閑話1話 そのころ実家 不幸への一歩
お待たせしました。ざまぁ回です。
一度、書きたい。そう思っていたのです。
あんまりざまぁ。じゃなかったらごめんなさい。これは序章なので……。
天童院朱音の失踪。それは当然ながら噂になった。
有名な名門名家の一人娘ということもあり当然ながらニュースになった。けれどもマスコミというのは優秀だ。調べていけば彼女がある男性と婚約の話が出ていたことがわかる。その婚約者が年齢が近ければ騒ぎにならなかっただろう。
けれどもそうではない。
何しろ親子ほど……下手をすれば孫といえるほどの年が離れた男性との結婚。しかも相手はバツ三でありある意味ではマスコミがネタに困らないほど評判が悪い男性。
まともな神経を持つものならば娘を嫁にやりたくないと断言したくなるような相手だ。 マスコミは現代の政略結婚の末の家出。駆け落ちでは? まどと騒ぎ立てる。さらに調べてみればスキャンダルが面白いように出てくる。
本来ならばそのスキャンダルを隠すこともできただろう。
けれども天童院家はそれどころではなかった。
そもそも式前日になって花嫁が失踪。家柄と金だけはある家との結婚式ということから結婚式はとにかく派手にしていたこともありキャンセル費用は天童院家持ち。さらに慰謝料や賠償金などの請求。更に参列する予定だった客たちへの謝罪。
「あのバカ! なんてことをしでかしたんだ! 見つけたらタダでは置かないからな」
ヒステリックに叫ぶ長男。
姉であるというのに完全に朱音を見下しており道具としか思っていない発言だ。
それは一族全員がそうだった。
けれどもただ一人……一族の中で比較的にまともな常識人。……嫁や婿に来ている縁がさほど深くない者などは当然だと思っていた。
朱音への扱いはかなりひどいものであった。
本家であることや嫁や婿という立場から表立ってかばえなかったが何度か旦那や奥さんなどに扱いなどを忠告していた。
いっそのこと、養子として引き取ってもどうだ?
そう話を出したものがいた。
けれどもそれは実行されずにいた。そんな中、
「なんてことをしたんだ!?」
そういったのはすでにほとんど寝たきりに近い老人だった。
本家ではないが本家に近い分家の家であり天童一族の中では最年長の部類に入る。ご意見番とも言うべき人物だ。話を聞いたらしくほとんど動かない体を引きずってやってきていた。使用人が慌てて止めているがそれも気にしていない様子に見えた。
「あの娘がいなくなっただって? それも……嫁にやろうとしていた?
なんてことをしているんだ!
あの娘は契約の娘なんだぞ。本来ならば大切に育て家を守ってもらう立場だというのに! ああ、なんてことをしたんだ」
「何を言っているんだ? 天童院家を継ぐのは俺だ」
朱音の弟があざ笑うように言うが老人は聞いてはいない。
「天童院家は終わりだ。契約は破棄されてしまった。
終わりだ。もう終わりだ! あははははははは」
まるで狂ったように笑いながら終わりだ。終わりだと叫ぶ。その姿に恐怖を覚える嫁や婿。それはさながら怪談に出てくる光景のように見えたのだった。
そしてそのまま老人は気が狂ったかのように笑いだし発狂。年齢もあり痴呆症が疑われ入院の話が出た中で老人は自らの命を絶った。
生き地獄を味わうくらいならば死んだ方がましだ。そう遺言書には書かれており自身の遺産については全く書いていなかった。
それが皮切りといえるだろう。
最年長である老人でご意見番の老人。その資産はけして少なくない。
相続の話が出る。
普通ならばそこに弁護士が雇われているはずであったが管理していた遺産の背徳。それが火災で焼失。それによって遺産争いが起きたのだ。
さすがにすぐさま血で血を洗うような殺戮が起きるわけでではない。けれども脅迫、不審死。そういった出来事も起きるのだ。
だがそれと同時に起きていくことがあった。
誰それの会社の経営がおかしくなる。誰それが融資していたのが危なくなる。誰かがしていた株が大暴落する。そういったことが起きて誰もが金策に頭を悩ませるようになる。
更に愛人の発覚。問題高位の発覚。そういったことが軒並みに騒がれるようになり嫁に来ていた者や婿に来ていたものが子供を連れて離婚を主張し始める。
元々、横暴な人間が多いところがあったのだろう。
長年のDVやモロハラ、セクハラ、経済DVに育児放棄等々……。今更なように離婚するだけの十分な証拠があり慰謝料や養育費を要求するのも簡単だった。
それが一気に爆発したようなものなのだ。
さらにだ。
本来ならば名門名家にやとわれていたはずの有名かつ有能な弁護士。けれども遺言書が火事になっていた時と同じようにその弁護士事務所も火災。その結果、ほとんど有能な者たちは重症などを追っておりとてもじゃないが弁護ができない。
辛うじて残っていた者たちは新米だったりあまり有能じゃないものばかり。
離婚調停、慰謝料、子供の養育費や親権。そういった裁判はことごとく敗北。それでも認めずに何度も上訴をしようとするがその分だけ当然ながらお金がかかる。
確実にお金が減っていた。
それを長いことその屋敷を見ていた『それ』はつぶやいた。
「まあ。当然といえば当然じゃの」
そういって側に止まっていたカラスに話しかける。
「あの家は長い歴史がある。確かにその歴史に反映があったがそれはひとえに契約があったからじゃ。最初のころはよい家じゃったが物欲にまみれそして畏怖の心を忘れた。
その結果、あの家は終わりじゃな。
もうあの家には貧乏神と疫病神が住み着いてしまっている。
