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天使の祝福があらんことを  作者: 春乃紅葉@コミック版『妹の~』配信中
第二章 東方への誘い 第一部 東方視察団
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第十五話 休憩地点にて

 昼食を食べ、小一時間程休憩してから出発となる。

 食後にカンナは、テツに乗馬を教えてもらっていた。


 さすが山羊を乗り回していただけの事はある。

 もう既に手馴れた様子で手綱を握っている。


 カシミルドはそれをスピラルと眺めていた。

 アヴリルとメイ子も二人並んでくっついて見ている。


「スピラルは馬に乗れるの?」


 スピラルは小さく首を振った。


「そっか。僕もだよ。ねえ。スピラルは甘い物好き?」


 スピラルは少し考えた後、また首を振った。

 ……会話が続かない。スピラルは何が好きなんだろう。


 カシミルドは頭を悩ませた。

 ふと、スピラルの視線を辿ると、アヴリルを見ている。


「スピラル。アヴリルはどう? 仲良くなれた?」


 スピラルは背筋をピッと伸ばし、カシミルドを横目で見ると、恥ずかしそうに視線をアヴリルに落として頷いた。

 そしてアヴリルに向かって手を広げる。


「アヴ。おいで」


「むぅ~」


 スピラルの言葉に反応して、アヴリルが飛んできた。

 ついでにメイ子も後についてくる。


「カシィたま~」


 二人とも御主人様の手中に収まりご満悦だ。スピラルの表情は余り変わらないが、微笑んでいる様に見えた。


「スピラルは……どう思ってる? 視察団の事。本当は僕の故郷に帰る予定だったのに……巻き込んでごめんね」


 スピラルはアヴリルとじゃれ合いながら首を横に振る。

 大丈夫って事かな。


 スピラルは首を動かすだけで何も言葉は発しない。

 やっぱり嫌われているのかもしれない。


「スピラルは何かしたい事とかある? 視察が終わったら……僕自身、どうなるのか分からないけど……スピラルも何がしたいか、何処にいたいか考えてみてね。スピラルがしたいことが出来るように、手伝うからね」


「……俺は、アヴリルと一緒ならそれでいい。お前こそ大丈夫なの?」


 スピラルは急にスラスラと喋り始めた。

 カシミルドは驚いて返答に焦る。


「えっ僕!? 僕は大丈夫だよ。多分……」


「……人の心配より、自分がちゃんとしろよ。見てていつも危なっかしいから」


「はい……」


 まさかスピラルに自分が心配されるとは思っていなかった。表情からは感情を読み取らせないスピラルだが、アヴリルが懐くだけあって、心の優しい子なのだろう。



「カシィ君! スピラルちゃん!」


 遠くの方から、カンナが馬を繋ぎこちらに走っていた。


「練習おしまい?」


「うん。大分馴れてきたし。そうだ、カシィ君に見せたかったんだ。……これ! パトさんがくれたの」


 カンナは腰から短刀を抜いて見せた。

 メイ子が短刀を食い入るように見つめる。


「むう!? メイ子、それ知ってるなのの。持つところに付いてるの、セイレーンの鱗なのの!」


「へぇ~。セイレーンってシレーヌさんの種族ってこと?」


 カンナは短刀を頭上にかざすと、七色に反射する光を二人に見せた。


 刀身が珊瑚礁。

 滑らかで艶やかな持ち手がセイレーンの鱗。


 海から作られた短刀だ。

 カシミルドはそれを見て、パトの言葉を思い出した。


「あ! そういえばパトさん。シレーヌによろしくって言ってた……かも」


「かも? 知り合いなのかな?」


 カンナの声に反応して、カシミルドのフードからクロゥが顔を出した。


「あっ。カンナちゃん! メイ子の運搬、カンナちゃんにお願いするぜ。俺はカシミルドにくっつから」


「私は大歓迎だよ! モコモコメイ子ちゃん久しぶりだぁ~」


 カンナはメイ子を掌に乗せ、その柔らかさに悶絶した。

 この姿のメイ子を触るのは初めてだ。人型の時とは毛のモコモコ感が違ってこれはこれで最高に癒しだ。


「カンナ。よろしくなのの」


「うん。ポシェットに入っててね! 後少ししたら出発だから」


 メイ子はカンナのポシェットにすっぽり収まった。



 ◇◇◇◇



 ルミエルは食後にレーゼと二人で農家の裏で密談をしていた。ルミエルは不機嫌そうにレーゼに言葉を返す。


「わかってますの。もうしましせん」


「その言葉。お忘れのないように……それと、先程のテツ様を御覧になりましたか?」


「? 見てないわ。怒ってましたし、目は合わせ辛かったですの」


「……魔方陣を剣で弾き消した事。を指したのですが」


「へ? 知らないわ。特殊な剣なのかしら?」


「いえ。その様には見えませんでした……あ」


 レーゼは何かに気付き、空を指差した。


 遠くの方から、白い鳥の形をした手紙がこちらへと飛んでくる。ルミエルが目でレーゼラに合図した。


「光の鎖よーー」


 レーゼラは鎖を形成すると、それを使って手紙を捕らえルミエルに渡した。ルミエルはその手紙を確認すると、封を開ける。


「あ。良いのですか?」


「ええ。女性から、カシミルド宛の手紙ですもの。私が見ないと……」


「……そうですか」


 ルミエルは手紙の内容を声に出して読んだ。


「バカシミルドへ……あら? バが余計ですの。えっと……手紙が遅い。油売ってないで早く帰りなさい。隠し部屋で面白い者を見つけました。五代前の族長を覚えてる? このヒントでわかる? 実はグリヴェールが案内をしてくれたのです。グリヴェールの事を知ったら帰らずにはいられなくなるでしょう。彼女は……」


