4.世界各国の反応
前回のあらすじ
・ルーナの村が統率された魔物たちに襲撃される。
・二度目の襲撃では魔人との戦いになったが、ルーナの両親の活躍もあり、村を守り切ることに成功。
・王国軍の中でも実力者揃いの騎士団が来てくれたので村はひとまず安全に。
・ルーナ、強くなって勇者として魔王を討つことを決意。
ルーナの住む国、デイルスト王国の国王は忙殺されていた。
ここ数日の間に王の元へ届いた魔物による損害報告は百件を超えており、王国内の多くの村が魔物の侵略によって滅ぼされた。
王国軍と傭兵たちを総動員して対処に当たっているが、それでも被害を無くすには至っていない。
このようなことが起こりうる原因はただ一つ。
生きた災害、魔王の発生だ。
この世界に最初に魔王が現れたのは約3000年前。
強大な魔力を持つ魔王に対し、まともに傷を付けることができるのは、3000年前、女神より賜った神器による攻撃のみ。
魔王は存在するだけで魔物たちを強化し、狂暴にする魔族の王。
強大な力の代償か、幸いにも魔王は発生した場所から移動することができない。
そのため、負の感情に呑まれた人間に力を分け与えることで魔人に変え、魔人に魔物を率いさせることで世界を侵略する。
約300毎に発生し、その度にその力を増していく魔王。
特に前回の魔王討伐は困難を極め、世界中の人類が協力してようやく成し遂げることができた。
国王が魔王発生の周期がわかっていながら対策をしていなかった無能なのかというと、決してそういう訳ではない。
前回の魔王の討伐から未だに128年しか経っていないのだ。
過去3000年の歴史の中で、最も早くても250年以上、遅い時は400年近く経ってからの発生であったために、完全に不意を突かれた形となってしまったのだった。
国王は先日聖国クローリアから届いた国際会議への出席を求める親書に対し、出席の意向を示す返信を書き終えると、その間の政務を引き継ぐ準備を始めるのだった。
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デイルストと並ぶ大国であるヴィグロフ帝国の皇帝はほくそ笑んでいた。
魔王発生は帝国内に対して王国以上の被害をもたらしたが、帝国はそれを見越して、前回の魔王討伐後から長期にわたって国民たちに重税を課してきた。
想像よりも遥かに早かった魔王の発生には流石に驚いたが、今の帝国には、魔王討伐に十年かかったとしても兵力を維持できるだけの資金力があった。
低下した生産力も、魔王討伐後に生産力の高い国を侵略すれば問題なくなる。
世界制覇を目論む皇帝は、魔王発生という災害すら己の野望に利用するつもりであった。
既に世界を相手に渡り合えるだけの兵力は手に入れた。
後は魔王討伐に協力する振りをしつつ、他の国々が力を損耗させていくのを眺めるだけだ。
彼は願う。魔王がより世界に甚大な被害をもたらし、自身の覇道に貢献してくれることを。
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3000年前、女神の使いが舞い降りて神器を授けたとされる、聖国クローリアの聖女は、聖堂の中心で跪き、女神の声を聞いていた。
この世界にまた、魔王が生まれてしまいました。
今代の魔王はこの世界の人間の力では倒せない程に強力です。
未だ詳しいことはわかりませんが、4年後、世界を渡りし勇敢なる者が神器に選ばれ、いずれ魔王と並び立つだけの力を得るでしょう。
それまでの間、決して無謀なことはしないでください。
人の子よ、無力な私を許してください。
私はいつでも、あなた達の幸せを願っ、て……
聖女は女神からの交信が途切れると同時に立ち上がり、すぐに動き始めた。
そして、女神からの言伝を広め魔王討伐の協力を得るために二つの大国に親書を送った。
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魔王の生まれた場所。そこに一夜にして築かれた城には4人の魔人が集まっていた。
「とりあえず世界中の人間たちへの挨拶は終わった感じかなぁ?」
「ぼっボクがっ、ボクが一番いっぱい殺したっ。ボクはまだやれるよっ」
「犬くん落ち着いてぇ。この三日で結構警備が厳重になってきたしぃ、無駄な危険を冒してまでやる必要ないんだよぉ」
「襲撃=挨拶。魔王様=不完全。無理=禁止」
「そうそう、その通りぃ。流石は熊くん賢いなぁ」
「兎、アンタのその口調、何度聞いてもイライラするわ。私は暇じゃないのよ。さっさと次の指令を教えなさい」
「猫ちゃんはせっかちだねぇ。せっかく可愛い顔してるんだからもっと……冗談だよぉ、次の指令でしょぉ。
えーっとぉ、わかりやすく言うとぉ、
『とりあえず世界各地でたくさんの絶望を生み出してぇ、魔人を増やそぉ』
って感じかなぁ?」
「まっまたボクが一番っ、魔王様に褒めてもらうっ」
「指令=理解、命令=絶対」
「ホント良い趣味してるわね」
補足説明
・この世界の女神は全知全能ではありません。
・女神にとって、魔王を含む魔族たちはいつの間にか現れた癌の様な存在。
・女神は人類側を積極的に応援している。ただ3000年前に顕現し、神器を授けたことで、ほぼ力を使い果たしたので、聖女を通して助言するだけで精一杯。
・魔王陣営の幹部っぽい子たちは以前の魔王によって魔人になった者たちの生き残りで、今回の新たな魔王の誕生と同時に襲撃することを企画してました。
・魔王陣営の幹部っぽい子たちはお互いを動物の名前で識別し合っています。