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家出するなら異世界へ 妖怪に愛された私の異世界魔王の喫茶店ライフ  作者: 茶山 紅
家出01 家出するなら放浪中
4/20

三話 家庭の事情は複雑です

ずいぶんとお久しぶりの更新です。

気が付いたら四か月近く更新をしていませんでした。

次はもうちょっと早く続きを書くことを目標とします。


「とはいえ、これからどうしたものか……。

 一応、お金はありますが」

「そうですねぇ」

 ヨハンの言葉にアカネもうなずく。

 アカネも無一文。

「迷惑ならお別れしましょうか?」

「いえ。アカネさんは命の恩人。

 ここで見捨てるような不人情をしたら師匠に怒られます」

 そうアカネの言葉にヨハンは慌てたように言った後、

「そうだ! 情けない話だけれど師匠に相談してみます」

 そうヨハンは思いついたかのように口を開く。

「師匠。商人のですか?」

「はい。師匠は話が通じる人です。それに確かに商人として優秀なので利益がないことはしたがらない性格ですが人情がある人です。

 最低限、何かアドバイスでもくれるかもしれません。

 特にそのお米の話は聞きたがると思います」

「なるほど。情報を売るんですね」

 その言葉にアカネも納得する。

 正直な話、お米が手に入る方法が見つかる可能性があるならアカネとしても望ましい。日本人としてお米を食べたいというのはもはや遺伝子に刻まれているからだ。

 お米についてというのも趣味の異世界転移などからそれなりに詳しい。ひょっとしたら簡単に手に入る方法があるかもしれない。

 そのことを思ってアカネは笑みを浮かべる。

「それでは行きましょう。

 まあ。師匠が必ずいるとは限りませんが」

「……意地が悪い兄弟子とか弟弟子がいて追い出される。

 そんな可能性はありませんよね」

 物語などでたまに聞く実力がある親方や師匠のもとにいる馬鹿弟子。そんな言葉を思い出してアカネは心配そうに尋ねる。

 何しろあの家族の後だ。少しばかり不信感を抱いたとしても無理はないはずだ。

 そう思って訪ねれば、

「大丈夫ですよ。

 師匠の元にそんな奴がいたら間違いなくそいつは破滅します」

さわやかかつきっぱりとヨハンは断言した。

 その言葉を信じて二人(四人?)は、ヨハンの師匠のもとへと向かった。

 向かった先は、

「大きなお店ですね」

「まあ。あんな家でも貴族でお金もありますからね。

 貴族が商売をするならば最低でもこのくらいの大きさのある商家が普通なんですよ」

「なるほど」

 一応とはいえ名家と呼ばれる家柄出身であるアカネもその理屈に納得をする。

 有名な家柄とかだとするとどこで買い物をしたのか? それもステータスになるというわけだ。特にこうした世界だとしたら買い物する場所は選ぶというわけだろう。

 だが、

「けれどヨハンさんのご実家はもうここでお買い物はできないのでは?」

「ほお」

 アカネの言葉にヨハンは尋ねる。

「どうしてそう思ったのか?

 それは後で説明してもらいますが……思っていた以上にあなたは頭が良いようだ。

 どうして家を追い出されたのかわからないぐらいです」

「まあ。いろいろとありましてね」

 アカネは苦笑を浮かべる。

 実際のところ、家を追い出されたわけではなく家出したのだ。

 まあ。家出するしかないほどに追い詰められたのも事実。

 追い出されたという表現もあながち間違いではないだろう。

 とにかくアカネはそう思いながら商家を見上げる。

 ひとことで言うなら巨大というべきだろう。

 先ほど見たヨハンの実家とほぼ同程度の規模の屋敷。そこではいろんな人が出入りをしている。まあ。ここは家ではなく職場なのだからこのくらいの規模はあり得ないない。

「何をここでは取り扱っているんですか?」

「いろいろですね。

 食料にお酒、さらに美術品や骨董品。化粧品や装飾品、衣服。武器防具に魔法道具。

 この商会で取り扱っていないものは何一つとしてありませんよ」

 ならなんであの家はこの商会に喧嘩を売るようなことをしたのだろうか?