 ルミエルはそこで読むのを止めた。


「ルミエル様。どうされましたか? グリヴェール、何処かで聞いたことのある名前ですが……」


「ええ。カシミルドを隠していたのはグリヴェールの仕業ね……。嫌がらせかしら。レーゼラ、このミラルドって女は誰? カシミルドと親しげで姓も同じ……まさか妻かしら!!」


「は? それは無いかと……」


 錯乱するルミエルにレーゼラは冷静に返した。

 ルミエルはそれでも気が気ではない。


「今すぐ調べに……」


「ここから私が居なくなるのは不自然すぎますので、今は無理です」


「んーー!? どうするのよ! 取り敢えず、この女からの手紙は全て回収するわよ。カシミルドに……と言うより、クロゥに知られたら面倒だわ。……グリヴェール。それにミラルド。目障りね……」


「……」


 ルミエルはミラルドの手紙を粉々に切り刻み風に飛ばさした。



 ◇◇◇◇



 テツから出発の号令が出た。

 カシミルドは先程同様シエルの馬に乗ろうとしたが、シエルに拒否されていた。


「テツ様。ペアを変えて欲しいです」


 シエルが真剣な面持ちでテツに訴えた。

 するとルミエルが嬉しそうに飛び上がる。


「私の馬にどうぞ。良いわよね。レーゼ!」


「私は構いませんが……」


 レーゼはシエルを見下ろしながら答えた。

 シエルは嫌そうな顔をしている。


「レーゼ殿が良いならそうしよう。シエル。良いか?」


「……はい」


 ルミエルは両手を上げて飛び上がった。



 ◇◇◇◇



「よろしくお願いします」


 カシミルドは緊張しながらそう言うと、レーゼの手を借りて馬に乗った。


 レーゼは背が高いので、カシミルドを前に乗せてくれた。背中にレーゼを感じる。

 一度背後から襲われたことがあるが……何となくあの時と雰囲気が違う。


 恐らく後ろに居るのはスピラルを捕らえた方のレーゼだ。確か魔法を使う方が女性のレーゼだとクロゥが言っていたから……。


「あの。レーゼさんは女性の方のレーゼさんですよね?」


「? 正解だよ。カシミルド。……でも私が双子なのは内密に頼むよ。私たちは二人で一人。今は分かれてしまったが。本来は、どちらかが常にリュミエ様の隣に。そしてもう一人は、影からリュミエ様をお守りするんだ」


「じゃあ、今はルミエルを守るために別々になったんですか?」


「んー。まあそんなとこだな。教団内は兄が。教団外の事は、私がリュミエ様の命を聞くんだ」


「何々? 白い小鳥ちゃん。カシミルドにはよく喋るな。ルミエルに聞かれたら叱られっぞぉ~」


 クロゥがフードから顔を出してレーゼを冷やかした。


「おや? 黒い小鳥君は元気になったようだね。また遊んであげようか?」


「お前なぁ。格下の癖に生意気だぞ。お前一人になら絶対捕まらねぇからな!」


 カシミルドの背中で二人が闘志を剥き出しにしている。

 仲が良いのか、悪いのか。カシミルドはどちらかよく分からなかった。


「止めなよクロゥ。喧嘩したらテツさんに言うからね。……そうだ。レーゼさんって名前は何て言うんですか? 二人ともレーゼでは無いですよね?」


「名前……レーゼラだ。兄はレーゼル。ーーでも、双子はリュミエ様しか知らないからな。その名で呼ぶのもリュミエ様だけだ……」


「じゃあ僕は、レーゼラさんって呼んでもーー」


「だっ駄目だ。……他の者に聞かれたら困るだろう」


 レーゼラはカシミルドの言葉を遮って、その申し出を断った。

 しかし名前を呼ばれる事に悪い気はしなかった。

 むしろ……嬉しい。


「おい。うちの天然坊やに顔紅くしてんじゃねぇよ。レーゼラちゃん?」


「くっクロゥ様。鎖で縛り上げますよ!」


「うわ~カシミルド~レーゼラちゃん怖い~」



 ◇◇◇◇



 和気藹々としたカシミルドを乗せた馬の後ろで、悪態をつく少女がいた。シエルの背中に掴まり、頬を膨らませている。


「ねえ。何でよ?」


「お前が言ったんだろ? 俺に聞くなよ」


「ちょっと!? シエル。口の聞き方がなっておりませんのよ!」


 ルミエルがシエルの背中をポコポコと両手で叩きながら言う。


「ちゃんと掴まれよ。落ちても知らねーからな。それにお前年下だろ? シエルさんって呼べよ」


「……そうね。シエルさん。道中よろしくね」


 シエルの背中にゾッと悪寒が走る。

 後ろの女はやはりヤバい。


 これならまだカシミルドの方が可愛いものだった。

 シエルは秘かに後悔した。


 

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