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家出するなら異世界へ 妖怪に愛された私の異世界魔王の喫茶店ライフ  作者: 茶山 紅
家出01 家出するなら放浪中
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一話 家出は旅から始まります


 三面鏡をくぐった朱音は異世界にいた。

 異世界の何もない草原である。

「必要なものはすでに運んでおいたぞ」

「……行かないといっていたらどうしていたのよ」

 ついてきた焔の言葉に朱音は思わずあきれる。見てみると弟が行ってみたいといって購入したけれど、一度で飽きてしまったキャンプ用品。お歳暮で山のようにもらうが管理が行き届いてなく毎年、腐ってしまうほど余らせてしまい食料やお酒。ペットボトルの水もある。

「あの、焔。あたし未成年」

「知っている。俺が飲むんだ」

 安い奴でも一品、数十万もするようなお酒の瓶を見つけて朱音が言えばしゃあしゃあという焔。その言葉に朱音は飲酒もしていたことに気づいた。

 妖怪なので人間の法律なんて知らない。そういいたいのだろうが、

「ついでにいうとこの世界なら十五歳を超えれば飲酒もできる。

 それに酒は換金、金に換えやすいだろうが。保存もらくだしな」

「ああ」

 後半の言葉に納得する。

 種類によったら管理が必要なお酒もあるがたいていは温度に気を付ければ大丈夫だ。

「ちなみにこの世界だとゲームみたいにステータスがあるぞ。

 ステータスオープンといえば自分のステータスは見えることができるぞ」

 その言葉に朱音は興味を抱いてステータスを見る。

 すると空間に半透明のカードみたいなものが現れた。

『アカネ=テンドウイン 職業・なし 種族 人間

 魔力S++ 精神力S++ 知力A+ 生命力C 体力C- 筋力D- 器用度A++ 俊敏性D 成長力C-

 犯罪歴無し 称号無し スキルなし』

「ゲームみたいに数値じゃないけれどな。へえ。わりと良いステータスだな」

「そうなの。まあ。魔力は高いんだろうな。そう思うんだけれど……。

 一つ聞くけれど一番良いのがSよね」

「正確に言えばS++が高いな」

 だとすると朱音は魔力と精神力が高いのだろう。

「魔力は生まれつきだろうが精神力はお前があの酷い環境で耐えてきたんだ。精神力が鍛えられるんだろうな。器用度は家事が得意なところじゃないか?」

「勝手に見ないでよ」

「ああ。そうだな。悪い。人のステータスを見るのが犯罪だからな。大きな町に入るときに身分を証明できるものがなければ見せるが数値の方は見せないようにしておけ。たいていは犯罪歴がないと判断されれば大丈夫だしね。

