五話 なんか新興宗教があるらしいです
この世界の神は世界を作った創造神。そして力の神、知恵の神、魂の神という上位神が3柱。その部下という形で技術の神、芸術の神、魔法の神、戦いの神、生命の神、死の神などの中位神が12柱。そして鍛冶の神、踊りの神、火の神、剣の神、出産の神という下位神が24柱。という形らしい。いろいろと神様がいるが総勢的に40人らしい。
「まあ。そこはさておいてな。
それでその神ではなくそれを進行しているわけじゃないのにそれに近い力を使える。
魔物や魔獣、妖精や精霊そういった存在は神から力を奪っている悪しき存在。そういう考えをしている宗教なんだ」
「ちょっとまってくださいよ」
その言葉に声を上げたのはヨハンだ。
「魔物や魔獣を悪しき存在。そういうのはわかりますよ。
人を襲うものが多く知性がなく危険な存在が多い。
だからそう考えるということに理解もできる。
けれども妖精や精霊まで一緒にするというのはいささか暴論かと思います」
「えっとすみません」
慌てたように言うヨハンの言葉を聞きながらアカネは申し訳なさそうに口を開く。
「魔獣とか魔物とか妖精に精霊。それらの違いが判らないんです。
いや。あの元々いた故郷だとそういう存在がその確実に認識されていたわけじゃないんです。それに故郷と同じ価値観というか認識なのかがわからなくて……」
申し訳なさそうに言うアカネに、
「まあ。そうだね、
それじゃ説明を使用。
まず魔獣。元々は馬やウサギ、猪といった野生動物。
けれど大気にある魔力を吸収した結果、突然変異を引き起こしたんだ。
基本的に動物だったころの性質も持っているが魔力の影響で狂暴化している。
そのために自分と違う種族を襲う性質がある。
主な理由はわかっていないけれど人間などが持つ他の生物が持つ魔力を狙っている。そんな説もあるね。まあ。そこは学者が研究をしているところだ。
商人にはさほど重要な知識じゃない。ただその魔獣の毛皮や肉、骨やツノに爪。そういった体の一部は薬や武器の材料になったりする。そこが重要だね」
そういうエルダの言葉にふんふんとうなずく。
なんとなくだがゲームに出てくるモンスターみたいなイメージだ。
「で次に魔物。こっちは魔力を持って現れた自然界のよどみといわれているね。負の感情とかで生まれているというやつで魔獣に比べて知性があり独自の文化や文明を築いているものもいる。ただしこちらも基本的に人間に対して敵対行動をとるものが多い。
ごくまれに人間に大して友好的に接するものもいないわけじゃないが……。それはごく少数。基本的に人間を襲う存在だ。
生きた死体と評されるゾンビや吸血鬼、オーガやゴブリンにリザードマンとかだね」
魔物というのもモンスターのようだがなんとなく魔物に比べると上位種。そう考えればよいのだろうか?
「まあ。魔物と同じで体の一部が薬や武器の材料になる。承認としてはそこが重要だね。ただ知性がある分だけ厄介なところもあるから注意が必要だ」
なるほどな。
そう朱音は言う。
ヨハンの言う通り彼らを神が望まずに作った敵。そういって悪しきものと断言するのも理解はできる。まあ。アカネとしてはだからと言って殺すべきなんて考えを増長させるのもどうかと思うわけなのだが……。そこは何も知らない自分だからの意見だろう。
そう思って黙っていた。
「ただ妖精や精霊は違う。
自然界の動植物や気が魔力を持って生まれた。そこだけ言うと魔物や魔獣と似たような形かもしれない。けれどもそれが歪みじゃない。
だから害悪はない。悪戯をしたり時に人を困らせることがあるし価値観が人間と違う。
けれどもどちらかというと良き隣人という扱いのはずだ」
体の一部が確かに薬や武器の材料になったりすることもある。けれども命まで取るというよりも分け与えてもらう形の方が多かった。
けれども、
「それまでも危険として最近では実際に狩っている冒険者もいるそうだ」
「あ。いるんですね。冒険者」
エルダの言葉にアカネはそうつぶやく。
脳内でよくあるロールプレイングゲームが浮かぶ。
なんとなくだがキャラメイク……キャラクターの外見をある程度選べて職業や魔法使いを選んで自由にパーティーを決めたりしてクエストをクリアしていく。
そんな感じだろうか。
だとしたら冒険者ギルドというのがあるかもしれない。
