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2.お転婆少女の日常


前回のあらすじ

 ・病弱少年、異世界に転生して少女になる。



 魔法と魔族が存在する世界のとある村。

 そこで睦月改めルーナは生まれた。


 満月に照らされた夜空の様な明るい(あい)色の髪。

 髪と同じ色の長い(まつげ)に守られた、低い月の様な山吹(やまぶき)色の大きな瞳。

 病室で生活していた前世の様な青白さとは無縁の、白桃のような透き通った肌。

 身長は150cm程で、長くスラっとした足には活発な証として、健康的な程度に筋肉が付いている。


 今年12歳になるルーナは、正真正銘の美少女に育っていた。


 唯一の欠点はその胸。慎ましかった。いや、絶壁であった。


 ルーナは転生した当初、女になったことに戸惑い悩んだ。

 けれど睦月(ルーナの前世)が特に男らしかったわけでもなかったので、これといった抵抗はなく成長と共に少しずつ慣れていった。


 女としての生活に慣れたとはいえ、流石に前世で同性だった男に対して恋愛感情を抱くことには抵抗があり、かと言って女の子に恋愛感情を抱くこともないため、恋愛経験はなし。

 今となっては色気より食い気の、村の男どもに混ざって森で狩りをするのが趣味のお転婆娘(てんばむすめ)に育っていた。


 ――――――――


 朝日が顔を出すと共に、村の中心の高台にある鐘が鳴った。

 日の出と日の入りに鳴るこの鐘は、村の人々の起床と帰宅の合図だ。


 鐘の音で目を覚ましたルーナは身体を起こすと、両腕を引っ張るように大きく伸びをした後ベッドから降りた。

 綺麗な水で濡らしたタオルを使い、顔を洗って眠気を覚ますと寝間着を着替えて部屋を出る。


「お母さんおはよう!」


「おはようございます、ルーナ」


 ルーナが居間に着くと既に起きていたルーナの母、ナイアが朝食の準備を始めていたので、すぐに隣に並んでそれを手伝う。

 ルーナはナイアがスープを作っている間に、魔法で起こした火を使って卵とベーコンを炒めた。


 朝食が完成する頃になって、ちょうどルーナの父、ロックが起きてきた。


「ロックさん、おはようございます」


「お父さんおはよう!」


「おはよう、ナイア、ルーナ」


 作った料理を食卓に並べ、全員が席につくと、たわいもない話をしながらの朝食が始まる。

 今日のルーナの朝食は少し苦かった。火加減を誤り少し焦がしてしまった部分を、バレないように自分の皿に全部取り分けたせいだ。


 朝食の後は家の手伝いをする時間になる。

 今日はまず母と一緒に井戸水を汲みに行き、父と一緒に畑仕事をし、その時に収穫した作物を八百屋さんに(おろ)しに行き、ついでに日用品の買い物をして帰る予定だ。




 日が昇り切った頃、予定通りに仕事を終え、必要なものは一通り買い終えたというところでルーナは一人の少女を見つけた。


 癖のある臙脂(えんじ)色の髪、宝石のような瑠璃色の瞳は少し(まなじり)が吊り上がっていて、見る人に気が強い印象を与える。

 身長はルーナより少し小さいくらいだが、年齢に反して出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ、女性の魅力溢れる理想的な体型をしている。