 とはいえ、勝手に見たから僕のも見せるよ」

 そういって焔はステータスを見せた。

『ホムラ 職業・なし 種族 妖魔・座敷童

 魔力S++ 精神力S++ 知力B- 生命力E 体力E 筋力E 器用度C++ 俊敏性B+ 成長力E--

 犯罪歴なし 称号 幸運の家神 スキル 幸運将来(S++) 範囲結界(S++) 個人認識阻害(S++)』

「えっと、妖魔?」

「この世界だと俺は妖怪じゃなくて妖魔らしいんだよ。

 まったく。座敷童というのは家神の一種でもあるというのに」

「家神」

 なんでも家の守り神のところがあるらしい。

 なので限りなく神様に近い妖怪だそうである。

 ただこの世界だと妖魔というのは妖精よりも魔物よりの存在であり場合によっては討伐対象になりかねない。そう朱音は焔から説明を受けて心配になった。

「大丈夫なの?」

「大丈夫だ。俺には認識阻害のスキルがあるからな」

「スキルってようするに特殊な魔法というか異能みたいなものよね」

「ああ。修練や鍛錬で覚えることができるしこの世界だと魔法も使えるぞ」

 スキルに関しては朱音も読んでいた本から理解できた。

 だてにこういうので見たことがない。

 けれど異世界から来たのにチートスキルとかは手に入らなかったらしい。

 まあ。朱音は強力無敵なスキルを手に入れて最強伝説をしたいわけじゃないのだから特に残根ではなかった。

 それよりも朱音は焔のスキルの方が気になった。

「ホムラ。個人認識阻害とかは大体わかるけれど要するに他人に自分を気づかせない感じ?」

「ああ。そんな感じだ。

 スキルの方はすぐには会得できないがお前ならそのうちにはスキルも手にするさ。

 ちなみに俺のスキルの簡単な説明だけれどな」

 そういって焔はスキルの説明をする。

 個人認識阻害。焔を認識させなくなる。ただし他者まで認識ができなくするわけではない。かなりスキルランクが高くなっておりたとえ目の前で声を上げたりしても認識されず特定の人物にのみ存在を認識させることができるそうだ。

 ……今までと大した違いがないわね。思わず朱音がそういったら、元からあった能力がこの世界で順応してスキルとなったんだ。そう反論された。

 幸運将来は特定の条件を満たすと幸運がやってくるそうだ。ただし、このスキルはあくまで運が多少よくなるらしく何もしないで裕福なるわけじゃないそうだ。

「どこが元からあった能力よ。あたしの人生って不幸だったと思うけれど」

「うるせえな。この能力は条件が色々とあるんだよ」

 朱音の言葉に焔はそう反論したがあたしの人生が不幸じゃなかった。と、言うことはなかった。……まあ。幸運な人生ならば離れで隔離されて二回り以上も年の離れたオッサン(良いとこほぼなし)と結婚させられそうにならないからだ。

 朱音は知らないがこの幸運はいろいろと条件のようなものがあったのだ。

 それに揺れ動きなどもある。そのことを朱音に焔はあえて説明をせずに話を逸らす。

「とにかく幸運にあぐらをかいていると幸運は逃げるからな。あまり期待するなよ」

 そう焔は反論する。

 範囲結界とは最も分かりやすく一定の場所に結界をはれる。外敵から身を守るうえに味方は出入りが自由である。問題は位置が固定されており結界を張ったら焔はそこから動けなくなってしまうそうである。

「攻撃系のスキルってないのねー」

「子供になにを求めているんだよ」

 朱音の言葉に焔は肩をすくめて言うが、実年齢は朱音よりはるかに年上だったりする。

 しかし、

「念のために言うけれど魔獣とかモンスターとかいないわよね」

「いるぞ」

 朱音はあっさりといわれて立ちすくみたくなった。

 それならなぜ安全な町に転移させてくれなかったんだ。そう朱音は叫びたくなった。

「とにかく前へと進むしかないか」

 朱音が望んだのは異世界でのほのぼのスノーライフだ。

 異世界で冒険をしたいわけじゃないんだよな。

 そう思いながら朱音が歩き始めると、焔もついてきた。

「まあ。大丈夫だ。

 俺の幸運将来があればよほどのことがない限りは魔物に会わないさ」

「よほどのことって?」

「自分から会いに行く」

 なんでわざわざ危険に首を突っ込む。そう朱音は内心で思った。

「まあ。その前に良い出会いがあると思うぞ」

「どんな出会いよ」

 気楽な焔に朱音はため息をつきながら適当に進む。

「と、いうか人里はどっち?」

「わからん」

 朱音が質問すれば無責任な焔にあっさりといわれて泣きたくなる。

「まあ。川か道でも見つければどうにかなるかな?」

 道があるなら人が通る証拠。川は川の近くには必ず人が住んでいるという証拠だ。

 そう思っていると本当に幸運将来のおかげなのかすぐに道に出た。道と行っても塗装されていない道だがそれでも幸いだ。

「野宿はしたくないなぁ。

 せめて野宿に慣れている人がいるといいんだけれど」

 朱音は育った家の環境は悪かったが屋根がないところで寝るほど困ることはなかった。

 だからテントも何もない状況で野宿なんてできそうにない。

 そう思いながら歩いていると、

「……これは幸運?」

「どうだろうな。こいつにとっては幸運かもしれないぞ」

 あたしの質問に焔はそう答えた。

 なぜなら朱音たちの視線の先には行き倒れがいたからだ。

 絵にかいたような行き倒れ。今日日、地球の日本ではめったにみない珍しい人である。 初めて出会う異世界人は行き倒れ。いろいろと幸先不安であるが朱音はあきらめることにした。そもそも自分の不幸な境遇というのは今に始まったわけではない。