冒険者ギルドで冒険の依頼を受けてやる。薬草の採取とか素材の採取。そしてモンスターを退治していく。
よくあるアカネが読んだネット小説などでは異世界転移した主人公が冒険者になる。そして最強能力などを得たり強い仲間(異性ならば美形でいずれ主人公に惚れる)を得て英雄になっていき大成功する。
そんなストーリーが王道だった。
あいにくとアカネは面白いと思った(大抵に最底辺の状況からの成り上がりというのがありそれが面白かったのだ)が、まねしたいとは思わなかった。
血を見たり命の奪い取りとか危険な場所に進んでいきたいとは思わないのだ。
なので料理を作る料理人になりたいと思ったのである。
成り上がりではないが異世界のほのぼの料理系があったのでそこまで聞いて、
「まあ。そう言わけだ。
宗教問題は複雑だからな。
一介の商人風情がどうにかできるわけじゃない」
「宗教問題って複雑ですからね」
エルダの言葉にアカネはうなずく。
「アカネの故郷でもそうなのか?」
「ええ。私の故郷の国は比較的、寛容で一年を通して宗教ちゃんぽんでお祝い事やらお祭りをしていましたけれど」
正月を祝い節分に豆をまきバレンタインデーにチョコを送る。ひな祭りをしてお花見をして子供の日を楽しみお盆に先祖の霊を祀る。ハロウィンにコスプレをしてクリスマスにケーキを食べて大晦日に除夜の鐘をきく。神事、仏教、キリスト教がごちゃ混ぜになっている。まあ。どれも本来の意味合いからずれた魔改造済みな気もしなくもないが……。
「けれど全く宗教で問題がなかったわけじゃないんですよ。
数百年ぐらい昔の話なんですけれどね。
ある宗教を禁止した時代があったんです。
元は外国の宗教でして受け入れられたんですけれど反乱していた時のリーダーがその宗教を熱心に信じていたのもきっかけらしいんですけれどね。
その結果、その宗教を祈るだけで一家そろって火あぶりの処刑にされたそうです」
「そ、それはすごいな」
アカネの言葉にヨハンが頬を引きつらせる。
「まあ。かなり苛烈だったそうですよ。
その宗教の聖母……まあ。神様みたいな方ですけれどその絵姿を踏ませてその神様を信じていないと誓わせたりしていたそうです。
まあ。信じている人は心で謝罪しながら踏んだり隠れた場所で祈っていたりしていたそうですけれどね」
「なるほど」
「まあ。他にも外国でもにたようなことがありましたよ。
と、いうか政治にも利用されていたみたいです。
他国の領土が欲しいけれど他国を侵略するのに大義名分がないとかありますしね。
普通の一般市民からしてみたら戦争なんて起きない方が良い。兵隊として男性も取られて働き手はいなくなる。物価は高くなる。家族が生きて帰ってくる保証もない。
けれど国は領土とかお金が欲しい。そういった理由でしょうね。
だから自分たちとは違う宗教を信じている。それを邪神だ。悪魔に使えている。
だから神のためにあの国を亡ぼすのだ。
そういって主張したとか言います」
日本のように多神教ならほかの宗教を受け入れることは容易だとされている。だが、一神教などだとしたら自分以外の神はいない。その神様は偽物。
偽の神様は悪魔であるという考えだ。
そういった戦争で国を滅ぼして宗教を滅ぼす。そしてその教えを悪魔という形にしてしまうということは珍しくない。
「思ったよりも血みどろなんだね」
「あ。現代ではさすがにそういうのはめったにないですよ。
まあ。たまに宗教を主張して血みどろのことをする人がいますけれど……。
それは一部の頭がおかしい人だけです」
主に自称神という一個人が作ったカルト宗教。あるいは既存の宗教だけれどそれが過激になって戦争を始めているような一部の狂人などだ。
「ただこれは勝手な推測なんですけれどね。
急激に大きな宗教になっていくっていうのはどうも怖いんですよね。
私の故郷でも宗教は最初は小さかったのが歴史を重ねて大きな宗教になるというのはあります。けれどできたばかりでそんなに急に大きくなるなんてちょっと怖いですね」
そうアカネは言う。
まだ文明が未熟な時代ならばふしぎを神様の仕業と考えるだろうが今は違う。この世界でも魔法は論理があったりしてそれなりの文明がある。それなのに新しい宗教が急成長しているというのにアカネは不信感を抱いたのだった。
「まあ。そういった事情だからね。
むしろその考えからその宗教家からは嫌われるかもしれない。