 彼女の名前はキキ。ルーナの今世で一番の親友ともいえる存在だ。


 親友に会えて嬉しくなったルーナは手に持っていた買い物籠(かいものかご)を、収穫物を運ぶために押してきた空っぽの台車の中に放り込むと一目散に駆けだした。


「キーキっ! おっはよー!」


 そして走ってきた勢いをそのままに後ろから抱きつく。

 キキは突然の背後からの襲撃に何とか耐えきると、心臓が悲鳴を上げるのを感じつつ、一呼吸おいてから挨拶を返す。


「おはようございます、ルーナ」


 そして間髪入れずに背中にくっついたルーナの頭に怒りの鉄槌(手刀)を食らわせた。


「あいたっ」


 ルーナが頭を抑えながらキキの背中から離れると、キキは振り返ってルーナの頬を掴み引っ張った。


「私、挨拶と同時に突進してくるのは止めてくださいと、何度も言ってますよね?」


「いひゃいいひゃい! ほっへははほひはうお~!(痛い痛い! 頬っぺたが伸びちゃうよ~!)」


「ルーナ、ご・め・ん・な・さ・い・は?」


「ほへんあはーい!(ごめんなさーい!)」


 キキはルーナの謝罪を聞き届けると、一つため息をついた後、掴んでいた頬を放した。


「うぅ、頬っぺたが千切れるかと思ったよ」


「自業自得です」


 ルーナの恨みがましい言葉を正論で受け流すキキ。

 ルーナはキキと口論してもほぼ確実に勝てないので、ヒリヒリする頬をさすりながら話題を変えることにした。


「ところでキキは市場に何しに来たの? お遣い?」


「いえ、昨晩王都からいらした行商の方と取引をしたいと思いまして」


「おお! この前一緒に作った魔法道具の売り込みだね! 僕も付いて行っていい?」


「勿論です。でもその前に今日の仕事を終わらせてきてくださいね?」


 そう言うと、キキはルーナがほったらかしにしていた台車に目線を送った。


「あいあいさー!」


 ルーナは急いで台車の元へ戻ると大急ぎで家へと帰っていった。


 キキはルーナが生まれたのと同じ年に、この村の村長の娘としてこの世に生を受けた。しかし上に兄が二人いることもあってそれを継ぐことは求められていない。

 そんなキキの夢は王国一の商人になること。

 キキが商人を目指すようになったきっかけは、母に教えられたこの村の出自にある。


 村長ことキキの父は元々商人だった。持ち前の商才でかなりの富を築き上げた彼は、私財の殆どを投げ打って未開の森を開拓し、奴隷制度廃止によって行き場をなくした元奴隷たちを引き取り、様々な教育を施したのだ。

 そうしてできたのがこの村、レイフォス村だった。

 その背景にはキキの父が現国王の古くからの友人であることや、奴隷制度廃止が現国王とキキの父の悲願だったことなどがあるが、キキはそこまでは聞かされていない。


 幼少より、村の人々に慕われ感謝される父の背を見て育ったキキが、父と同じ道を行き、いつかは父を超えたいと思うようになるのに、そう時間はかからなかった。


 今日はそんなキキにとって初めての取引だ。

 ルーナはキキの親友として、自分のことのように嬉しく感じていた。




 結論から言えば、魔法道具の取引は失敗に終わった。

 既に同じような、より効率の良い製品が王都の商人によって開発されていて、商人組合に特許申請されていたからだ。


 商人組合というのは、その名の通り王国内の商人たちの組合で、貨幣統一、独占防止、技術発展の促進、闇商人(違法に取引を行う商人)の取締などの為に作られたのが始まり。

 王国に認可された組織でもあり、所属する商人たちは国内貢献度によってランク分けされ、高ランクの商人は税の減額などの恩恵を受けることができる。


 キキは行商の女性に「後2年早かったら金貨3枚くらいにはなってたよ」と励まされていた。

 金貨1枚は農民一人の年収に相当する。その下に銀貨、銅貨が続き、金貨1枚には銀貨100枚分の、銀貨1枚には銅貨100枚分の価値がある。


 現実は厳しく、12歳の少女二人が思いつくようなことを他の人たちが思いついていないはずがなかったのだ。




 キキの自棄食いに付き合った後、キキと別れて帰路についたルーナは、森に狩りに行く気分でもなくなってしまったので、家で母に魔法を教わることにした。

 村の医者でもあるルーナの母、ナイアは治癒魔法の天才で、その治癒能力は隣町からナイアの治療を目当てにして人が訪ねて来るほど。

 そんなナイアの血を引くルーナにも、ナイアほどではないが治癒魔法の才能があった。




 日が沈み、村の鐘が鳴ると村の治安維持隊の隊長をしているルーナの父、ロックが帰宅する。

 そしてナイアとルーナが一緒に作った夕食を食べながら、三人は今日あった出来事を話し合った。


 夕食の後は、各自身体を洗って寝間着に着替え、自室のベッドで眠るだけ。

 元男のルーナも、今世は女の子に生まれた以上、夜更かしは出来ない。

 仮に夜更かしをして(くま)を作ろうものならナイアとキキからの説教一時間コースが確定する。


 ルーナはベッドに寝ながら一人想う。

 この世界の、この国の、この村の、この両親の元に生まれることができた僕は、世界一の幸せ者だと。




 そんな幸せな日常の崩壊が、すぐ近くまで迫ってきているとも知らずに……。



補足説明


・畑仕事は副業で、ロック(ルーナの父親)の本業はあくまで治安維持隊の隊長。

・ルーナがお転婆でスキンシップが激しいのはルーナの前世、睦月だった頃に出来なかった反動。

・前世の知識で知識チートはありません。何故ならルーナの前世、睦月は病弱な世間知らずでしたし、学校に行けず基本独学だったので頭も良くはなかったから。

 更に趣味で読んでいた本も、自分にできない憧れから読んでいた恋愛小説か、親友だった柊一に勧められたライトノベルくらいだった。

・治癒魔法の練習は植物を使ってやっています。自分の身体を傷つけたりはしていません。


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