 そうアカネは疑問を抱いた。

 そう。ヨハンの実家がこの商会とかかわれなくなる。

 そうアカネが思ったのには理由がある。

 そんな中で商会の社員に話しかけたヨハンはしばらく待たされた後にすぐに会長のもとへと案内された。

 案内されて向かった場所は絨毯はないが立派な作りをしたソファーや机。見て一流の品ということはわからないが立派な品だ。そうアカネは判断できる。

 出されたお茶にお菓子も良い品だし香りもよい。アカネはとりあえず歓迎されていると判断した。

 そうして待っていると、

「やあ。ヨハン。

 どうしたんだい?」

 現れたのはアカネが想像していたよりもだいぶ若い青年だった。年のころは多少、上に見たとしても二十を超えた程度としか思えない。

 甘いマスクというべきだろう。

 キラキラとした優し気な中性的な印象の顔立ちは優し気な印象を与える。

 はちみつの様な黄金色の髪の毛はふわふわとした綿菓子のようであり瞳は砂糖を煮詰めたカラメルのような茶色身がかかった黒。

 なんとなくだかお菓子のような印象を与える美形だった。

「お久しぶりです。師匠」

 どうやらこの砂糖菓子のような人がヨハンの師匠。つまりこの商会の会長らしい。そう聞いたアカネはこの砂糖菓子のような青年が見た目通り砂糖菓子のように甘い人ではない。そう判断した。

 一応とはいえアカネも名家の一人娘。たまに来る商人とも言うべき会社の社長や重役などを見てきてそういう人を見る目というのを超えてきていた。

 むしろ小間使いのようにこき使われていたことから客に不快感を与えれば両親などからきついお仕置きがある。そのことから相手に不快感を与えないで置く方法として相手がどういう人間なのかを判断していた。

 そういうのでこうした世界で商家として大成功を収めている男。見た目通り甘いだけの男ならばとっくの昔に自己破産をしていただろう。

「実は……」

 アカネがそう判断している中でヨハンは起きたことを話す。

「そうか……。さて、ヨハン。

 君の最大の失敗はなんだと思うかね?」

「短い旅路ということもあって護衛を雇うことをおろそかにした……。と、いうことでしょうか?」

 師匠の質問にヨハンはそう答える。だが、

「残念ながら百点とは言えないね。

 確かにそれも問題だった。けれど根本的な問題がある。それは」

「家族を信用していた。……家族がどれほど自分を疎んでいて目的のためならどんなことでもする人間か……。それを客観的に判断できなくなっていた。

 と、いうことでしょうか?」

 ぽつりとアカネが口を開いた。

 その言葉に師匠はアカネを見て、

「正解だ。……ところでヨハン。彼女は?」

「あ。すみません」

 その言葉でヨハンは慌ててアカネを師匠に紹介し、

「アカネ。こちらがここの商会の会長で……」

「エルダといいます。お嬢さん」

 ヨハンの言葉に師匠……もといエルダはそう言って笑みを浮かべた。

「どうも初めまして。アカネと申します。

 理由合って故郷を離れて旅をしていたのですが路銀もなくヨハンさんと出会ったんです。働き口を探していて本来ならヨハンさんのご実家を紹介してもらう予定だったのですが……。まあ。あんなことをする家ならば雇われたくなかったのですけれどね」

 そうアカネは嘘ではないがすべてが真実というわけじゃない説明をする。

 理由があって故郷を離れたのも路銀がなかったのも事実だ。

 その故郷が異世界だということを言っていないだけである。

「なるほど訳ありということですね。

 まあ。納得です。それにバカな女性は嫌いですが頭の良い女性は好きですよ」

「いえ。そんなことはありません。

 大した勉強もできておりませんのでそれほど頭は良くないです」

 エルダの言葉にアカネはそういう。

 事実、アカネが通っていた高校はそれほど良い高校というわけじゃない。弟はというとお金を寄付すれば入れるという(家柄が)名門高校に入学したがアカネは違う。

 そんなお金がもったいない。そういわれて近くの田舎にある無名高校に進学した。ただし三流とはいえ一応はお嬢様が入れるような学校。さらに田舎だからという理由なだけであり学校全体が問題があるわけではない。