まあ。当たり前じゃな」
そう静かに言うと立ち上がる。
「あの屋敷に住んでいた幸福。それを追い出したのじゃ。
まあ。幸福の大切を追い出そうとしていたのじゃ。遅かれ早かれ破滅の道を歩んでいたじゃろうな」
そう静かにそれは言うと同時に空へと飛んで行った。
そのころ、
「さーて。酒でも飲むか。この屋敷にはまだまだ美味い酒がある」
「飯もな」
けたけたと屋敷の中にある人気が無い場所。
そこで笑いあう二つの影。どちらも一言で言うなら貧相な見た目だった。
やせ細った顔立ちに不健康そうな顔色。更に言うならばボロボロの布。浮浪者だってもう少しまともな外見をしているだろう。
そんな印象を与える人物が二人。
普通ならば天童家に入れるような者たちではなかっただろう。
けれども彼らは入り屋敷の者である酒や食事を勝手に食べている。
……彼らの正体は貧乏神と疫病神だ。
八百万いるという神様の中でも来てほしくない神様ツートップであろう。そこに死神がいたら来てほしくない神様勢ぞろいと言っても過言ではない。
とはいえ、疫病神も貧乏神も意味もなく住み着いたりはしない。
疫病神や貧乏神は悪人のもとへと向かう性質がある。
そもそも善人や働き者の元には福の神が来て悪人や怠け者の元に貧乏神や疫病神がくる。それがこの世の摂理なのである。
よく裏金をしていたり脱税をしていた悪徳業者が急に判明して倒産する。そういうのはその理がやってきたからだ。
そして、貧乏神も疫病神もずっとこの屋敷に着たかったのだ。
いや。こなければならなかったのだ。けれども、
「座敷童が住み着いていたからな」
「ああ。まあ。あの子もとっくに出て行きたがっていたんだがな。契約とあの子を守りたかったんだろ」
酒を飲みながら二人は話す。
座敷童がいる家は栄える。
言ってしまえば座敷童は福の神に近い存在なのだ。
それと同時に座敷童が家を出たらその家は衰退する。
その言い伝えがある。
そして今よりも妖怪が親しい時代。天童家の初代当主は座敷童と契約をした。妖怪が見えるものがいてそのものがいる限り、座敷童はこの屋敷を守り続ける。
妖怪に愛されるものが必ず血縁に生まれる。その家系であることから使った契約である。 そして天童家は発展したのだ。
宝くじを買えば大当たり。株をやれば大儲け。商売をしたらあっという間に左うちわ。 それでも最初のころはきちんとしていた。
商売も正しく清く真面目にしていたし妖怪が見える少女は屋敷の守り神。そうしていたが妖怪の存在が忘れられてしまった結果だった。
妖怪が見えるというのが奇人の扱いになってしまう。そうなればだんだんと妖怪が見える者は奇人扱いとなってしまう。そして扱いが悪くなりそして家も栄える理由を忘れて悪事を働くようになってしまっていたのだった。
本来ならば座敷童はその時点で屋敷を去っていただろう。
座敷童を始めとした福の神は人徳を大事にする。
その人間が善幸を積めば積むほど真面目に働けば働くほどその家に富を与えるものだ。けれども幸運にかまけ働くことをやめ悪事を働くようになればやめる。
その場合、しっぺ返しがくるのだ。
一説には座敷童が退けていた不運がやってくる。幸運の揺れ戻しである。
天童家はそういう意味ではすさまじい不運に取りつかれるのは当然だ。
座敷童を長い間、契約で縛り付け続け悪事を働いた。本来ならばとうの昔にさびれていたはずの家。それをとどめていたほどの幸運。
今、いるのはまだ貧乏神と疫病神だが……。
「死神はいつくるんだろうな」
「さあな。とはいえ楽に死ねるとは思わないほうがよいな」
けたけたと笑っている中で確実に縁が切れているのがわかる。
不運も不幸も訪れてきている。
けして幸せは訪れないだろうということは確実なのだ。
そんな話をしながら、
「ま。それよりも愛される子。
あの子が幸せになっていることを願おう」
「そうじゃの。あの子はよい子じゃからな。
それゆえにわしらは近づくことはデキんがな」
疫病神と貧乏神。
彼らは幸せを与えることはできない。不幸を与える存在だ。
むろんそれが悪い存在というわけではないだろう。
栄えることもあれば貧乏になることもある。健康になることもあれば病気になることもある。生まれたからには死ななければならない。
幸運と不運。幸せと不幸。
それはカードの裏と表のような存在なのだ。
なるべく幸せでいたいのならば誠実にそして真面目でいるべきだ。
少なくとも自身に嘘をつくことはよくないだろう。
だというのに彼らはそれを忘れたのだ。
いや。
「時代の流れかね」
「うむ。だが、人間はそれで成長して言っている。
そのことは仕方がないこととわきまえよう。信心はまだ根深く住み着いている。
真に誠実な者の中にはわしらはいる。それでよい」
人は科学という力を手に入れた。未知を知識へと変えていき理論と理屈を手に入れた。謎はまだまだあるがそこに神や妖怪といった存在はいない。けれどもいるのだ。
正体不明の何かまだ見ぬ不安や不幸や幸運。そういったものを神にすがるのだ。
だからこそ人はまだ間違えない。それを忘れた先にあるのは破滅だ。
破滅へといざなう神である彼らだからこそ知っていた。
そして彼らは願う。静かに立ち去ろうとしている自分たち。ならばそれが見えてしまうものはもっと生きやすい場所へ向かうべきだろう。
願わくば自分たちに縁のない人生を送るとよい。彼らは静かにそう願った。
座敷童が立ち去ると不幸が訪れるというのはマジである話です。
貧乏神とか疫病神云々は単なる推測も含んでいます。