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3.お転婆少女の非日常


早く転移組を登場させてTSテンプレ展開を書きたいので、かなり駆け足で進めます。

説明不足になっている点など御座いましたら教えてくださると嬉しいです。


前回のあらすじ

 ・TS少女はお転婆娘になって平和な毎日を全力で楽しんでいました。



 その悲劇は、何の前触れもなく、突然引き起こされた。


 ルーナはその日、いつも通りに家の手伝いを終わらせると、森で狩りをしていた。

 その日は何故か魔物も動物も中々見当たらず、奥の方まで進んでようやく一頭の小柄な猪を狩ることに成功した。


 猪を縄で縛り、身体に巻き付けるように背中に背負いあげた時、村の方から鐘の音が聞こえた。

 日没でもないのに村の鐘が鳴るということは、村に何らか緊急事態が起きたことを意味する。

 言いようのない胸騒ぎを覚えたルーナは村へと急いだ。



「何、これ……」


 10分ほどかかってようやく村へと戻ったルーナの目の前には、凄惨な光景が広がっていた。

 壊され瓦礫と化した家屋、踏み荒らされた畑、喰い殺された家畜、そして怪我をして治療を受けている村人たち。


 ルーナは背負っていた猪をその場に降ろし、急いで怪我人が集められている場所へと駆け寄ると得意の治癒魔法で怪我人たちの治療を手伝い始めた。

 怪我人がいるのに医者であるルーナの母、ナイアの姿が見当たらず、不安になったルーナが治療の手を止めずに尋ねたところ、ナイアはこことは別の場所で怪我人の治療に当たっているらしかった。