 そして朱音はなんだかんだとお人よしであった。

「あ、あの……大丈夫ですか?」

 そう朱音は倒れている人に声をかける。

 ふと、ここまで来てから朱音は言葉が通じるのか? そんな疑問があった。

 だが、問題はなかったらしい。

「は、腹が……減った……」

 聞こえた言葉は理解できた。ついでに倒れている理由まで理解できた。

「空腹ね。

 焔。食料は」

「少しはな。俺は食事はすべて嗜好品だからわけても良いぞ」

「目の前で子供に食べさせずに自分だけ食べるのはね。

 まあ。今回はこの人だけにしておくか」

 焔の言葉にうなずくとリオはすぐに食事の準備を始めた。

 一応、道から少し離れた場所で持ってきておいた携帯用のコンロを取り出すと火をつける。そして鍋に持ってきておいたお米と水を入れる。

「すぐに食べさせないのか?」

「見たところかなり衰弱しているもの。消化の良い品がいいわ」

 焔の質問に答えながらお米を研いでいく。

 研いだお米を炊くときよりもはるかに多めに水を入れると中火にかける。

 さすがに炊飯器を持ってくることは不可能だった。

 それと食材もないし何より相手の体調もわからない。

 なので塩で味付けをしたシンプルなおかゆを作ろう。

「出来ることなら普通の鍋じゃなくて土鍋が理想なんだけれどね。

 それにもうちょっと具材が欲しかった」

 そうつぶやく。材料さえあればひき肉を入れたり野菜を入れたりしておきたかった。今の状況では明太子も梅干しもシラスも添えることはできない。

 いくら胃の調子がわからないとはいえできればシラスか明太子といったのを加えたかった。けれどこの世界に梅干しとか明太子ってあるのかな?

 いや、そもそも……。

「この世界。お米ってあるのかな?」

 持ってきておいた非常食。保存がきくので持ってきたお米。

 異世界でお米がないとかはよく聞くので朱音は今更ながらに不安になる。

 お米は常食している日本人にはわからないが独特のにおいがありそれを異臭。そう感じる外国人がいるのだ。

 とはいえ気にしてもしょうがない。

 朱音はお米が煮立ったところで蓋を少しだけずらして弱火で煮る。水があまりにも少なくなり始めたら水を足していく。生米からおかゆを作るというのは手間はかかるが普通のお米を煮立てるよりもおいしいのだ。

