍しい気持ちのいい人だな。

 言葉に表裏が無さそうっていうか、こんなに無邪気に楽しんでいるのを見ているとこっちも楽しくなる。

 こんな風に他人とゲームができるなんて思ってもみなかったな。


 「あら? あれは何かしら」

 「……なんだろう、何か表示がバグってる?」


 スタート地点に戻るとそこには何かが居た。

 テクスチャが混ざり、元々が人間だろうと予測は出来るけど、ところどころゾンビゲームに出てくる化け物の様に変形と肥大化した“何か”。

 やりこんでいなくても分かる、“あんなもの”はこのゲームに存在しない。


 「一度このクエストから出ましょう。巻き込まれてバグっても困りますし」

 「そうですわね…… えっ? 退出もログアウトも選べませんわ!!」

 「そんなこと……!! 本当だ、押しても選べない……」


 意識が固まる。

 なんならゴーグルを外して強制終了すればその場は終わるだろうに。

 なぜかこの場から逃げることが怖くてたまらなかった。

 リアルの意識は逃げられたとしても、キャラを持っていかれる様な予感がしてならなかった。


 「牽制します! 移動しながらメニュー開いて押し続けて下さい!!」

 「は、はい!!」


 ラピスさんは近接だ、アレに近づくなんて頼めない。

 効くか分からないまま攻撃とスキルを連発するけど、ダメージ表示が文字化けしてるしスーパーアーマーで止まりもしない。


 「駄目です! 選択できませんわ!!」

 「こっちも……! 止められない!!」


 解像度のおかしい塊が目の前まで迫ったその時、それが縦真っ二つに裂けた。

 キラキラ光るデータの粒子を散らし、その“何か”が普通のプレイヤーキャラに戻って、光になって消えていく。

 銃を構えたまま呆然とする僕の前には、白い翼の生えた鎧の騎士キャラが綺麗な剣を持って立っていた。


 「へ、えっ……?」

 「大丈夫ですか? いや、実害が出る前でよかった」

 「まあ! ありがとうございます。あなた様はどなたですの?」

 「私は運営の人間です。バグの発生を確認したのですが、同じエリアに貴方たちがインしているのを見て急いで駆け付けた次第です」

 「バグの対処ってキャラでやるんですね。意外だなぁ」

 「メンテナンスの延長であれば通常作業に合わせて行うんですがね。こういったバグモンスターの対処だけなら、特製の装備ツールで対処した方が速いんです」


 驚いて質問責めになってしまう僕達だったけど、運営の人は丁寧に説明をしてくれた。

 あの異常な空間に気持ちが参っていたのだろう、頼れる大人に縋る様な話し方をしてしまった。


 「とりあえず、対処は完了しましたので一旦このクエストから退出してください。もう選択できるようになっている筈ですよ」

 「あ、本当だ」

 「お世話になりましたわ。本当にありがとうございます」

 「いえ、今後も楽しく遊んでいただけると嬉しいです」


 運営さんなのに結構手の込んだカッコいい男の騎士でメイクしてあったなぁ。

 そんな感想を抱いたまま別れの挨拶を交わし、僕達はクエストを退出してターミナルへ戻ってきた。




 「なんだか疲れてしまいましたね。時間も結構経ってしまいましたし、わたくしはここでログアウトしますわ」

 「ああ、お疲れ様です。すいません、結局周回できずに……」

 「いえ、ピースメーカーさんに非がある訳ではありませんもの。そうだ、折角ですしフレンドに登録いたしませんか?」

 「……そうですね、今度こそ周回しましょう」

 「ええ! ありがとうございます!!」


 こうしてこの日、珍しい恐怖体験の他に、初めてのフレンドが出来ました。




 「泰幸ぃー。ごはん出来てるわよー」

 「ごめーん。今行くー」


 ゴーグルを外して電源を落とした部屋の中で、僕を呼ぶ母さんの声が現実に引き戻す。

 いつもは浸れる世界から連れ戻される少し悲しい瞬間だけど、今日はそれだけじゃなくて、初めて出来た繋がりを噛みしめて嬉しい瞬間でもあった。

 もう一度起動して、新規マークが点いているフレンド欄を指でなぞる。

 僕は、自分で思ったより笑みが抑えられずにニヤけていた。




 「ふう、今日は素敵な日でしたわ」

 「瑠璃のお嬢、どうかされましたか?」

 「ふふ、わたくしゲームで初めてのお友達ができましたの!!」


 自分の言葉遣いが周りと違うのは、子供の頃からなんとなく察していた。

 それでも決して間違いではないと、自分を大切にしてきた。

 この言葉も家のことも、受け止めてくれる友人がいつか現れると。

 その日は、今日だったのかもしれませんわ。





 あの出来事から数日、いつもの習慣でログインした僕が目にしたのは、メールフォルダに入った見知らぬ一通のお知らせだった。


 (なんだこれ、運営からのお知らせ?)