 村のこの惨状を引き起こした犯人とされる魔物の死骸の数は、ルーナがパッと見ただけでも30はあった。

 30体以上の魔物の群れによる村への襲撃。それは本来ならばあり得ないことだ。


 この世界の人々が住む街や村、集落などには必ず魔物除けの結界を張る魔法道具があるので、村の存在に気付かれること自体がまずありえない。

 仮に誰かが何らかの拍子にその結界を破壊してしまったとしても、結界は十分ほどで再構築されるので一度にここまで多くの魔物が侵入してくるはずがないのだ。

 結界の効果を受けない何者かが、結界の破壊と同時に大量の魔物を手引きしたりしない限り。


 こんな異常事態を引き起こすことのできる存在は限られている。

 人であるため結界の効果を受けず、魔王の力を与えられた魔族であるため魔物を操ることができる、魔人と呼ばれる者たちだ。

 そして魔人が現れたという事実は、この世界の全人類共通の敵、魔族たちの王、魔王の発生を意味する。




 日が沈んだ頃になってようやく村中の怪我人の治療が終わった。

 不幸中の幸いか、村の治安維持隊と狩人たちに加え、偶然村を訪れていた傭兵たちが迅速に対処してくれたおかげで、死人は一人もでなかった。


 村長は状況を整理し、今後の方針を決めるため、村の中心にある広場に人を集めた。

 ルーナが広場に着いた時には既にルーナの両親とキキがいて、抱きしめ合いながら互いの無事を喜び合った。


 キキは家で本を読んでいたところを襲撃されたが、村長の家へ挨拶に来ていた傭兵の方たちに守ってもらっていたようで怪我一つなかった。

 ナイアは襲撃された時ちょうど夫であるロックの手伝いのため、治安維持隊の屯所にいたので無事だったようだ。


 話し合いの後、村長は王都に巣を持つ伝書鳩に報告書を届けさせ、一刻も早く応援を呼んできてもらう為に傭兵たちに最も近い街まで向かってもらった。




 その日の夜、ルーナは一睡もできなかった。

 あまりに急激な状況の変化に頭が追い付いていなかった。


 ルーナは半日前まで平和で順風満帆な生活を送っていた。

 心優しい村人たちに囲まれ、未来は希望に満ち溢れていた。

 なのに今、ルーナの目に映る村人たちは皆傷つき、絶望し、泣いている。


 ルーナが治療した人の中には、戦いの中で片腕を食いちぎられた人もいた。

 どれだけ凄腕の治癒魔法師であろうと欠損した部位を治すことは不可能だ。

 彼はこれからの人生を、片腕で歩んでいかなければならない。

 魔力で動く義腕は存在するが、とてもじゃないが平民が手をだせるようなものではない。


 ルーナは当たり前のことができない辛さを知っていた。

 人に頼らざるを得ない歯痒さを知っていた。


 村長は、近いうちに魔人たちがもう一度この村を襲ってくる可能性は、極めて高いと言っていた。

 しかし村人たちは誰一人として逃げようとはしなかった。

 元奴隷であった村人たちにはこの村を出ても行く当てなどないし、何より生き方を知らなかった者たちを受け入れてくれたこの村を、生まれ育ったこの村を愛していたから。


 十分な応援が来る前に次の襲撃がくれば、確実にまたこの村の人たちは傷つくことになる。

 それどころか、死人が出る可能性だって決して低くはない。

 ルーナはこの世界に来て初めて、次の日が来るのを怖いと思った。


――――――――


 次の日の昼、応援が来るまで次の襲撃が来ないでほしいというルーナの願い虚しく、魔物の群れと共に一人の魔人が姿を現した。


 村の狩人たちが森を偵察していたおかげで、今回は事前に襲撃を察知できたため、ルーナの父であるロックを含む村の戦える男たちと、ルーナの母であるナイアは村の入り口で待ち構えていた。


 薄ら笑いを浮かべる女の側頭部には魔人の証たる一対の禍々しい角が生えている。

 魔人はロック達の存在に気付くとその足を止め、言葉を発した。


「あれあれあれぇ? 皆さん揃ってお出迎えですかぁ? 命乞いをしても無駄ですよぉ? くすくすくす……。それにしても昨日は驚きましたぁ。あれだけ魔物さんを送り込んだのに壊しきれないなんてぇ、人間の皆さんも成長しているんですねぇ」


 魔人は無邪気な少女の様な声で笑っていた。

 しかし女が言葉を発する度、対峙する者たちには、華奢な容姿からは想像もできない程の圧がかかる。

 そして本能で理解した。自分たちでは彼女を倒すことは不可能だと。


「魔物さんたちを集めるのも楽じゃないんですよぉ? これだけ集めるのに半日以上かかっちゃいましたぁ。色々と面倒なので諦めて魔物さんたちの餌になっちゃってくれませんかぁ?」


