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天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 東方への誘い 第一部 東方視察団
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第十六話 部屋割りは男女別で

 第四王区の端に小さな宿がある。

 ここが初日の宿になる場所だ。


 この先の門を抜けると、広大な精霊の森の横に沿って造られた街道があり、その東の先端が目的のエテだ。


 夕暮れ頃、カシミルド達は宿屋に着いた。

 ビスキュイよりも小さく古い宿屋だ。


 宿の外には野営した跡もある。

 恐らく先発隊の残したものだろう。馬を繋いでいる間に、テツが宿の者と話をして出てきた。


「今使える部屋は三部屋しかないようだ。雨漏りの修理中らしくてな。ベッドは一部屋に三台ずつ。さあ、どう分けるかな」


 部屋割りと聞きルミエルが身を乗り出す。


「はい! 私はレーゼお兄様と、カシミルドと泊まりますの」


 カシミルドがその提案を聞き、カンナの後ろに隠れる。


「僕はカンナとスピラルと一緒の部屋で大丈夫だから!」


 カンナとスピラルもそれに異論はない。

 ラルムは残りのメンバーを見る。シエルとテツだ。

 自分がこの二人と同室? それは無い。


「あの……。男女で分けましょうよ」


 ラルムの真面目な発言にルミエルが舌打ちをした。


「でしたら、ラルムが私とレーゼの部屋にどうぞ?」


「レッレーゼさんとは無理ですって!」


 カシミルドとルミエルはレーゼを見る。

 レーゼが女性である事は、この二人しか知らない。

 そしてレーゼは、ラルムの意見がごもっともと言わんばかりに頷いて見せた。


「じゃあ。私とスピラルとラルムさんでどうですか?」


 カンナの提案にスピラルは不満げにカンナを見つめるが、端から見たら、それはただの無表情にしか見えず、誰も気には止めなかった。テツも納得した様子で頷く。


「よし。ではシエルとカシミルド君が私と同室だな。ルミエルとレーゼ殿もそれで良いな?」


「モチロンよ」


 ルミエルの返事と共に、レーゼも首を縦に振る。

 テツは漸く皆の同意を得た。


「ここは王区の端に当たる。周りは農家の私有地だ。各自、外出は控えるように」


「はい!」


 部屋割りで揉めつつも何とか決まり、各々の部屋へ分かれていった。一階には食堂、二階に客室があり造りはビスキュイに似ているが、かなり老朽化が進んでいる。


 階段を上がり左側の三部屋は修理中らしい。部屋にはベッドが二つとその真ん中に簡易ベッドが窮屈そうに置かれていた。


「初めての馬で疲れただろう?」


 テツが剣を置き、上着を脱ぎながらカシミルドに優しく話しかけた。


「はい。まだ揺られている感じがします……」


「そうか。今日は早く休もう。シエル? 大丈夫か?」


 シエルはいつの間にか宿の服に着替えベッドに突っ伏していた。ルミエルとの二人乗りは精神的に疲れたのだ。


 背後からくる威圧感。二度と一緒には乗りたくない。


「大丈夫です。テツ様。俺、明日はそいつと乗ります」


「そうか。カシミルド君と話して決めたまえ。下に食事が用意されるから、しっかり食べてから寝るんだぞ」


「はい……ちょっと休んでから降ります」


 シエルは力なく答えた。


「僕、下に降りてますね」


 カシミルドは先に降りていることにした。

 その方がシエルもゆっくり休めるだろう。





 下へ降りると、夕食の準備を宿のおじさんがしてくれている。そして、その料理を配膳しているのは、何故かカンナだった。ラルムとスピラルはもう席に着いている。


「あっカシィ君。もうすぐ料理ができるから、座ってて」


「何でカンナが?」


「あ……忙しそうだったから……つい」


 カンナは最後の料理をテーブルに並べ、カシミルドの隣の席に座ろうとしたのだが、階段を物凄い勢いで駆け降りてきたルミエルに突き飛ばされた。


 ルミエルはその隙にカシミルドの隣の席に座る。


「失礼しますの。カシミルド、ご一緒しましょう」


「カンナ……大丈夫?」


 ルミエルを無視してカシミルドはカンナの心配をした。

 カンナは苦笑いしながら、渋々カシミルドの向かいの席に座る。その隣には後から降りてきたレーゼが腰かけた。


 カンナはカシミルドの隣のルミエルと自分の隣に座るレーゼをチラチラと見る。自分と同じ四角い四人掛けのテーブルに銀髪の美少女と美男子が座っている。


 今日出会ったばかりの二人。謎ばかりだ。

 カンナは二人をこっそり観察することにした。


「カシミルド。あ~ん……」


