閑話2話 輝く未来を疑わなかった男
明けましておめでとうございます。
コロナの影響や子育てなどで遅くなりました。
天童院蒼哉。
天童院家の長男にして跡継ぎ候補。
彼の人生は順風満帆という言葉がふさわしいと言えていた。
名門名家で財産も豊か。
料理も上等であり身につける服も高級品。
パーティーなどにも参加して成功者だった。
事実、それ以外にも幸運というのが彼にはついて回っていた。
勉強というのもさほど苦労はしなかった。
むしろ幼い頃からなぜ、みんなあんなに苦労をしているのかが理解できなかった。
「テストなんてちゃんと読み返してある程度、勉強をすれば良いだろ」
そう行った。
大抵、前日にノートを見直して教科書をめくる。
そして覚えていたところが『必ず』テストに出るのだ。
進学校である中学も高校もこうしておけば受験も定期試験も資格修得も可能だった。
むしろ自分よりも頭が良いとされているのにそうならない。
そういう人間の方が理解できなかった。
一人の男が、
「君は幸運なだけじゃないか。
その幸運にあぐらをかいているといつかしっぺ返しを喰らうからな」
そう吐き捨てたことがあった。
蒼哉はそれが理解できなかった。
幸運?
何を知っているのだろうか?
蒼哉は自分が幸運だと思っていなかった。
むしろ不幸だとすら思っていた。
キチガイな姉を持っていたからだ。
両親もそろって黒髪だというのに禍々しいまでに深紅の髪。
そして何も無いところで時折、話をしている不気味な女だ。
あんな女と姉というのがとてもうっとうしく同じ家に居ると言うだけでも忌ま忌ましかった。あの姉がいなければ自分は完璧だと思っていた。
欲しいもの。稀少なものも簡単に手に入った。
誰かがわざわざ勉強して株やらFXやら投資やらをしているのも理解できなかった。
自分は父などの親戚にしてみろと言われて始めたのだ。
買えば高額になり売れば暴落する。
その程度のものであり簡単に金を稼ぐ手段だった。
少し小銭があれば金を何倍にも出来る手段だった。
だからそれで失敗して借金まみれになるなんてどういう理屈か理解できていなかった。
そう。彼は知らなかった。
気づかなかった。
自分がどれだけ規格外の幸運に恵まれていたのか……。
彼の幸運がなくなったそのとき……。
彼の身の丈に合わないものが一気に失われようとしていた。
次回から新章突入です。