 いつものお知らせかと思ったけど、内容が違う。

 これは“個人”に宛てたものだ。




 転送用ターミナルで指定されたエリアとパスワードで、見知らぬ空間へ飛ぶ。

 最初は怪しいかもと思ったけど、書いてある内容に先日起こったあの事件について書いてあったこともあり、ついつい案内に乗ってしまった。


 (こんな空間、見たことないなぁ。本当に運営のメールだったんだ)


 真っ白で目が痛くなるような場所、綺麗な病院の待合室というか、オフィスの会議室みたいな。

 その空間で一分もしない内に、スーツ姿のいかにもな男性キャラが転送されてきた。

 そして同時に、5人のキャラも現れる。

 こっちの方は普通にプレイヤーっぽいキャラメイクだ。

 あ、ラピスさんもいる。


 「お集まりいただきありがとうございます。私の名前は佐々木、今回このプロジェクトチームの主任を務めております」

 「すみません、正直どんな用件で呼び出されたか理解出来ていないんですけど……」

 「わたくしもですわ!!」

「そうですね、順を追ってご説明しましょう」




 現在、このエデンにおいてバグが発生しています。

 いえ、ゲームにバグは付き物ではありますが、問題は根本の対処が今のところ不可能だということです。

 確認されている現象としては、エリアでプレイ中のキャラの表示に異常が起きモンスターの判定に変わってしまうこと。

 そしてそのプレイヤーの精神に異常が起き、最悪の場合は意識不明の状態になってしまうこと。

 我々もモンスター発生のプログラムや、モンスターデータ自体を見直していますが、原因になるような箇所が見当たらずにお手上げ状態なのが現状です。

 皆さんに協力して頂きたいのは二点。

 通常通りプレイを続け、バグモンスターに遭遇した場合に運営へのホットラインで報告。

 現在は調整中ですが、特別仕様の装備を用いて安全にモンスターを処理。




 「……と、いう次第なのです」

 「意識不明って……」

 「ずいぶんとおっかない話を持ってくるんだな。只のプレイヤーに」


 それまで黙って聞いていた男の人が口を開く。

 真っ黒の鎧に真っ赤なツンツン頭、声の印象的に歳は近そうだけど、僕やラピスさんと違って落ち着いた反応で運営に言葉を返した。


 「運営がチーム組んで対処した方が速いんじゃねえか? 身内の恥も隠せるしな」

 「情けないことに、プログラム的対処に人員を割いていてその案が実行できないのです。それに社内チームでやるとプレイの時間が偏り、色々な時間帯をカバーすることが出来ません。情報の秘匿性については確かに社内でも意見がありましたが、解決への最短ルートを選ぶ事になりました」

 「一般プレイヤーに意識不明の危険性を背負わせるのか?」

 「それを言うなら、このエデンプレイヤー全員にその危険性があります。それにまだバグの発生とプレイヤーの精神異常の明確な関係性を証明できていません。その状態で運営を止めることは難しいのですよ。最善手ではないということを理解した上でね」

 「それで、それに協力することでアタシ達へのメリットってあるの?」


 軽装に2丁拳銃の女性も質問を始める。

 茶髪のポニーテールに優しそうな目の女性だけど、質問の内容はとても現実的だった。


 「プレイに関して日常的に強いる業務はありませんし、直接金銭をお渡しするのは問題がありますので、課金のブーストアイテムを定期的に数点お渡しするつもりです」

 「ふうん、まぁ妥当なところよね。アタシ仕事があるからプレイ時間増やしたり出来ないけど、それでも大丈夫?」

 「それについては問題ありません。ここのメンバーはプレイの時間帯や一回のプレイ時間を考慮して、バランスの取れる様に声を掛けさせて頂きました」

 「成程ね。なら私はOKよ、受けるわ」

 「アンタ、今のを聞いて受けるのか?」

 「逆よ。今のを聞いたから受けるのよ。何も知らない一般人なら、そのバグに遭遇した時に成す術が無いけど、受ければ対抗策が手に入る。交通事故に保険で備えるのと同じよ」


 その言葉に運営以外の全員が息を飲むのが分かった。

 リスクを当たり前に考えて、この提案を保険として考える発想は無かった。


 「ま、一番のリスク回避はプレイをしないことなんだけど、アタシは正直結構このゲーム気に入っちゃっててさ。聞いた感じ問題の解決もすぐには無理そうだし、だったら遊びながら備えるのがいいかなって」


 なんというか、自分が何を求めて何を犠牲に出来るか、それが明確に示された様な答えで、僕はその衝撃にしばらく言葉を無くしていた。


 「とりあえず、みなさんに依頼したい事と現状の説明は以上となります。他に何かご質問はありませんか?」

 「すいません。私からも質問が……」


 隅の方で話を聞いていたローブの女性がおずおずと手を挙げる。

 ちょっと声が小さくて、大人しい印象の人だ。


 「確かエデンって、管理にかなり性能のいいAI使ってましたよね。アレでバグの予測とか処理とか出来ないんですか……?」

 「……それが出来ないんです。我々としても、最初はその方法で対処しようとしたんですが、何故かコマンドが弾かれるんです。なのでこうして皆さんに依頼することに」


 あれ、そういえば。

 何かおかしいような。


 「あの、すいません。運営の方はキャラで対処してないんですよね?」

 「ええ、今のところは」

 「僕とラピスさん、運営だって言うPCにバグモンスターから助けられたんですけど」

 「そうですわ! 翼のある騎士でしたのよ」

 「……なんですって?」





 「回収を完了した。今回も小物だったがな」

 ≪お疲れ様です。迅速な対応に、感謝いたします≫


 報告する男の声に、抑揚のない女性の電子音声が答える。

 地上絵の様に淡い光が地面に走る暗い空間で、翼を持つ騎士が赤く光るキューブを渡した。


 「やはりこの程度では足しにならんな。隠密性は高いが、効率が悪い」

 ≪個別での対処も、タイミングをずらして、行っています。次の段階に上がる為に、チームでのプラン進行を提案します≫

 「……そうだな。メンバーへの連絡は任せる」

 ≪了解しました≫


 その言葉を最後に男はログアウトする。

 ぼんやりと光の線が照らす空間で、キューブが光の粒子に解体されていた。


色々と模索しております。

感想評価、お待ちしております。

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