「ちょっ……自分で食べられるからっ!」


 ルミエルがカシミルドにベッタリな事は気に掛かるが、近くで見るととても可愛い。というか美しい。


 リュミエを初めて見た時も思ったが、髪の毛一本一本が透き通って見えて凄く綺麗なのだ。


 二人ともリュミエの子供らしいが、よく似ている。

 隣に座るレーゼも同様。チラチラと横目で見ていただけなのに、目が合ってしまった。


 微笑みかけられるでもなく、素っ気なく目を反らされる。よく見ると、右目だけ黄色がかった瞳をしている。


「オッドアイ……何ですね。レーゼさんって」


 カンナはつい口に出して聞いてしまった。


「それが何か?」


 レーゼに冷たく言い放され、カンナは返す言葉を失った。カシミルドは、気まずそうな顔をしたカンナに助け船を出す。


「瞳の色が違うって不思議ですね。凄く綺麗だよね?」


「うん。私もそう思ったの……」


 カシミルドの言葉にレーゼは動揺した。リュミエ以外の人に褒められたことなど無かったからだ。


「……うっ生まれつきだからどうしようもない。ジロジロ見ないで欲しい」


 レーゼは恥ずかしさを隠すようにムスッとした顔をした。ルミエルがカシミルドの顔を両手で自分に向け瞳をパチパチ瞬きさせながら尋ねる。


「私もオッドアイにしようかしら。カシミルド、何色が好き?」


 カシミルドはルミエルの手を振りほどくと、カンナを見た。カンナの本来の瞳の色、桃色を思い浮かべる。


「カンナと同じ色……」


「へ? 焦げ茶色? 可愛くないですの!?」


 むくれるルミエルを見て、レーゼは口元を押さえて静かに微笑んだ。ラルムがその表情に驚きスープをむせ返す。


「ゲホッ……コホン!……レーゼさんが笑った!」


 ラルムに指を差され、レーゼはハッとして顔を背けた。

 ラルムの知るレーゼは兄のレーゼルだ。


 レーゼルは殆ど笑わない。気を付けなくては。

 ルミエルの視線が痛い。バレないようにしろと釘を刺されるのではないかと肝を冷やす。


 しかしルミエルは違うことに怒っていた。


「レーゼ。今、私を見て笑いましたの?」


「えっ? いえ。そのようなことは……」


 ラルムは二人の会話を聞き酷く驚いた表情をした。


「ルミエル! いくらお兄様とはいえ、レーゼさんは教官ですよ? 失礼です」


「……レーゼお兄様。これでよろしいかしら? ラルムさん?」


 ルミエルの目が笑っていない。

 その時二階からテツとシエルも降りてきた。


「賑やかだな……。お。スピラル君はもう食べ終わったのか?」


 スピラルは、すれ違い様にテツにお辞儀をすると、パンを手にそそくさと部屋に戻っていった。

 アヴリルの分だろう。本来魔獣は人の魔力を吸収できるなら、食べ物は無くても平気だそうだが……メイ子もよく一緒に食べていた。

 食べている姿が可愛くて、ついついあげてしまうのだ。




 シエルとテツがラルムのテーブルに着く。

 ラルムは殆ど食事が進んでいなかった。


「ラルム。あんまり食べてないな……」


「ええ。久しぶりで疲れたわ。……あの子、何も話さないし……」


 あの子とはスピラルの事だ。まだ無口な方が楽ではないかと思うシエルだったが、それは口にしないことにする。隣のテーブルが騒がしい。


「カシミルド! ほら、もっと食べなさい」


 ルミエルが自分の分までカシミルドにパンを勧めている。テツがそれを見てルミエルに尋ねた。


「ルミエル君はカシミルド君の世話を焼くために付いてきたのか?」


「はい! モチロンですの!」


 ルミエルは満面の笑みで答えた。




 カシミルドは疲労感たっぷりで部屋へ戻った。あの後もルミエルがずっとくっついてきた。

 どうしてもルミエルに触れられるとリュミエの顔が過り、背中の辺りがゾクゾクする。


 固いベッドに身を投げると、クロゥが頭をつついてきた。


「おーい? ルミエルに何かされたか? あいつの匂いがするぜ?」


「えー? 別に何も……でも疲れた。あの子、本当にリュミエそっくりだよね。気配とか魔力とか……母子ってそんなに似るのかな?」


「あー……おっ他の奴らも戻ってきたな。俺は外で寝るから、じゃあまたな」


「うん。また明日……ふわぁ……」


 クロゥはテツとシエルの気配を感じとると、窓から外へ飛び立って行った。


 テツもシエルも、部屋へ戻るとベッドに直ぐに横になろうとした。カシミルドは既に半分夢の中だ。

 三人とも眠りにつく前にテツが尋ねた。


「二人とも、寝る時に灯りは無くて大丈夫か?」


「俺、少し明るいくらいがいいです……」


「じゃあ……」


 カシミルドがランタンに手をかざすと、灯りがほんのり弱まった。星明かりと入り交じり、部屋を優しく照らす。


「ほー。そんなことも出来るのか。便利だな……」

 