 まあ。普通に炊けたお米をお鍋などのだし汁で煮込むおじや。あれはあれで美味しいと朱音は思っている。

 実際に朱音が家で鍋を作るとき、たいていは残り物を食べることになっていた朱音。具材もほとんどなく野菜くずに肉や魚の欠片しかない品。

 朱音はそこに鍋を入れて煮込んでおじやにして食べていた。

 そんなことを朱音が思い返していると三十分立った。

 それを確認してまた蓋をし直して好みの硬さになるまで煮込む。

 今回は相手の体調もわからないので朱音は自分の好みにした。

 その後、塩を加えて味を調える。

 うん。朱音としては味が味が薄いかもしれないが相手が今まで何も食べていない。

 そのことを考えるとこの程度だろう。そう朱音は考える。

 本来ならばこの後に器に盛って梅干しや明太子と一品を添えるのが普通だ。

 けれども梅干しも明太子もシラスも持ってきてなかった。

「あの……食べなれないかもしれませんが、食べてください」

 そういって行き倒れに朱音はおかゆを差し出した。

 その言葉に青年は顔を上げた。

 その人物を見て朱音は今更ながらここが本当に日本じゃないと実感した。

 髪の色は雲一つない澄んだ青空を思わせるスカイブルー。端正な顔立ちは何というか知的な印象を感じさせる。朱音の言葉にようやっと青年は目を開けた。

 瞳の色は髪の色と違い五月の新緑を思わせる済んだ緑色だ。

 彼は何かをあきらめたような顔をして目をつぶる。

「……食べてくださいよ」

「無理矢理、口に入れるぞ」

 困った朱音の様子をみて呆れたように焔が言うと無理やり口をこじ開けておかゆを注ぐ。出来立て熱々のおかゆがいきなり口に冷ますことなく注がれて男はむせこんだ。

「ぐっは、ごっは! あっつ!」

「焔!」

「やかましい。いきなり眠り出したこいつにも問題がある」

 朱音がいさめる中で焔はそっぽを向く。

「大丈夫ですか?」

「あ。はい。あ、現実だった」

 どうやら空腹のあまり幻覚を見ていると思っていたらしい。

 男は熱さの痛みから現実だと認識ができたようだった。

 その後、冷ましながらも慌てたようにおかゆを食べる。

「すみません。とっさに作った代物で。

 あまりおいしくないかもしれませんが」

 そういって朱音は頭を下げるが、

「とんでもない!」

 青年は叫ぶように言う。

「こんなおいしいものを食べたのは初めてです。

 こんな何もないところでよく用意できましたね」

「まあ。簡単な料理なので」

 そういって朱音は肩をすくめる。

 もっと時間と余裕に材料があるならば出汁から用意をして作りたかった。

 そう朱音が思っている中、

「そういえば、名前を名乗っていませんでしたね。

 私の名前はヨハン=ローゼンバルクと申します」

「あ、ご丁寧にありがとうございます。

 私は」

 そこまで考えて朱音は名前の後に苗字をつけるべきかを考えた。

 世界によっては苗字があるということは貴族である。そう表現したようなことになりかねないからだ。それだと余計な騒動になりかねない。

 そう思って、

「アカネと申します」

 それだけ名乗る。

 ちなみにヨハンはどうやらホムラが見えていないようだ。

 ホムラの認識阻害で存在に気づいていないのだろう。

 なるほどな。

 改めて朱音はホムラの力を理解する。

今までは一人かホムラが見えていた大叔母がそばにいた時しか姿を見せなかった。そのために実感がわかなかったがこれが認識阻害というやつなのだろう。

 そう思う中で朱音は、

「それよりもヨハンさん。

 どうしてこんなところで倒れていたんですか?」

 そう静かに尋ねる。

「いや、実はお恥ずかしい話……もともと、私は体力がなくて」

 そういってヨハンは身の上を話してくれた。

 なんでもヨハンは騎士の家の三男坊。ところだヨハンは生まれつき体力が思いっきりなかった。かといって魔力もこれといって高いわけではない。

 そのことから家出はあまり役立たず。かといって追い出すのも哀れということから商人の修行を始めていたそうだ。そして商人の修行を終えて家へと帰ろうとした最中、乗っていた馬車を積み荷と一緒に盗まれてしまった。そして近くの町まで行こうとしたのだが生まれつきの体力のなさが災いして行き倒れてしまったのだ。

「はあ。大丈夫ですか? それならおかゆよりももっと良い品にすればよかったですね」

 そうアカネは謝罪する。

 体力がないならば白がゆよりも肉や野菜を使った栄養バランスのよい料理が良かっただろう。なんならニンニクなど使えばよかっただろう。

「いや。貴重な食料をそんなに使ってもらうわけにもいかない。

 見たことがない食べ物だった。おそらく王都で売りに行くつもりだったんだろ」

「あー。実はですね」

 ヨハンの言葉にアカネは何と言おうか考える。

「実は私、もろ事情で家を逃げ出してきたんです」

 とりあえず都合が悪いというか信じられにくいところを省いた真実を話すことにした。

 そもそもヨハンの方もあまり自慢にならない過去をわざわざ話してくれたのだ。アカネも正直に話すべきだろう。そう思ったのだ。

 異世界出身です。と、言うのを話さないのは単に信じてくれないと思った。それだけだ。

 アカネは、親の都合で二回りも年上で今まで問題を起こして奥さんに逃げられたおっさんと無理やり、結婚させられそうになった。それが嫌でもっていた代物や数少ない私物をもって逃げ出してきた。その時に、知り合いの転移魔法を使える存在にけして親から捕まらない場所を支持してもらった。