 アカネと親しくなると名家であり地主でもあり街の顔役ににらまれる。そういうことから誰も親しくなろうとしなかったが苛めもなかった。

 とはいえ田舎ということもあり頭が良い学校というわけではない。

 そう思って謙遜をする。

 ただしそれはアカネが住んでいた世界と国での話だ。

 この世界では五歳(数え年では六歳)から十八歳になるまでしっかりと勉強をする環境にいた。それだけでも十分に恵まれているといえる。

 その知識の豊富さなどからも彼女はこの世界では十二分なほどに才女と呼ばれる。

 そのことをホムラは知っていたが口にはしない。

 いったところで何かが変わるわけではないからだ。

「謙遜はいらないよ。

 ヨハンの問題点を的確に指摘で来た。

 商売のこと。そして人付き合いの事。

 そういったことがきちんと理解できる。それは勉強ができる。知識がある。

 そういった話とは違うちゃんと考える頭があるということだ。

 聞いた話だけを聞いてそこで止まるんじゃない。聞いた話を元にだとしたらどうしたのか? どうしてそうなったのか? それを考えて自分で推測をたてて予測をする。

 それが賢いということだ。

 間違いを恐れずにそれを口にすることもよいところだ。

 間違えてもよいから行動をする。もちろん間違えちゃいけないところもあるが間違えてもやり直せることならばどんどんと挑戦してほしいからね。

 けれど学習をしないバカは存在する価値もないと思うんだよねぇ」

 それだけ言うと笑みを浮かべるエルダ。

 その笑顔にぞくりとした寒気をアカネは覚えた。

 にっこりとした笑みであるはずなのだが見るものに恐怖を与える笑みであったのだ。

「あの家の連中は本当に学習能力がないよね。

 この僕が肝いりで教えているというのに軽んじて商売の邪魔をしている。

 それが僕の面子をつぶしている行動だということに気づかない。

 貴族だし何代も前からの付き合い。

 そのことから多めに見てきたけれどいい加減にもうたくさんだ。

 学習能力のないバカとの付き合いはもうこれっきりだ。

 後悔したところでもう知らないね」

 そう断言するエルダ。

「まあ。あの馬鹿どもの話はこれだけにしておこう。

 バカの話なんてしていたとしても楽しくないからね」

 今までだけでどれだけバカという言葉を聞いたんだろうか? そうアカネはぼんやりと疑問を抱く。バカといった方がバカという言葉があるなぁ。

 そんな全く無関係の言葉すら脳裏に浮かんでしまう。

「それでこれからどうするの?

 商売をしたいなら手助けをしたいけれど君は一応、卒業をした身の上だ。

 うちで働くのは手助けできないんだけれど」

「いえ。実はその……彼女のことなんです。

 私の方はすでに勘当されたとはいえ身内がしたことです。

 これから苦労するとはいえそれは自分の責任。ですが命の恩人である彼女が身を立てるようにするのを手助けする。

 そう約束をしたのです。

 すでに対価ももらっている手前、どうにかその報酬を払わなければならない。

 なので不遇の弟子ですがどうか尽力していただけないでしょうか?」

「なるほどね。君のそういうところを僕は評価しているんだ」

 そうヨハンの言葉にエルダは笑みを浮かべる。

「それで君はなにができるんだい?」

「えっと……遠い異国から来たのでこの辺の風習や文字や文化には無知なのですが……。元の家では掃除洗濯料理などの家事全般を全てやっていました

 簡単な計算もできます」

「計算ね。それじゃ簡単な問題を出すからちょっと解いてみてくれないかな?」

 それだけ言うと指示をして出されたのは羊皮紙とペンにインク。

 なれないペンとインクに四苦八苦しながらも文字を書いていく。

 幸いにも数字は見慣れた文字を使われていたので簡単だった。

 簡単な足し算に引き算などから二桁、三桁の足し算や引き算などが出てきて掛け算や割り算なども出てくる。とはいえそれはせいぜいが小学生レベルだった。

 田舎の小さな高校とはいえ優秀な成績で卒業していたアカネには簡単な問題だった。むしろエンピツやシャーペンではなくペンとインクで用紙ではなく羊皮紙で書く羽目になったことの方が大変だった。