 そう言って魔人が白く細い腕をかざすと、魔法陣が浮かび上がり、村を覆っていた結界は容易く破られた。


 がしかし、魔物たちは村を襲ってこなかった。


「ふう……、何とか間に合いました」


 魔人が結界を破壊する前にナイアが魔法で魔物除けの結界を張ったのだ。


 続けてナイアの結界も破壊しようする魔人だが、ナイアの魔法で作られた結界は魔法道具より頑丈で、脆くなった箇所はすぐに補修される。

 そうこうしている間にも魔法道具による結界が再構築されつつある。


「くすくす、くすくすくすくす……。そうやって引きこもって時間を稼ぐつもりですかぁ? 魔力比べなら負ける気はしないんですけどぉ、少ぉし面倒ですねぇ」


 魔人は結界を破るのを止め、ナイアを見据えると、魔法で強化された膂力で大地を蹴り、一瞬でその距離を詰めた。

 そしてナイアの身体に腕を突き刺そうとし――


「そう来ると思ったから、俺達がいるんだよ!」


――ロックの振るった大剣によって横方向に吹き飛んだ。


「すまん、少し遅れた。危なかったよな」


「いえ、ロックさん。ありがとうございます。信じていましたよ」


 元傭兵で戦場を駆けた経験のあったロックだけは魔人の速度に反応し、攻撃を防ぐことができた。


「くすくすくす、けほっ、今のは痛かったですよぉ、けほっけほっ、内蔵がつぶれちゃうんじゃないかと思いましたぁ」


 ロックの全身全霊の一撃を食らった魔人は笑いながら立ち上がると、青い血を吐きながら治癒魔法で損傷した箇所を治療する。


「いやぁ、全力の一撃が上手いこと入ったと思ったのに結果がコレって、自信無くすぜ……」


「驚きましたよぉ、こんな村に私の速さについてこれる人がいるなんてぇ。魔物さんたちが返り討ちにされちゃったのも納得ですぅ。

 この村は奴隷上がりしかいないから簡単に落とせるって聞いてたんですが、誤りだったようですねぇ」


「どうしてこの村ことを知っている?」


「さあねぇ? 何故でしょうねぇ? 私に勝てたら教えてあげますよぉ?」


 そこから二人の戦闘が始まった。

 積極的に攻める魔人と、倒せなくても時間を稼げればよしと守りに専念するロック。

 防戦一方とはいえロックと魔人の戦いは拮抗していた。


「やりますねぇ。なら、こういうのはどうですかぁ?」 


 このままでは埒が明かないと考えた魔人は一旦距離をとり、魔力を練り上げ、巨大な炎の塊を大量に作り出した。


「やっぱ魔法も使ってくるよな……。皆! 作戦変更だ! 魔物の相手は任せたぞ!」


 ロックの言葉を聞いて村の男たちはそれぞれの武器を構える。

 ナイアはそれを確認し、魔物除けの結界を解くと、迫る魔人の魔法の炎を防ぐため、魔法の障壁を展開した。


 そこからは乱戦だった。

 結界がなくなったことにより押し寄せる魔物は村の男たちが抑え、ロックが魔人を抑え込み、魔人の魔法攻撃はナイアが防ぐ。


 ロック達にとって、一瞬とも永遠とも思えた戦いは、日が沈みかけた頃になってようやく終わりを告げた。

 戦いに終止符を打ったのは、軍馬の嘶きだった。


 街から王国騎士団が駆け付けたのだ。


 流石に分が悪いと察したのか、魔人は虎型の魔物に跨って去って行った。生き残った魔物たちもまたそれに追従するように去っていった。

 ロック達は、村を守り切ることに成功したのだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「俺達の勝利だああああああああ!」


 男たちは雄叫びを上げ、涙を流しながら喜びを分かち合った。




 両親たちが戦っている間、ルーナは後方でキキや村長たちと共に待機していた。

 負傷し、撤退してきた村人の治療がルーナの役目だった。


 治療しながらも、ルーナは歯痒い気持ちでいっぱいだった。

 今のルーナには目の前で戦い、傷ついている人たちを眺めていることしかできなかった。


(これじゃあ守られることしかできなかった前世の自分から何一つ成長できていないじゃないか。

 今世こそ、人を助けられる漢になるって決めたのに。せっかく健康な身体に生まれ変わったっていうのに、こんなんじゃ、日本にいる柊一たちに顔向けできない)


 ルーナは誓った。必ず強くなってみせると。

 そして魔王を倒して多くの人を幸せにする漢の中の漢――


――勇者になってみせると。



補足説明


・村の防衛に貢献し、応援を呼びに言ってくれた傭兵さんには村長がそれなりに報酬を支払ってます。

・応援を呼びに行くことを傭兵さんたちに頼んだ理由は危険な戦いに部外者を巻き込みたくなかったから。

・ロックとナイアは村長と共に村の設立に尽力した側の人間で、元々国内でも有名な実力者だった。

・ロックは元傭兵。ナイアは元王宮に仕える魔法師。

・ロックの傭兵時代の二つ名は「竜巻のロック」、大剣を軽々振り回し戦場を駆け巡る姿からそう呼ばれた。

・ロックとナイアに物理と魔法で攻撃しつつ、定期的に再構築される結界を破壊する。そんな魔人より遥かに強いのが魔王。

・Q.大剣が当たったのに魔人が斬れてないのは何で?

 A.私のイメージだと大剣は刃物寄りの鈍器って感じなので。それを抜きにしても魔人は魔力を鎧のように纏っていたので斬れませんでした。

・Q.何で一回目の襲撃では魔人本人は襲ってこなかったの?

 A.彼女はめんどくさがりなので魔物を送り込んだ後、すぐに村から出ていって森の中で寝てました。

  魔物が全滅したと知った後の、二回目の襲撃の際には、応援が来ると厄介なので本気で潰しに行ったけれど、ギリギリ間に合わなかったという形になります。


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