「…………」


「こいつ寝るの早いな……テツ様。今日はお疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」


「ああ。おやすみ」



 ◇◇◇◇



 女子部屋では、スピラルが急いで着替えを済ましていた。二人が帰ってくる前に着替えたかった。

 その隣で、アヴリルとメイ子がパンを食べている。


「スピラル。ここは女の子の部屋なのの。何でスピラルもいるなのの?」


「……俺が聞きたいよ。でも俺、男苦手なんだ。同じ部屋とか……ムリかも」


 想像しただけで吐き気がする。スピラルはベッドに倒れ込んだ。メイ子とアヴリルはスピラルに寄り添ってベッドに潜る。


「スピラル? 今はメイ子達が一緒なの。困った時はメイ子に言うなの。スピラルはメイ子とアヴリルと……後、頼りないけどカシィたまで守るなのの」

「むう!!」


 メイ子は胸を張ってそう言った。

 それにアヴリルも続く。


「そんな小さな丸っこい体で言われてもな……アヴもメイも俺が守るよ。ありがと……」



 スピラルはアヴリルとメイ子を抱きしめた。

 二倍のモコモコは宿の枕より遥かに柔らかかった。



 ◇◇◇◇



 カンナとラルムが部屋に戻ってきた。真ん中のベッドでは、スピラルがスヤスヤと眠っていた。


「スピラルちゃん。もう寝てる」


「……魔獣!」


 スピラルが抱きしめる二つの毛玉を、ラルムはまじまじと見つめた。カンナも自分のベッドに白い毛玉を置く。

 ラルムの視線がカンナの毛玉に移った。


「あ、これはぬいぐるみですよ」


「…………」


 ラルムは残念そうに自分のベッドに入っていった。

 ラルムの哀愁ただよう背中に、カンナは申し訳ない気持ちになる。ラルムは大人っぽい雰囲気だが、意外と可愛らしい面があるようだ。


「あの。メイ子ちゃん達と仲良くなりたいなら、餌付けが一番ですよ。私もそれで仲良くなったので!」


 ラルムはそのアドバイスに何の言葉も返さなかったが、ベッドの上で手帳を取り出し、こっそりメモした。

 


 ◇◇◇◇



 皆が寝静まった頃。ルミエルとレーゼラの部屋にて、光の鎖に縛られたクロゥが真ん中のベッドに正座させられている。ルミエルは隣のベッドに足を組んで座り、クロゥを見下すように微笑みながら言う。


「ごきげんよう。初めまして、クロゥ。私はルミエル=ブランシュ……リュミエお母様に代わって、私がカシミルドにお供しますわ。余計なことをしようとしたら……」


 ルミエルの瞳に光が帯びる。

 その気配にクロゥは身震いした。


「しっしねーよ!」


「黒い小鳥君は従順ですね。格下の私にまんまと捕まってしまったご感想を聞きたいのですが?」


 大人しいクロゥを見て、レーゼラがほくそ笑む。


「性格悪いな。お前ら。……ん? ルミエルとレーゼラが居るってことは。王都に残ったのはレーゼルか? ケケケッ。レーゼルがアレかよ……」


「あら? クロゥこそ性格悪いじゃない。ねえ? もしカシミルドに私のヒミツを話したら……またお仕置きしちゃうわよ?」


「……ルミエル。お前、カシミルドといる時と性格違い過ぎねぇか?……あいつは裏表ある女嫌いだと思うな~。意地悪な女も、嘘つきも……ぐはっ」


 レーゼラがクロゥに巻かれた鎖を引き絞る。

 クロゥから嗚咽が漏れた。


「クロゥ様。言葉が過ぎますよ。ルミエル様はこれでも彼に好かれようと努力を……」


「レーゼラ。黙りなさい……クロゥ。私と彼の邪魔をするなら……あら? この気配は……」


 ルミエルは急に壁の方に顔を向けた。

 壁の向こう、隣のカシミルド達の部屋へ意識を集中させて何か探っているようだ。


 クロゥとレーゼラも壁を見つめる。


「まさか……でも。……レーゼラ。クロゥと待っていて」


 ルミエルは何かブツブツ呟きながら、二人を残して部屋を出ていった。

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