 文字も読めるのが幸いだった。

(やっぱり異世界転移なり転生なりで最大の問題点は言葉と文字だよね)

 そうアカネは内心で思う。

 異世界転生などで赤ん坊からならば言葉などはわりと早くに覚えられ文字も普通に覚えていくのが基本だ。まあ。人間の頭とはわりと優秀らしく幼少のころから聞いていれば言葉は覚えていく。特に赤ん坊の時ほど言葉や文字というのは覚えるのが早い。

 実際に一歳になる前に子供は少なくとも日本語をだいたいは理解する。英語圏の国ならば英語を理解する。たいして中学生となれば一年生で英語を聞いて簡単に理解することはあるが個人差があるし困難の部類だ。

 実際に中学三年間と高校三年間。きちんと英語の授業を受けてきてけして悪い成績ではなかったアカネ。それでもアメリカに言って日常会話と言語を話し合え。そういわれたら無理です。そうアカネは泣きごとを言っていただろう。

 余談だがアカネの弟は日本人だが漢字も読めないものが多かった。

 閑話休題。

 だが異世界転移した場合は文字の読み書きや言語が問題だ。

 幸いにもアカネは言語を理解できるようにしてもらっている。

 そのおかげで問題も解ける。

 大した時間もかけずに書かれた問題を解き終えるとそれを見てエルダとヨハンが驚く。 そして問題を見て、

「驚きました。

 こんな短時間で解くことができるとは」

「いえ。故郷では珍しいことではありません」

「失礼ですが故郷はどんなところなんですか?」

 アカネの言葉にエルダは確かめるように尋ねると、

「そうですね。

 訳があって家を追い出されてしまいまして……。いろいろあってどうやってここに来たのかもわからず故郷がどこかもわからないんです。

 家の跡継ぎになれないならばそんな感じで家にいることすら疎んじられたんです。

 もう二度と帰ることはいろいろと無理なんです。

 なのでどこにあるかとか交易は無理だと思ってください」

 そうアカネは前置きをする。

 嘘ではない。

 女だから跡継ぎにはなれない。そういわれたから邪魔者扱いされている。それは事実だし家を追い出されたようなものだ。

 故郷に帰ることもできないし、交易を頼まれても無理だ。

「ただ数え年で六歳になる時に学校に通います。そこで文字の読み書き、計算などの様々な知識を九年間、学びます。その後に三年間ほど知能などで学びどころを決めてまた勉学に学びます。中には技術を学び仕事に役立てようとする者もいます。

 その後に更に専門分野を学ぶ者もいますし就職するものもいます。その結果、だいたいは二十二歳ぐらいで仕事を始めますね」

 その言葉に二人は驚いていた様子だった。

「君の世界ではずいぶんと勉学に力を入れているんだね。

 こちらだと勉強をするなんて平民では不可能だ。親がやっている仕事。あるいは手伝っている仕事。それらを学びあるいは修行していく。

 そうして学んでいく。なので文字なんて自分の名前を書けるといった程度のものもいる。いや。下手をすれば名前すら読み書きできない者もいる。

 下級貴族なら上流貴族に出棺という形だ。

 それほどまでに勉学に力を入れることができるなんて……。君の故郷は豊かなんだね」

「まあ。そうですね」

 エルダの言葉にはアカネも否定しない。

 日本は豊かな国だろう。

 地球では有名な国では大半では勉学は簡単にできる。修学金などがあり優秀な生徒は学費を前借して大学などに進学ができるというわけだ。

 だが国によってはそれこそ、勉強どころか明日の命も知らない。生きるために働き学校にいけない子供というのも大勢いる。けれどアカネがいた国は豊かだ。

「ありがとうございます。

 私は十二年間ほど勉学をしていました。本来ならばその後は二年ほどの間、料理人になるための学校で知識や技術を学び自分のお店を持つことが夢でした。

 けれども両親が無理やりに結婚させようとしてきたんです。

 相手は詳しくは言えませんが二回りも年上で同い年どころか年上の子供がいるような人でした。そこには愛はなくただの性欲処理と召使としてが目的だとわかり切っていました。両親も私を面倒に思っていましたのでお金目的で嫁に出すという名の人身売買のようなものでした」

