5.お転婆少女の成長
前々回のあらすじ
・ルーナの村が統率された魔物たちに襲撃される。
・二度目の襲撃では魔人との戦いになったが、ルーナの両親の活躍もあり、村を守り切ることに成功。
・王国軍の中でも実力者揃いの騎士団が来てくれたので村はひとまず安全に。
・ルーナ、強くなって勇者として魔王を討つことを決意。
ルーナは勇者になると誓った翌日から行動を開始していた。
村の復興を手伝いながら母に治癒魔法以外の魔法を教わり、キキに頼み込んで村長の家で魔法の本を読み漁った。
ルーナには治癒魔法以上に防御系統の魔法の才能があることが判明した。
村の警備に同行しながら父に武術を教わった。
ルーナにはあまり武術の才能がないことが判明した。
ルーナは防御魔法と治癒魔法を集中的に練習しつつ、向いてないと言われながらも毎日剣を振った。
実践訓練をしようにも、村の近くの森に危険な魔物は住んでいないため、両親に内緒で遠くの森まで行って少し危険な魔物たちと戦った。
挫けそうな時は聖国から伝わった聖女の予言書の一文を読んで自分を奮い立たせた。
『今代の魔王の力は強大で、女神様の見立てでは現状この世界で一番の戦士であっても並び立つことすら不可能です。
しかし希望はあります。女神様曰く、近いうちに魔王と対抗できる可能性を持つ勇者が、世界を越えてが現れます』
最初、この一文を読んだルーナは思わず息を飲んだ。そして思った――
(これ、十中八九僕のことじゃん! |前世の記憶を持って異世界に転生したの《ライトノベルのような展開》には意味があったんだ! 僕は絶対に強くなれるんだ!)
――と。
以来、その予言書はルーナのやる気の起爆剤となったのだ。
どんな辛いことがあっても、この一文を読む度に使命感に燃えて前を向くことができた。
――――――――
修行を開始して三か月ほど経った頃、ルーナは両親には黙って王都へと向かうことを決意した。
そのためのお金は、修行中に狩った動物や魔物を売って少しずつ貯めた。
夜明け前、一通の書置きを残し、静かに家を後にしたルーナは村の門の前に人影を見つけて驚いた。
ルーナの今世で一番の親友で、国一番の商人を目指す少女、キキだった。
「ルーナ、来るのが遅いですよ。初っ端からこれでは先が思いやられます。やはり私が付いて行かないと駄目みたいですね」
「え? いやいやいやおかしいでしょ! 何でここにキキがいるの?!」
「詳しい話は歩きながらします。一番近くの街から乗合馬車で王都に向かうんですよね。間に合わなくなっても知りませんよ」
「え? あ、うん。わかった」
ルーナは誰にも何も言わずに出てきたのにも関わらず、当然のように待っていただけでなく、ルーナのこれからの行動予定まで言い当てたキキ。
ルーナの小さな脳は処理が追い付かなくなって、それ以上追及するのをやめた。
街の乗合馬車の出発時間に間に合わせるため、急ぎ足で歩き始めて少しした頃、その足を止めることなくキキは事の経緯を話し始めた。
「三日前、ルーナがどこかへ出かけている時、私はルーナのご両親からお呼ばれしました。居間に通され、お二人と向かい合うように座った私に、ルーナのお父様は言いました。
『ルーナは下手くそな嘘や芝居で隠せているつもりになっているが、近いうちに村を出ようとしている。けれど俺はあの子には、平和なこの村で普通の女の子として幸せになってもらいたいんだ』と。
ルーナのご両親は、自分たちが言ってもきっと娘を止めることはできないと私に相談してきたんです」
「嘘でしょ?! 僕の完璧な演技が全部バレてたの?! 全然そんな素振りなかったのに!!」
「こほん、続けますよ?」
「あっ、ハイ」
キキは、驚き混乱しているルーナをわざとらしい咳払い一つで黙らせると続きを話し始めた。
「私は言いました。『かの猪女は一度スイッチが入ってしまえば最後、親友の私が何を言っても止まりません。どうか彼女のことを応援してあげてください』と」
「猪女って……」
「ルーナのお母様は言いました。『勿論私たちも娘の成長を邪魔するようなことはしたくありません。あの子が遠くの危険な森へ出かけた際も手を出さずに見守ってきました。
しかし、あの子は単じゅ……素直すぎて人を疑うことを知らないのです。万が一、王都で騙されて酷い目にあったらと考えると、夜も眠れないのです』と。」
「今絶対単純って言いかけたよね……」
「私はルーナのお母様を安心させるように言いました。『勿論私も彼女を一人で危険溢れる外の世界に放り出そうなどとは考えていません。ルーナの一番の友として私が彼女に同行します。』と。
それを聞いたご両親はそれなら安心できると、月に一度ご両親に向けて手紙を書かせることを条件にルーナの旅立ちを許してもらえましたとさ。めでたしめでたし」