 そのためにここがどういう国か、なんと言う文化なのかも知らずお金ももっていない。そのことを話した。

「それは……だとしたら貴重な食料を僕はもらったことになる。

 本当にすまない」

「あ、いえ。わたしが勝手にしたことなんです。

 まあ。王都で何とか働ける場所を探そうと思っていたんですが……。

 と、言うかこの先に王都があったんですね」

 ヨハンにとっては今更な発言である。

「ああ。まあ。良かったら僕が身元を保証しよう。

 なんならうちの実家で働けるように頼んでみるよ。

 いくら役立たずの三男とはいえ血縁はあるんだ。

 さすがに働き口を紹介してくれるぐらいはしてもらえるはずだ。

 君の料理はおいしかったしね」

「ありがとうございます」

 料理がおいしかった。その言葉を聞いてアカネは顔をほころばせる。

 今まで料理をどれだけ作ったとしても美味しい。そういってくれる家族は一人としていなかった。学校でも料理を作ったとしても誰も何も言わなかった。

 下手に褒めたりしたらアカネの実家ににらまれるからだ。

 だから料理が美味しいといわれたのは、大叔母とホムラぐらいだ。そのために料理が本当に美味しいのか? そんな不安もあったがとりあえず自分で食べていてまずいと思えないから大丈夫だ。そう思っていたのだが、初めての他人からの美味しい。

 その言葉はとてつもなくうれしく安心するものだったのだ。

 その笑みを見てヨハンは慌てたように立ち上がる。

「さあ。行こうか!」

「ええ」

 そういってアカネは荷物を背負う。

「あ、僕が」

 そういってアカネが背負う荷物を持とうとして、

「うごっ!」

 どうやら体力が持たなかったらしい。荷物に潰れそうになるヨハン。

「本当に体力がないんですね」

「す、すまない」

 恥ずかしそうに顔を赤く染め上げるヨハンにアカネは笑みを浮かべて荷物を持つ。

「気にしないでください。いろいろと沢山、持っていますから」

「ああ。馬車があればもうちょっとカッコ良いところを見せれたんだけれどね。

 情けない」

 そういってヨハンは歩き出す。

「アカネは身分証明書を持っているかね?」

「いや。実は持っていないんです」

「なるほど……。まあ。大丈夫だよ。

 僕は身分を保っているからね。僕の紹介ならだいぶ早く王都に入れるはずだよ」

「良かったです」

 おそらく入国審査みたいなものだろう。

 そうアカネは考えながら言う。

 アカネは海外旅行をしたことはない。いや、海外旅行どころか国内旅行すらろくにしたことがないのだ。小学校で修学旅行ですら旅行費が無駄だ。そういわれていくことすら禁止されてしまったのだ。

 その結果、現代日本人ならば修学旅行で行く奈良、京都といった修学旅行の基本ですら言ったことがない始末である。

 弟の方は、小学生のころから海外旅行を経験するほどだった。けれども入国審査という言葉ぐらいはわかるし時間がかかるという話も聞いたことがある。

 荷物検査や経歴の検査など必要なのだろう。

 犯罪者などを入れるわけにはいかないというわけだ。

 ちなみに先ほどからヨハンはまったくもってホムラの存在を認識していない。ホムラが認識できないのだろう。

 そう思いながら黙って進むことしばらくしてやがて大きな城壁が見えてきた。

「あれが王都ですか?」

「ああ。そうだ」

「城壁があるのは?」

「? 魔物対策だよ」

「…………魔物」

 その言葉にアカネは魔物に出会わなかった幸運に感謝した。隣でホムラがえっへんと偉そうに胸を張っているのを感じたのだった。

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