「なるほどね。ヨハンが面倒を見ようとしたのもわかる。

 ヨハンとよく似ているよ。君は」 

 エルダはそうため息交じりに言う。

「ヨハンの家は武勲で有名になった家柄でね。

 それゆえに軍人になれない人間は人間扱いされない。

 けれどもヨハンはあまり体が丈夫じゃなくてね。とてもじゃないが軍人になれない」

「ですね」

「……君はけっこうきっぱりというよね。……事実だけれど」

 思わずアカネがうなずけばヨハンが頬を引きつらせる。

 とはいえアカネがうなずくぐらいに貧弱だ。

 短い付き合いだがそれは理解していた。

「かといって文官になることもなかった。軍人気質の家柄故に文官では出世が難しいと判断したんだろうね。だからお金を手に入れるためにうちに入れたんだ。

 商人の弟子入りをさせるからといってうちにお金を要求したんだ。元は別の会社だったんだけれど弟子入りという名の人身売買だったよ」

 そうエルダはため息交じりに言った。

 ヨハンが当初、売られたのは金はあるが人使いの荒い悪徳商法のような場所だった。多額の資金援助などをしてもらう代わりにヨハンをさしだした。

 ほとんど賃金なしでわずかな食料と水。隙間風が吹き荒れるような劣悪な環境で不眠不休に近い状態で働かされる。まだ子供で今よりもさらに体力がなく体が弱かったヨハンはそこで死にかけた。けれども幸運にもそこでエルダに出会った。

 けしてバカではなくそして努力をするヨハン。彼を気に入ったエルダはその商家を丸ごと手に入れてヨハンも救出した。そして自らの弟子にしたのだ。

 だが、

「ヨハンの親だ。そのことから金銭の要求があった。

 仕方なくわたしていたよ。ただし大半をヨハンにしていたしいずれはヨハンは独立する。独立した以上、資金援助はしないといっていたんだけれどね。

 どうやらその結果がこれだったというわけか。

 ヨハンが立派な商人になられるのが嫌なんだろうね」

「? どう言うことですか?」

 エルダの言葉にアカネは怪訝な顔をする。

「ヨハンが商売人として成功する。

 そうすれば地位や権力をヨハンは手に入れる。

 あいつらはわかっていたんだよ。ヨハンが曲がりなりにも実力を手に入れている。

 ヨハンにしたこと。それを公言されればあの家は失脚する。

 それじゃなくても商人として成功していけば無用な敵をつくりかねない。あるいは商売人と成功して自分たちの家を乗っ取るかもしれない。

 そう警戒したんでしょうね」

 何にも見ていなかったんだな。

 エルダの言葉にアカネはヨハンの横顔を見ながら思う。

 ヨハンは少なくともそんな人間ではない。

 自分が親に捨てられたようなものだなんてことよほどのことがない限り公言しない。証人として敵を作ったとしても身内にまで被害が及ばないようにする。そして商売人として成功したからといってあの家を乗っ取ろうとしないだろう。

 そんな限りなくお人よしといえる部類だ。

 だからこそブラウニーはヨハンを気に入っていたのだろう。

 ひょっとしたらヨハンが救われたのはブラウニーが何かをしていたのかもしれない。

「それでヨハン。君はこれからどうするつもりだい?」

「この街を出ようと思います」

 エルダが思っている中でヨハンは静かにそう口を開いた。

「ここで何かしらの商売を始めたとしてもこの街にいる限り、あの家は僕を嫌うでしょう。その結果、何かをするかもしれませんがその結果としてほかの人たちに迷惑をかけてしまうかもしれない。

 僕はそんなのは嫌です」

 泣きそうな……けれどきっぱりと決意を込めた顔でそう言ったのだった。

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