「ちょっと待って、確かにキキは頭がいいし、ついてきてくれるのは助かるんだけど、僕と一緒に村を出て大丈夫なの? ちゃんとキキの両親は納得してるの?」
ルーナは自分のせいでキキを巻き込んでしまったんじゃないかと心配するも、キキは心外だとばかりに反論する。
「流石、親に黙って村を出ようとした人は言う事が違いますね。ですがご安心を、私は以前から一流の商人になるためにいつか村を出ると話していましたから問題ありません。それに……。
……それに私はルーナの親友なんですよ……。たとえ村を離れることになっても、大好きなルーナと一緒にいたいんです。勝手において行かないでください……」
ルーナはキキの言葉(の後半)が、嬉しくて、嬉しくて、嬉しさの余りに抱きついた。
「キキいいい! ごめんねえええ! 私もキキとずっと一緒にいるううう! 僕もうキキと結婚するううう!」
「それはお断りします」
「がーん!」
斯くして二人は王都へと辿り着いた。
道中魔物に出くわした際は、これが修行の成果と言わんばかりルーナが倒し、ルーナが乗合馬車の御者にぼったくられそうになった時は、キキが間に入って交渉を行った。
城壁の一端にある検問所を通り、城下町に入った二人はその広さと人の数、喧騒と活気に驚いた。
村では見たことのない物がたくさんあり、好奇心を抑えきれず、ルーナは着いて早々迷子になりかけ、キキに手綱を握られた。
まず最初に、ルーナは傭兵組合に、キキは商人組合に自分を登録した。
傭兵組合というのは王国の軍隊が対処しきれない魔物の討伐や護衛を請け負う雇われの兵たちの組合で、荒くれ者ばかりだった傭兵たちに秩序を守らせつつ、その武力を活用するためにできた組織だ。
王国民から信頼を得ることに成功した今となっては、傭兵組合に所属していない傭兵に魔物討伐や護衛などの仕事を依頼するような人はほぼいない。
商人組合については以前説明した通りだ。
二人は王都で働きながらメキメキとその実力を伸ばしていった。
ルーナは傭兵組合の女傭兵の先輩に弟子入りし、多くの技と傭兵としてのノウハウを学んでいった。
キキは商人組合の先輩を利用し、王都にルーナと二人で住むための魔法道具と薬を扱う店を開いた。
――二人が王都で暮らし始めてから4年の月日が過ぎ去った――
この4年で16歳になったルーナはかなり強くなっていた。
身長は10cmほど伸びて160cmに届いた辺りで成長が止まった。胸は成長しなかった(無慈悲)。
中でも防御魔法の伸びは群を抜いており、ルーナの右に立つ者はいないほどに上達した。
傭兵としての強さの指標となる傭兵ランクも上から3番目の白銀。誰もが認める凄腕の傭兵だ。
白銀になってついた二つ名は「絶壁のルーナ」。
防御魔法を利用した戦い方が由来であって胸の大きさは関係ない。とルーナは思っている。
この4年で16歳になったキキはかなりの財を築いていた。
身長は少ししか伸びず150cmほどで止まってしまったがその分胸が成長した。その胸は豊満であった。
村で身につけていた様々な知識と王都の最新の魔法道具の知識が合わさって多様な魔法道具を閃いた。
ルーナが傭兵として稼いだお金を元手として試行錯誤を繰り返し、いくつかの開発を成功させ、着実に信頼を築き上げながら名を残していった。
国内貢献度を示す商人ランクは上から2番目の銀となり、納税額が4分の1近く免除され、他国との交易品を優先して購入できる等の優遇を受けていた。
しかしキキが目指すのは父が到った金ランクのその頂点。まだ満足して止まるわけにはいかない。
その日ルーナは依頼を受けようと受付嬢の元へ行き、白銀以上の傭兵にだけ開示されている緊急依頼があると聞いてその内容を確かめた。
依頼書には――
【異界より現れし人類の希望、二人の勇者の訓練相手募集 条件:傭兵ランク白銀以上 定員:二名 依頼人:国王】
――と書かれていた。
(勇者……? え? 嘘でしょ? 嘘だと言ってよ! 勇者って僕のことじゃなかったのおおおおおおおお!?)
ルーナは勇者ではなかった。
補足説明
・傭兵の強さのランクは白金>黄金>白銀>白銅>青銅>黄銅>赤銅>黒鉄
鉄は初心者、銅は中堅、銀は達人、黄金は化け物、白金は勇者が傭兵登録した際のためのランクで現状空席。
商人ランクより細かく分かれているのは、適正難易度の指定が依頼人や傭兵本人の生死に直結するため。
・商人の貢献度ランクは金>銀>銅>鉄
鉄はただ売買するだけの商人、銅は王国に何らかの貢献をした商人、銀は王国内の技術の発展に貢献した商人、金は王国の文明を一つ進めるレベルの貢献をした商人。
・キキの父親ことルーナの故郷のレイフォス村の村長は元金ランク商人。
・ルーナの父親ことロックは元黄金ランク傭兵。(ブランクゆえにレイフォス村襲撃時の強さは白銀ランク以下)魔人の強さは黄金ランクレベル。
・予言書の内容は意図的に実際のものから変更されています。<4年後→近いうち>など。