今でも魔物使いとかを悪魔を使うとして忌み嫌っている」
「魔物使い?」
「ああ。魔物を使役することができる冒険者のことだよ。
生まれ持った素質もあるから稀有な仕事だし能力が制御できていない時期はその引き寄せてしまった魔物が騒動を引き起こすことがある。
だから職業としてもまれなほうだね。似たような仕事で精霊使い。召喚術師とかあるね」
精霊使いは精霊を使役する。召喚術師は契約した魔物や精霊、そういった存在を操ることができるという職業である。
どれも素質がものを言う職業である。
それゆえに職業が少ないのだが、
「逆にそれゆえに迫害の対象になりやすくなっているんだよね」
「ああ。少人数の意見は聞き届けられにくいというやつですね」
ヨハンの言葉にアカネは納得する。
そういったことは元居た世界でもあった。
特に日本人は集団行動を美徳としている。逆に言えば集団から外れている存在は良くも悪くも忌避される。
海外では優秀な成績を持った者はスキップして若い年齢で大卒になったりする。けれども日本ではどれだけ優秀な成績でも同い年の人と同じような勉強をするものである。
まあ。スキップできるような優秀な頭脳の持ち主は少ないが……。
「まあ。危険性がある仕事だというのもある。
能力を悪用されたら危険というのもわかるが……。
それは普通の剣士や魔法使いだってそうだろうに」
「確かに」
その言葉にヨハンはうなずきアカネも納得した。
包丁だって美味しい料理を作るのに使えば素晴らしい代物だ。
だが、その包丁を使えば人を一人ぐらい殺すことも可能だ。
「おそらくだけれどそこのお嬢ちゃんは望めばその魔物使いや召喚術師、精霊使いといった職業に適して言うだろう。
あいにくと冒険者じゃないがいろんな人を見てきたオレの判断だとね」
そうエルダが言う。
「あいにくと戦いはちょっと」
できることならのんびりと暮らしたい。だが、
「そういった素質を持っている以上、あの宗教に目を付けられるかもしれない。
まあ。どっちにしてもこの街にはいられないね。まあ。まだあくまで宗教だ。かかわらないようにすれば大丈夫さ」
そうエルダは言ったのだった。
「それにその問題がなくても特殊な目。
おそらく魔眼といわれる類。それを持っているというのは秘密にした方が良い。
魔眼持ちというのは才能の一種だがそれと同時に狙われる危険もある。
君のその魔眼の能力を得て自分の実力を水増ししようとする存在。
他にも……僕の店ではそんな商売をしていないが裏では人身売買がある。
生きた人間の売買だけじゃない。希少な体の一部の取引。その中に稀有な能力を持った体を持った人間の一部を取引する商売もある」
「なるほど」
その言葉にアカネはうなずく。
少なくともアカネの周りではそういうのがなかったが人身売買などがないというわけではない。それに歴史の中にはそういった逸話もある。今では基本的には物語の中の出来事であるが、そういった創作物も読んでいたので理解できる。
そういったものから見たら自分の目はさぞかし希少だろう。
「わかりました。
あの。ならこの目のことは他言無用で」
「もちろんさ。
そんなことをひょいひょいと言わない。それに君の秘密を語って得る利益はあるだろうが不利益がある。信頼は時に何事にも代えられない富を生む種になるからね」
エルダは言う。
「商売人は常に利益を考えろ。
ただし信頼、恩、情。それらはすぐには金にならない。
けれどもそれが金を生み出すための最大の種であり栄養であり水であり土である。
大金を得て富を得るならばそれを忘れるな」
そう言ったのはヨハンだ。
「エルダさんの言葉でしたね」
「そうさ。人間は金のためならばどこまでも非情になれるし薄情にもなれる。
人の道を踏み外していきながらにして畜生にだってなれる。
けれどそんなやつらの元に金はたまらない。
たまったとしてもそれは一時。
やがて金は腐り消えてしまう。
金を生かせ。そうすれば金はもっと増えてくれる。
少なくとも致命的な不利益にならない限り、このことは話さない。
だが、この街で君たちが商売をするのを援助するのは不利益が多すぎる」
「わかっています」
「とはいえ、このまま無視はできない。
そうだね。商売の話をしようじゃないか」
そういってエルダは語り始めた。
「異世界の調理法。
それを教えてくれないかい?」
と……。